Monsters we are, lest monsters we become.
INTRODUCTION
「Vampire:The Masquerade」(ヴァンパイア:ザ・マスカレード)。
米国White Wolf社が91年に発表したこのロールプレイングゲームは、当時のRPGゲーマーたちに大きな衝撃を与えました。戦士や魔法使いとしてモンスターとの格闘に励んだり、どこかの惑星のトラブルシューティングにいそしむことが主流だったロールプレイングゲームに、まったく新たな息吹を吹き込んだからです。
それは従来、倒されるべき悪漢でありモンスターだった「ヴァンパイア」(吸血鬼)を演じるという画期的なアイデアでした。しかも、そのヴァンパイアたちは、ハマーフィルム的ステロタイプな貴族然とした化け物ではなく、アン・ライス他のモダンホラー作家によって案出された「人間としての情感と、怪物としての本能の狭間に苦しむ一個人」でした。さらに、舞台が陰影の強い現代社会に設定されたことで、私たちの住む世界の影で暗闘を永劫に続ける吸血鬼を主人公にした、今までにないピカレスク・ロマンを楽しむことができるようになったのです。
こうして「Vampire」は熱狂的なファンを生みだし、White Wolf社は続いて「Werewolf」「Mage」「Wraith」「Changeling」と同じ世界に住む異種族をプレイするゲームを発表し、これらも熱い支持を受けました。それでも、「Vampire」は旗艦的作品として今もシリーズ中最も多くのファンを集めています。
現在、「Vampire」は第3版に相当する「Revised Edition」が発売されています。
また、この第3版を底本とした日本語版がアトリエ・サードから発売されています。
それでは、「Vampire:The Masquerade」の世界を概観していくことにしましょう。
The World of Darkness
「Vampire」の物語は現代世界を舞台としています。そこは一見、私たちが暮らすこの世界となんら変わらないように見えます。同じ事件が起こっていますし、テレビをつければ同じ芸能人が同じ番組に出ています。日常使う品物も同じものです。普通に暮らすぶんにはまったく変わらぬ感覚で生きていくことができるでしょう。
しかしこの世界は、私たちの住む世界とは微妙に異なっています。「ワールド・オブ・ダークネス」(暗黒の世界)と名づけられたこの世界は、より闇が深く、悲惨が横行し、そして何よりも神話や伝説上の存在であるはずの超自然存在や魔法が、人々の目をかすめるようにして陰で今でも息づいています。ここは、すべての事象が私たちの世界よりもほんの少し悪いほうへずれた世界。色あせた光とうずくまる闇の混淆するダーク・ワールドです。
「ワールド・オブ・ダークネス」の景色は、「ゴシック・パンク」と称される独特の雰囲気を醸し出しています。昼の間は、摩天楼の街路を無表情な人間たちがそぞろ歩き、日常という名の絶望と無関心に取り巻かれて、ただ日々を空虚な夢の中で生きています。子供たちは希望を削ぎ落とされ、コンクリートの部屋の中で孤独に親の帰りを待っています。薔薇色の人生や来るべき終末を声高に語る宗教は日増しに力を増し、虚しい生から抜け出すすべを求める人々を蜘蛛の糸のようにからめ取っているのです。
夜になれば、風景は一変します。蒼白き月が摩天楼を照らす中、ひとけがなくなり、ホームレスがたむろする路地や暗い公園では、闇にまぎれた犯罪や暴力が横行し、その犠牲者たちは誰に知られるともなく悲惨な死やもっと酷い運命をたどります。昼間の空虚な生に飽き飽きした人々は、一夜の歓楽に身を任せるため、不夜城と化した裏路地で虚しいらんちき騒ぎに励みます。高層ビルの上で権力抗争にうつつを抜かす政財界の“大物”たちは、利己的な退廃と堕落に落ち込んでいます。そんな夜陰の中では、純粋なるものや聖なるもの、希望と名の付くものはすべて駆逐されてしまうしかありません。
そして、廃棄物によって汚れきった川や海から漂ってくる霧は、こうした腐敗と惨劇のすべてをあいまいな景色に変え、その中で宗教の高揚を象徴するかのようなどっしりとした石造りのビル群が高くそびえるさまは、大都市が“文明人”たちが自分で作り出した牢獄に他ならないということを暗示しているのです。
こうした暗澹たる都市の裏側では、人知れず怪物たちがうごめいています。生き血をすするヴァンパイアはその代表格であり、すでに数千年もの長きに渡って、獲物たる人間たちの巣に寄生し、その社会を影から操り続けながら、血で血を洗う同族争いを続けてきました。「ワールド・オブ・ダークネス」の都市が、陰惨な恐怖と破滅の気に満たされているのは、彼ら吸血鬼が自らの隠れ家を作り、安全に獲物を狩ることができるように仕組んできた結果ともいえるのです。
Damned Immortal
闇の種族ヴァンパイアの歴史は、人類の曙光とともに始まりました(詳しくは別項参照)。彼らの夜の生は、肉食動物同様に獲物たる人間なしには片時も立ち行かないものなのです。それゆえに、逆に彼らの生態について人間たちはさまざまな伝説や怪談を伝え残してきました。その中には真実も含まれていれば、まったくの勘違いもあります。ヴァンパイアたちは歴史のある時点から人間の前に姿を現すことをやめてしまったため、彼らの実相については数限りない誤解が生まれて今日まで伝わっているのです。
それでは、ヴァンパイアとは一体どんな特徴を持つ種族なのでしょうか?
ヴァンパイアは、完全に夜行性の種族です。彼らは日が没してからでなければ目覚めることができず、夜明けが近づけば深い眠りに落ちるのです。そして何よりも、ヴァンパイアの肉体は、日光を浴びるとひどい火傷を負い、強い太陽光に長時間当たれば燃え上がって消し炭になってしまいます(なお、ただの光ならば何の害もありません)。彼らにとって太陽は天敵であり、昼間の間この致命的な光を避けるために必ずどこかに寝処(Haven)を確保しておかねばなりません。また、火もヴァンパイアに致命的なダメージを与えます。燃えさかる家の中で滅んでいったヴァンパイアは過去無数に存在するのです。そしてもうひとつ、首をはねられてしまうとヴァンパイアは二度と復活できません。このような致命的な負傷を受けて滅んでしまったヴァンパイアが本来の“人間としての”寿命を越えて生きていた場合、その死骸は一瞬のうちに崩壊し、塵と化してしまいます。ヴァンパイアたちはこの滅びのことを恐怖を込めて「永遠の滅び」(Final Death)と呼んでいます。
ヴァンパイアは(当然ながら)血を飲まねば生きていけません。彼らが活動するには必ずいくばくかの血を体内に蓄えておかねばならないのです。そうした血は時間が経つにつれて次第に減少していきますから、定期的(普通は一日に一回)に少量の血液をどこからか供給してこなければなりません。血が少なくなりすぎると飢えで狂い始めますし、血が尽きてしまえば動けなくなってしまいます。
いまだはっきりした理由はわかっていませんが、ヴァンパイアは心臓を串刺しにされるとまったく身動きできなくなってしまいます。民間伝承で語られるように杭で打たれただけでは滅びはしませんが、無力化されてしまったヴァンパイアほどか弱い者もないでしょう。なお、串刺しにする道具は別に木の杭でなくてもかまいません。ヴァンパイア・ハンターの多くがボウガンを用いるのはこのためです。
こうした弱点を持つ一方で、ヴァンパイアはその他の種類の負傷やダメージではまず死ぬことはありません。彼らは信じがたいほど強い回復能力を持っており、獲物から奪って体内に蓄えてある血液を消費することで、人間ならば死んでしまうような傷でさえも素早く癒してしまうことができます。もちろん、血が足りない状態でひどい怪我をするのはかなり危険ですが、それでも「休眠」(Torpor)と呼ばれる深い眠りに落ちるだけで、完全に死んでしまうことはありません。
そして、ヴァンパイアは不死の存在です。彼らには寿命というものがありません。太陽光や火などの原因によって滅ぼされない限り、ヴァンパイアは永遠に生き続けるのです。事実、はるか古代に生まれた者が現代でも生存していますし、この不死であるということが、彼らの社会を特異なものにもしているのです(詳しくはこちらを参照)。
ヴァンパイアの外見は、彼らが人間からヴァンパイアになったとき(そう、ヴァンパイアは人間から生まれるのです!)の姿を永遠に保ち続けます。髪の毛の一本、爪のひとつひとつに至るまで、まったく変わることはありません。一時的に切り落としたとしても、次の夜目覚めたときには元に戻ってしまっています。そして、たとえ数百年の時を生きたとしても、ヴァンパイアの外見は毫も変わりません。青年のときにヴァンパイアとなった者であれば若い姿を保ったままですし、老年だったなら永遠に老人の姿をしています。子供のときにヴァンパイアにされたのならば、永久に成長しない不死の子供となります。
ヴァンパイアは、人間とは違って捕食動物です。彼らのメンタリティは狩猟生物のそれであり、雑食である人間に比べてはるかに本能の精神に占める割合が大きいのです。それでも通常、ほとんどのヴァンパイアは人間と同様(つまり人間だったころと同様)の精神や行動基準をもとに生活を送っています。ぶっちゃけた話、夜しか出歩けないことと、血を吸わねば生きていけないことを除けば、彼らは人間と変わらないのです。少なくとも一見したところでは。
ヴァンパイアの狩猟者としての本性があらわになるのは、やはり飢えた時が一番です。体内に蓄えてある血の量が少なくなるにつれ、ヴァンパイアは種族としての本来の凶暴性と野獣性を剥き出しにし始めます。これは、檻に閉じこめられた“獣”のたとえで長年語られてきました。この“獣”は、理性や文明といったものとはまったく無縁の凶暴な殺戮衝動と野蛮性であり、それを閉じこめておく檻の鍵は、体内の血とヴァンパイア本人の自制力と理性の強さなのです。もし鍵のどちらかが崩れてしまえば、“獣”は容易に檻の外、すなわち意識の表層に飛び出してしまいます。そうなれば、待っているのは際限のない破壊と悲劇です。ヴァンパイアははるかな昔からこの“獣”という招かれざる配偶者をどう抑えておくかというすべを模索し続けてきました。飢えは常に血を供給し続けることで、そして人間らしい理性を何とか保ち続けることでです。
多くの野生の獣は火を怖れます。それが自分たちを傷つけることが本能的にわかっているからです。それと同じように、ヴァンパイアも自分を滅ぼしてしまう存在、つまり太陽光や火に対して病的なまでの恐れを抱きます。もしそうしたものにまっこうから直面した場合、ヴァンパイアは本能的に逃げ出してしまいます。踏みとどまるには強固な意志の力が必要となります。この本能的な衝動行動を「紅の恐怖」(Rotschreck)と呼びます。場合によっては、強固な信念に裏打ちされた「真の信仰」(True Faith)を持つ人間がかざした神具(十字架など)の前でも「紅の恐怖」が引き起こされることがあります。ヴァンパイアが十字架に弱いという伝説の多くはここに起因しているのです。
ヴァンパイアの血は非常に強い魔力を秘めた霊薬ともいえます。何しろ、この血によって死者が吸血鬼として甦るのですから。ですから、ヴァンパイアが別のヴァンパイアの血を飲むということには、重大な影響が伴います。もし、別のヴァンパイアの血を別の時間、別の場所で合計三回飲んでしまうと、飲んだヴァンパイアは血を提供したヴァンパイアに精神的に呪縛されてしまいます。これを“血の契り”(Blood Bond)と呼びます。
呪縛されてしまったヴァンパイア(「奴隷」と呼ばれます)は、いわば提供元のヴァンパイア(「主」と呼ばれます)に盲目的な恋をしてしまったのと同じような感情を持ってしまいます。たとえ、どれほどひどい扱いを受けようとも、“血の契り”にかかっている限り、「奴隷」は「主」のためにはたらき、危険に飛び込むことも厭いません。「奴隷」は自分が呪縛されていることに気付いていますが、あふれ出る感情を自分でどうしようもないのです。
“血の契り”を断ち切るには、長い時間「主」と顔を合わせず、連絡も取らないようにすることが必要です。もし虐待されていれば比較的早く解き放たれるでしょうが、優遇されていた場合は、はるかに長い時間がかかるでしょう。
Vampiric Powers
ヴァンパイアは超自然生物であり、人間にはないさまざまな超常能力を有しています。上に挙げた回復能力や不死ということとは別に、彼らは「訓え」(おしえ:Discipline)という名で呼ばれるカテゴリー化された特殊なパワーを修得することができるのです。訓えこそが、超人的な腕力、石のように固い肉体、コウモリや霧に変身する能力、一瞬の内に姿を消す力、人間を魅了するパワー、といった民間伝説に語られるさまざまなヴァンパイア・パワーです。
しかしヴァンパイア全員がそういった能力をすべて有しているわけではなく、ヴァンパイア各人はいくつかの訓えに習熟しているにすぎません。ある者が狼への変身能力を持っていたとしても、別のヴァンパイアはそんなことはできないかもしれません。特に、どの氏族(後述)に所属しているかによって、得意な訓えはある程度決まってきます。
訓えには実にさまざまなカテゴリーがあり、それぞれのカテゴリー別に熟練段階(つまりレベル)が設けられています。ヴァンパイアは、長期間に渡る経験と学習によって、訓えのレベルを上昇させ、さらに強大なパワーを得ることができるわけです。同じ『支配』(Dominate)の訓えを持つ者でも、レベル1の者では一言の命令に従わせることしかできないのに対して、レベル5の者は目標の意識そのものを乗っ取ってしまうことすらできます。
コアルールブックに掲載されている訓えの各カテゴリーの概要は以下の通り。
訓え | 説明 |
---|---|
『威厳』Presence | 相手の感情を左右する力。強烈なカリスマや威圧感を生む。 |
『隠惑』Obfuscate | 姿を消す力。単に隠れることから超自然的な変装まで。 |
『頑堅』Fortitude | 超常的な頑健さ。しばらくの間なら太陽や火にすら耐えられる。 |
『獣心』Animalism | 動物を馴らす力。内なる“獣”の統御も含む。 |
『幻術』Chimerstry | 幻覚を作り出す力。ラヴノス氏族の特技。 |
『剛力』Potence | 超人的な腕力。鋼鉄をも打ち抜く。 |
『支配』Dominate | 相手の精神そのものを支配下に置く。軽い暗示から憑依まで。 |
『粛殺』Quietus | 音も立てず確実に相手を死に追いやる暗殺術。アサマイト氏族の特技。 |
『死霊術』Necromancy | 死霊と交信したり、死者を支配する魔術。ジョヴァンニ氏族の特技。 |
『瞬速』Celerity | 超人的な速度と反射神経。行動回数が増加。 |
『先覚』Auspex | いわゆるESP。超人的な五感やサイコメトリーから幽体離脱まで |
『発狂』Dementation | 相手を錯乱や狂気に追いやる力。マルカヴィアン氏族の特技。 |
『蛇道』Serpentis | 魔の大蛇の力を用いる術。セトの信徒の特技。 |
『変身』Protean | 肉体を変身させる力。夜目を効かせ、狼やコウモリ、霧に変身する。 |
『魔術』Thaumaturgy | 血族の血の力を用いて行う黒魔術。トレメール氏族の特技。 |
『影術』Obtenebration | 深淵より呼び出した夜の闇を操る力。ラソンブラ氏族の特技。 |
『造躯』Vicissitude | 肉や骨を歪曲させる異界の力。ツィミーシィ氏族の特技。 |
Dreadful Rebirth
上で少し触れましたが、ヴァンパイアは他の生物のように自然に生まれてくるわけではありません。彼らは全員、すでに生きている人間から“創られた存在”なのです。その創造過程を〈転成〉(The Change)そしてヴァンパイアを創造することを“抱擁”(The Embrace)と呼びます。つまりヴァンパイアが人間を“抱擁”することで〈転成〉が起こり、結果、その人間は新たなヴァンパイアとして生まれ変わるわけです。
“抱擁”はそれほど難しい儀式を必要とするわけではありません。ヴァンパイアならば誰にでも可能です。まず、“抱擁”しようとする人間の血を一滴あまさずすべて吸い尽くします。当然、その人間は瀕死になり、そのまま放っておけばすぐに死に至るでしょう。完全に死んでしまうまでに、ヴァンパイアは自分の血を少量(一滴でかまいません)犠牲者に飲ませます。すると、犠牲者はしばらくして新たなヴァンパイアとして目覚めます。この際、新生ヴァンパイアの体内には、“抱擁”したヴァンパイア(“父”Sireと呼ばれます)の与えた少量の血しか残っていませんから、彼(彼女)はすぐさますさまじい飢えにさいなまれます。まだこの未知の衝動を抑えるすべを知りませんから、この新生児は容易に“獣”に屈してしまいます。
このときに彼を正しく導き、狩りのやり方と“獣”の抑え方を教えるのは“父”の役目であり義務です。もし正しい教導なしに路地に放り出されてしまったなら、その新生児はほとんどの場合、気が狂うような飢えの中で大破壊を引き起こし、すぐに地元の同族によって殺されてしまいます。まれに、自らヴァンパイアとしての生き方を見つけだしたり、同じような境遇の同族と出逢うことで、生き延びることができる“捨て子”もいます。彼らは「ケイティフ」(Caitiff)あるいは「氏族なし」(Clanless:氏族不明)と呼ばれて、ヴァンパイア社会の中では蔑まれる存在となります。
“抱擁”を受けた後の新生ヴァンパイア(“父”に対して“継嗣”Progenyあるいは“子”Childeと呼ばれます)は、数年の間は“父”のもとで新たな生活に慣れていきます。この間は“雛”(Fledgeling)と呼ばれ、文字通り子供として半人前扱いしかされませんが、“父”の保護を受けることができます。十分な研鑽を積んだと“父”に判断された“子”は、改めて地元の最長老(公子)に謁見し、ヴァンパイア社会の正式な一員として認められて“幼童”(Neonate)と呼ばれるようになります。それ以降は、自分の行為の責任は自分で取らねばなりません。
War of Ages
ヴァンパイアにも世代があります。ただし、彼らは不死ですから人間ほど何百何千と世代があるわけではありません。それどころか、現代でもすべて合わせて13世代余りしかないのです。
ヴァンパイアの始祖は神話上の人物カインです(詳しい逸話はここ)。彼を第1世代として、カインに“抱擁”された者を第2世代、第2世代に“抱擁”された者を第3世代、というように世代は数えられていきます。つまり第13世代ならば、自分の血筋に連なる先祖が12人いることになるわけです。
そして、世代は単なる血筋の系譜ではなく、そのヴァンパイアが持っている潜在力を如実に表しています。具体的には、血の濃さであり、どれだけ体内に血を蓄えることができるか、どれだけ多くの血の力を一度に解放できるか、そしてあらゆる力や才能の上限の高さ、を表しているのです。当然、最も血が濃いのは始祖たるカインであり、世代が下るにつれ、徐々に血は薄く、潜在力も弱くなっていきます。数の若い世代こそ非常に強大ですが、第10世代より後になるともうほとんど潜在力的には変わらなくなってきてしまいます。しかし、世代が表すのがあくまで潜在力であることに注意してください。第7世代のほうが第5世代よりも実際の力においては強いことはいくらでもありえますし、世代はイコール年齢でもありません。数百歳の第8世代がいる一方、まだ“抱擁”後十年にも満たない第5世代もいるのです。どちらかと言えば、世代は、社会的な意味のほうが強いといえます。すなわち、まだ年若くても世代が古ければ(古い者の子ならば)それなりの畏怖を勝ち取ることができるでしょう。
第3世代より以前のヴァンパイアは、普通「アンテデルヴィアン」(Antediluvian:前洪水人)と呼ばれ、ほとんど神話上の存在です。その実在すら現代では疑われているくらいです。しかし彼らはヴァンパイアの伝承では極めて重要な存在です。なぜなら、彼らは「眠れる神」であり、アンテデルヴィアンが目覚めて地上を再び闊歩し始める時こそ、ヴァンパイアにとってのハルマゲドン「ゲヘナ」(Gehenna)の時だと古くから言い伝えられているからです。
ヴァンパイアの世代は、永遠に不変なものではありません。なぜなら「同族喰らい」(Diablerie)と呼ばれる同族喰らいを実行することで、自分の世代をさかのぼらせることができるからです。同族喰らいはそれほど難しい儀式を必要とするわけではありません。まず、自分より世代の若い(古い)ヴァンパイアの血を一滴あまさず吸い尽くします。それに続いて犠牲者の不死の生命の精髄ともいうべきエッセンスをも吸い取ります。すると、犠牲者は滅んでしまい、同族喰らいの実行者の世代は普通は1世代、非常に古いヴァンパイアを喰らったならば数世代、若返ります。当然推測できることですが、ヴァンパイア社会の世代による秩序を破壊してしまう同族喰らいは、ヴァンパイア種族の中で最大の禁忌とされています。実行者は露見すれば「同族喰らい者」(Diablerist)と呼ばれ、容赦なく狩り出されて滅ぼされます。それでも、この行為によって得られるパワーの魅力ゆえに、世界に同族喰らいは絶えません。中には氏族ぐるみで同族喰らいに邁進している者たちすらいます。認める認めざるに関わらず、同族喰らいはヴァンパイア社会に幾度も変動をもたらしてきました。
Eternal Families
上で触れたように、ヴァンパイア各人は、始祖カインから下るあるひとつの血筋に属することになります。そして、その血筋がどの第3世代に由来しているかによって、そのヴァンパイアが属する「氏族」(Clan)が決まります。端的に言えば“父”の氏族がそのまま子の氏族となるわけです。もし、“父”が誰かわからなければ、それは自分の氏族が不明だということになります。これは非常に不名誉なことです。
氏族はヴァンパイア社会の根幹を成す血縁集団であり、おのおのの氏族は非常にユニークな特徴と独特の方向性を持っています。現存する氏族は十三ありますが、どれも反目と協調を繰り返しながらヴァンパイア社会で重要な一翼を担っています。なお、プレイヤーは、主に七つの氏族から自分のキャラクターの属する氏族を選ぶことになります。これらの氏族は、なるべく人間らしくふるまい、人間社会の中に溶け込んで生きていくことを指向するヴァンパイアたちの集まりです。
十三氏族のいずれも数百年から数千年に及ぶ長い歴史を誇っており、ある氏族のメンバーであるということは非常な誇りと誉れがつきまといます。ヴァンパイア各人は、永遠の生の中で決してこの氏族という呪縛から解き放たれることはありません。血族の間で正式に名乗る場合には「○○氏族の第○世代の○○」と告げるのが慣例です(あまり守られてはいませんが)。場合によっては、血親や祖先の名をこれに連ねて宣言することもあります。ヴァンパイアにとって、自分の血筋は威信の源泉であり、何よりも尊重しなければならないのです。一方で、相手に世代や氏族をたずねることは往々にして大変な無礼になるので、注意しなければなりません。
以下は、十三氏族の簡単な紹介です。詳しくは各氏族ごとのページを参照してください(名前のリンクから飛べます)。なお、この説明文はアトリエ・サード社発行の「TRPG:サプリEX」(号外)掲載のものを一部加筆修正して載せています。
十三氏族 | 説明 |
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ヴェントルー/Ventrue | 通称“貴族/Blue Blood”。 ヴァンパイアの間でも支配者的な立場にたつことが多い。氏族を背景にした政敵との闘争と、 陰惨な内部抗争については、どの氏族よりも長い歴史を持つ。 かつてローマ帝国と大英帝国の黒幕であったことで知られている。 |
ギャンレル/Gangrel | 通称“よそ者/Outsider”。 一般的なヴァンパイアと異なり、動物と親和性が高い。ほかの氏族のヴァンパイアに比べれば “獣”とより素直に向き合う傾向にある。自主独立の気風がきわめて強い。 1998年に突然カマリリャを脱退。闇の世界に衝撃を走らせた。 |
トレアドール/Toreador | 通称“デカダン/Degenerate”。 美にひたすら耽溺し、美を生み出す人間を保護、あるいはコレクションする。その反面、政治 に関心を見せる者もいる。 その始祖はマルカヴィアンと親族関係にあったとも噂される。 |
トレメール/Tremere | 通称“妖術師/Warlock”。 不死の秘儀を研究していた古代の魔術師たちが、吸血鬼化して完成した氏族。とある氏族を乗 っ取ることで現在の地位と力を手に入れた。 内部に強烈なヒエラルキーを有するパワーポリティクス集団。 |
ノスフェラトゥ/Nosferatu | 通称“ドブネズミ/Sewer Rat”。 怪物そのものの容姿を有し、一般に「吸血鬼の精神の歪みが、外面にまで現れた」といわれる。 しかし、彼らの精神安定度と完成度はかなり高い。 この氏族が持つ情報網は質量ともに随一を誇る。 |
ブルハー/Brujah | 通称“暴徒/Rabble”。 改革それ自体に意味をみいだし、直情的かつ暴力的な手段でそれを実行する。かつては理想に 燃える哲学者だったが、その理念を潰された彼らは戦いを求めた。その極地が今の姿なのかもし れない。かつての理想郷カルタゴは今もその怨念とともにこの氏族に影を落としている。 |
マルカヴィアン/Malkavian | 通称“狂人/Kook”。 氏族構成員のすべてが狂気に冒されている……それを彼らだけの特徴とするのには少なからぬ 疑義があるが、近年その狂気は悪化しており、ほかの氏族のものたちは恐怖を抱き始めている。 トリックスターである彼らは停滞した吸血鬼社会に動揺をもたらす混沌の存在である。 |
ツィミーシィ/Tzimisce | 通称“悪鬼/Fiend”。 東欧を起源とする極めて非人間的な学匠の氏族。闇の宗教と魔術の徒である彼らは、超常たる 事の意味を求めて、変異の技を駆使した非人道的な実験と研鑽にいそしんでいる。 現在は、ほかの氏族の攻勢で東欧から多くが放逐され、新大陸に第二の故郷を求めている。 |
ラソンブラ/Lasombra | 通称“番人/Keeper”。 すすんで悪の化身たらんとする魔王たちの氏族。暗闇と恐怖を操る術を持った彼らは、この世 に恐怖と悲惨をふりまくことに、吸血鬼としての自らの存在意義を見いだしている。 中世に始祖を滅ぼして以来、彼らは一貫して長老支配と「仮面舞踏会」に反抗してきた。 |
アサマイト/Assamite | 通称“殺し屋/Assassin”。 中東の荒野からやってくる暗殺者の氏族。比類無き殺戮の技を容赦なく同族に振るう彼らは、 十字軍の時代からほかの氏族から憎まれ怖れられてきた。 1998年、長きにわたる呪いを解かれた彼らは、再び大挙して“同族喰らい”を始めている。 |
ジョヴァンニ/Giovanni | 通称“死霊使い/Necromancer”。 イタリアの豪商であるジョヴァンニ一族は、マフィアめいた家族の絆で固く結ばれた氏族であ る。しかしその裏側では、“死”の秘密を知るべく冒涜的な死霊術を連綿と研究してきた。 ヴェネツィアを本拠とする彼らは、その強欲さと秘密主義でほかの氏族から恐怖されている。 |
セトの信徒/Followers of Set | 通称“ヘビ/Serpent”。 古代エジプトを発祥とする暗黒のカルト教団。暗黒神セトを始祖とあがめる彼らは、人間、吸 血鬼をとわず世界のありとあらゆるところに、堕落と腐敗を広めるべく策動を続けている。 麻薬や人身売買などの組織犯罪の糸を引くその力には、ほかの氏族も一目置かざるをえない。 |
ラヴノス/Ravnos | 通称“ペテン師/Deceiver”。 インドに起源を持つ放浪者の氏族。ジプシーと深いつながりがある。生々流転を根本とする独 特の哲学を持っており、物事がひとつに定まることを嫌う幻術師でもある。 2000年に全世界的に起きた“悪夢の週/Week of Nightmare”事件で壊滅の憂き目をみた。 |
氏族ほど大きくないものの、ユニークな特徴を備え、明らかに十三氏族とは区別して分類すべき血筋も無数に存在しています。それらの多くはほんの数人しかメンバーがいなかったり、秘境奥深く隠れているために、ヴァンパイア社会の表舞台に姿を現さなかったりしています。こうした群小の血筋のことを「血脈」(Bloodline)と呼びます。逆に考えれば、氏族は巨大な血脈ということもできます。普通、血脈が創始されたと見なされるのは、創始者がまったく新しい訓えを開発して、子孫を残したときだとされています。ケイティフが自己研鑽の末、新たな血脈を始めることもあれば、既存の氏族に属していた者が分離独立する場合もあります。
以下は、現存する代表的な血脈です。中には数千年の歴史を持つ古い血脈もあります。そうした血統はかつては氏族だったのかもしれません。
血脈 | 説明 |
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サルブリ/Salubri | 額に三つ目の眼を持つ血脈。かつては慈愛に満ちた癒し手として知られた彼らは、中世に 妖術師たちの手によって壊滅した。現在生き残っている者たちも永遠の逃避行を続けている。 伝説では、悪魔狩人としての力を持つサルブリもいるといわれているが、定かではない。 |
バアリ/Baali | 悪魔崇拝者の血脈。地獄そのものから邪悪な力を得た悪魔の吸血鬼である彼らは、草創期 以来、徹底した弾圧と排斥にあって今ではその数は激減している。 |
サメディ/Samedi | カリブ海に突如現れた謎の血脈。その構成員はすべて腐敗したゾンビのような姿をしてい る。一説には、ジョヴァンニとノスフェラトゥを混合する実験の産物だといわれている。 |
不協和音の娘/ Daughters of Cacophony |
ほんの数百年前に現れた若い血脈。歌に魔力をのせることができる特殊な訓えを体得して おり、その構成員はほぼ全員が女性である。沈黙を友としている彼らの真意は計り知れない。 |
Tragic Degeneration
前述した“獣”の制御が、ヴァンパイアとして生きていく上で最も逼迫した課題です。なぜなら、“獣”が解き放たれてしまえば、人間に隠れて暮らすことも、理性すらも失ってしまうからです。同族はそんな輩を許してはくれないでしょう。“獣”の無秩序な解放はイコール滅びを意味すると言っても過言ではありません。
この忌むべき“獣”が一時的に解放された状態のことを“狂乱”(Frenzy)と呼びます。“狂乱”に陥ったヴァンパイアは、一切の理性的な行動ができなくなり、ただ野獣としての本能のままに喰らい、殺し、破壊します。危険が迫れば脱兎の如く逃げ去りますが、もはや彼らにとって世界は狩猟生物同様、敵と味方、そして獲物と危険だけとなります。つまりどれほど人間になりすまして、人間らしく暮らそうとしていても、“狂乱”してしまえば人間など獲物でしかなくなってしまうわけです。多くのヴァンパイアが“狂乱”を全力で回避しようとするのもここに主因があります。
近世以降のヴァンパイアの多くは、人間から隠れて暮らすことを生き延びるための信条としています。この「仮面舞踏会」の掟に従う者たちは“狂乱”を病的に怖れます。しかし“狂乱”も悪いことばかりではありません。“狂乱”している間のヴァンパイアは、野獣的な激怒のうちに、一切の負傷による弊害を無視することができ、極めて強大な戦闘力を有します。このため、人間らしく暮らすことをよしとしない少数のヴァンパイアたちの中には“狂乱”を自ら引き起こし、サーフィンのようにその“波に乗る”すべを開発している者もいます。そうしたヴァンパイアたちは“狂乱”を受け入れたがゆえに、もはやあらゆる意味で人間らしさを失っているため、「Vampire」の基本的なプレイスタンスではプレイヤーが演じることはなく、主人公たちのアンチテーゼを体現する敵として登場します。
人間らしく暮らし、人間にまぎれて生き延びようとするヴァンパイアたちにとっては、自分の心や生活姿勢にどれほど「人間性」(Humanity)つまり人間らしさが残っているかが、“狂乱”を抑えることと同じくらい重要な事です。なぜなら、飢えや一時的な感情の爆発によって引き起こされる“狂乱”は、あくまでまだ押しとどめることのできるものですが、人間らしさに代表される確かな生活信条が崩れ去った結果、理性のたががはずれてしまえば、“獣”の檻は永遠に破壊され、もはや“獣”の暴虐を止めることはできなくなってしまうからです。
このように、ヴァンパイアは内なる“獣”の檻を維持し続けるためには、何か強固な生活理念を保たねばならないのです。そのひとつであり、現在最も主流なのが、「人間らしく生きること」なのです。この理念に従っているヴァンパイアは、人間の間で昔から“邪悪”と見なされている行動、つまり強盗や殺人、強姦、暴力的破壊などを極力控え、人をなるべく傷つけることなく血を獲得し、人間としての豊かな感情や感性を維持していこうとします。具体的には、人間だった頃の自分のままでいようとするのです。
が、「人間性」に従うヴァンパイアの前には困難な道のりが待っています。ヴァンパイアは捕食動物です。人間から血を奪わねば生きていけない以上、人間を傷つけずには自分の生存すら危うくなります。しかし、人間を傷つけたり殺したりすることは、たとえ生きる糧を得るためであっても、人間らしさを徐々に損なっていきます。これがヴァンパイアに常につきまとうパラドックスです。
「怪物にならぬがため、我らは怪物たる」
終わることのない不死の生の中、ヴァンパイアたちはこのパラドックスとどうにかして折り合いをつけ、苦悩しながら、獲物である人間たちと関わり、その中で暮らして行かねばなりません。これこそがヴァンパイアに運命づけられた呪いとも言うことができるでしょう。
「人間性」だけがヴァンパイアの従う生活理念ではありません。「異端審問」が起こり、中世末期に「仮面舞踏会」の掟を全世界的に執行する大組織「カマリリャ」が成立するまでは、「人間性」も数多くある生活理念のひとつでしかありませんでした。「人間性」以外の生活理念のことを「啓発の道」(Path of Enlightment)と呼びます。現代ではほとんどのヴァンパイアが、カマリリャに所属し、「人間性」を奉じているわけですが、カマリリャの敵であり化け物としてのヴァンパイアを誇示する組織「サバト」、独立を保つ氏族、そして隠れ潜む無数の者たちの間では、それこそ数え切れぬほどの「啓発の道」が開発され、求道されてきました。
「啓発の道」は、何らかの基本概念や伝説をもとにして構築されます。例えば、サバトでは、吸血狩猟種族ヴァンパイアとしての自己認識を第一にすえ、人間を自分たちに喰らわれるべき劣等種族と見なす純粋な食物連鎖の概念に基づく「啓発の道」がいくつも模索されています。独立氏族ではその氏族の理念に基づく特異な「道」が開発されています。その多くは他のヴァンパイアには理解しがたいものであり、同族争いの遠因ともなっています。
「啓発の道」は「Vampire」の中でも、まったく人間とは異質なキャラクターを演じることを可能にする点で非常に特徴的な概念ですが、基本的なプレイスタンスにおいてはその特異性ゆえに、プレイヤーキャラクターのアンチテーゼとして登場するにとどまるのが普通です。参加者全員が「Vampire」に通じており、あえて異質な主人公をプレイしたいときにだけプレイヤーに許可すべきでしょう。
Miserable Servants
夜の種族であるヴァンパイアは、自らが動けない昼間に主人に代わって雑用をこなしたり、隠れ家の警護を行ったりする人間の従僕を必要とします。こうした召使いたちにはいろいろな種類があります。
給料などを報酬にヴァンパイアに雇われたり、訓えによって魅了されたり支配されたりした人間が従僕として使役されることがあります。彼らは自分の主人が超自然のアンデッドであることを知らないことがよくあります。ヴァンパイアの支配するギャング団の平メンバーなどはこうした部類に入るでしょう。
血を飲み干されることなくヴァンパイアの血を飲んだ人間は、「グール」(Ghoul)と呼ばれる存在となります。
「食屍鬼」と呼ばれる彼らは、肉体的には完全な人間であるため、昼日中でも出歩くことができ、血を定期的に飲む必要もありません。それにもかかわらず、体内に入れたヴァンパイアの血の力によって、彼らは人間以上の腕力と、ヴァンパイアと同様の肉体回復能力を獲得します。強力なヴァンパイアの従僕ならば、訓えを操ることすらできます。また、定期的に(だいたい毎月1回)ヴァンパイアの血を飲んでさえいれば、彼らは年を取ることもなく、老衰死することもありません。まさにヴァンパイアの血とは不死の霊薬なのです。
こう聞くと、グールになるのは非常な恩典のように思えます。しかし、その代償は非常に高いものです。まず、肉体回復能力を持つといっても、それは主人からもらった血を消費して行うものですし、ひどい傷を受けてしまえば人間と同様にすぐ死んでしまいます。そして何よりも、グールとはいわばヴァンパイアの血という強大な霊薬に“麻薬中毒”となってしまっている人間なのです。彼らは、頻繁に主人の血を飲まなければ強烈な禁断症状にさいなまれることになります。また、上記の“血の契り”の効果も同じように受けてしまうため、ほとんどのグールは主人に絶対服従しなければなりません。どんな虐待を受けても靴を舐めんばかりに血を懇願する姿は、もはや人間としての尊厳などかけらもないものだと言えます。麻薬中毒が人の精神を破壊するように、グールたちの多くも何らかの精神錯乱を患っており、邪悪な主人たち同様の化け物じみた心を持っていることも珍しくありません。それでも、強欲な人間が不死を望むことをヴァンパイアは知っていますから、自分の血を報酬にそうした不運な者たちを魅了していくのです。
ノスフェラトゥ氏族のように地下や荒野に住むヴァンパイアは、時々動物に血を与えてグールとします。動物の高い感知能力や敏捷性は召使いとして高い価値を持つからです。ヴァンパイアが動物を操るという民間伝承は訓えだけでなく、こうして支配されたグール・アニマルたちの姿にも由来しているのでしょう。
今を去ること数百年の昔、恐るべきツィミーシィ氏族のヴァンパイアたちは、その祖国たる東欧で、氏族の支配下にある部族の長の家系に魔術実験を施し、その家の血筋そのものにグールとしての性質を埋め込むことに成功しました。以来、その血筋を引く人間は生まれながらにしてグールであり、ツィミーシィに忠誠を誓う存在となるようになりました。彼らは「レヴナント」(Revenant)すなわち「屍鬼」と呼ばれ、現在ではサバトの忠実なしもべとして世界各地で暗躍しています。レヴナントとなった家系にはいくつかあり、そのそれぞれがあたかもヴァンパイアの氏族のように独特の特徴を持っています。彼らはグールのエリートであり、生半可な若いヴァンパイアよりもはるかに強大な力を有していることがしばしばです。
Final Nights have Begun
血族(Kindred)と彼らは自らをそう呼びます。現代の服装に身を包み、摩天楼そびえる都市の深夜を闊歩する人の姿をした人ならざる者たち。数千年にわたって現世の黒子として跳梁し続けてきた彼らはしかし、その超人的な力を持つがゆえに、この終末の時代にあっても永劫の骨肉の争いから逃れることはできません。
人より生まれ、人の姿を保ちながらも、人を超えた存在、人を喰らう存在となったヴァンパイアたちは、その身の内に内包する矛盾と葛藤していかなければなりません。そして安らぎをもたらすはずの死すら彼らに背を向けています。
凄惨な美と胸破れるほどの悲哀、暗き栄光の道と奈落への陥穽。それらに少しでも惹かれるものを感じるなら、「Vampire」は決してあなたを裏切らないはずです。
さあ、血に彩られた舞台の幕があがります。
ようこそ、「Vampire:The Masquerade」へ!