セトの信徒(セト人)

Children of the Endless Night

FOLLOWERS OF SET(SETITE)

 セト人。
 セトの信徒と呼ばれるこの恐るべき氏族は、全世界を敵に回して戦い続けている破滅と堕落の使徒たちです。その名が示すとおり、彼らの奉じる始祖は古代エジプトの暗黒の神「セト」。数千年前のナイル川沿岸に発祥した争闘は、現在に至るまで続いているのです。


暗黒の神話

From the Deserts to the Cities

 約七千年前、肥沃なるナイル川の岸辺にセトは人間として生まれました。彼は優秀な戦士であり狩人でした。彼に匹敵する者は兄であるオシリスだけでした。セトとオシリスはナイル川沿岸を征服した強大な部族の長であるラーの許されざる孫でした。老王ラーは自らの権力が奪われるのを怖れ、子であるゲブとヌトに子を作ることを禁じていたのです。その禁を破って生まれたのがこの兄弟でした。

 彼らが成長し、妹であるイシスとネフティスと結婚する頃になると、ラーは疑心暗鬼を深め、ついにゲブとヌトは狂った父王によって処刑されてしまったのです。ゲブは生きながら埋葬され、ヌトの死骸は禿鷹の餌にされました。セトは両親の悲運に怒り、ラーに戦いを挑みましたが、敗れ、荒涼たる砂漠へと追放されました。

 卑劣なるオシリスはラーにへつらい、セトの追放にも何も言いませんでした。そして彼はラーの死後首尾良く上下エジプトの王の座につきました。オシリスはラーを太陽の化身と崇め、太陽神ラーの信仰は上下エジプト中に広がりました。

 ラーの死を聞き、セトはエジプトへ帰還しました。そこで彼は妹であり妻であるネフティスがオシリスと臥所を共にし、子供までも成しているのを知ったのです。寛容なセトは妻を責めることなく、ただオシリスに向かって、自分が荒れ野に覆われた上エジプトの王、オシリスが肥沃なナイルデルタを擁する下エジプトの王となるという提案をしました。しかしオシリスはこれを拒絶し、再びセトを砂漠へと追放したのです。その時裏切り者オシリスは弟にこう告げました。

「行け。そして砂をお前の住処とし、蛇とサソリだけを家来とするのだ」

 悲哀と怒りに身を震わせながら、セトはエジプトを発ち、北へ向かいました。アッシリアの地にて、彼はステクという名でしばらくの間暮らしました。その間に、彼は第2世代の血族のひとりによって〈抱擁〉を受け、共に「第二の街」へと向かいました。そこでセトは不死の兄弟たる第3世代たちと逢いましたが、彼らの酷薄さを知ってやがてひとりで暮らすようになりました。

 セトは、日光が自分に他の血族よりもひどい傷を負わせることを知りました。彼はこれが敵である太陽神ラーが自分を憎んでいるせいだと考えました。

 セトが孤独に暮らしている間に「第二の街」では大災厄が起こりました。第3世代たちが第2世代を虐殺したのです。セトは自分の“父”を殺した第3世代たちに激怒し、復讐を誓いました。そして再びセトは放浪の旅に出たのです。ここに現代まで続く「ジハド」の幕が上がりました。

 セトは復讐を果たすための強力な軍隊を求めました。そのためには肥沃な故郷エジプトへと帰らねばなりませんでした。こうして再び、セトはエジプトへ帰還し、そこで兄オシリスが何者かによって〈抱擁〉され、暴政を敷いていることを知ったのです。セトは兄王と激しい戦いを繰り広げ、ついにオシリスの体を十四のかけらに引き裂いて、エジプト中にばらまき、オシリスの息子であるアヌビスとホルスをも殺害しました。ただ、イシスとネフティスの命は助けました。それが誤りだったのです。

 セトの不在中、イシスは強大な魔術師となっていました。彼女はホルスを最初のマミー(ミイラ)として蘇生させた上、オシリスのかけらを集めてその魂を冥界から呼び戻し、再びこの強大なヴァンパイアを復活させたのです。セトはすぐさま逆襲してオシリスとイシスを殺し、ホルスの目を潰しました。しかし、この戦いの傷でセトは数百年に及び眠りに落ちてしまいました。

 目覚めたセトは、アモン・ラーと呼ばれるようになったラーへの信仰がエジプトを席巻しているのを知りました。この太陽教団の総帥はイシスを女神と奉じ、不死となったホルスでした。親族のすべてから裏切られたセトは、第3世代の滅亡に次ぐ復讐として、アモン・ラー(とイシス)の教団の滅亡を誓いました。

 こうして二千年の間、セトとホルスはファラオたちを駒にしながら激しい戦いを続けました。戦いはセトの優勢に推移しました。アモン・ラー教団の総本山のあるメンフィスから、セトの大神殿のあるタニスへ首都が遷ったのはセトの勝利のひとつでした。ファラオたちはセティと名乗り、セトの勢力はホルスを再び殺し、エジプトは完全にセトの手中に落ちたのです。

 しかし、第3世代とその子孫らと人狼たちの攻撃は次第にセトの勢力を弱めていきました。人狼によって重傷を負ったセトが休んでいる間に、再びホルスが冥界より復活しました。祖国の裏切り者ホルスはこともあろうにリビアの軍勢を率いてエジプトを占領したのです。セトはすべてを失い、三たび砂漠へと逃れました。エジプトの首都はマミーの支配の下、テーベへと遷り、アモン・ラー信仰とイシス魔術教団が息を吹き返しました。

 砂漠に追われたセトは、自分を裏切った親族と第3世代への復讐のため、自らに仕える子らを〈抱擁〉し始めました。こうしてセトの信徒の氏族が生まれたのです。


永遠の闘争

Global Wars

 セトの信徒の最初の目標はホルスの破滅でした。彼らはアッシリアとヌビアの王らを巧みに誘惑し、エジプトへ攻め込ませました。侵略軍はホルスの王朝を首尾良く滅ぼしました。次に問題になったのは新興国ローマでした。セトの信徒たちはローマの注意をブルハーの都であるカルタゴに向けさせることに成功し、その結果、ブルハーの理想郷は滅亡しました。しかし、その頃セトは再び長い休眠に落ち、神の指導を失ったセトの信徒たちは混乱して、ローマのエジプト侵攻を止めることができませんでした。カエサルとアントニウスを籠絡した優秀なグールであるクレオパトラも、最後には毒蛇に身を任せ、紀元前30年、数千年のエジプトの歴史は終幕したのです。

 失意の内に、セトの信徒たちは侵略者ローマの内部に入り込み、ティベリウスやカリギュラといった優秀な皇帝たちを堕落させていきました。やがてローマは東西に分裂し、ローマは滅亡しました。ローマの滅亡後、セトの信徒の次なる目標はローマを支配していた憎むべきヨーロッパの血族たちでした。中世中期、大悪疫がヨーロッパを襲い、人間たちが激減すると、ヴァンパイアたちは血を求めてその正体を暴露せざるを得なくなりました。セトの信徒はこの時を捉えて、生き残った人間達に夜な夜な血を吸う魔物たちの話を吹き込んだのです。

 こうして異端審問が発生しました。大量のヴァンパイアが殺害され、生き残った血族も地下へ潜伏し、“仮面舞踏会”が始まりました。異端審問にセトの信徒が関わったことを知っている血族はほとんどいませんが、彼らはこの災厄の背後の闇の中で勝利の笑みを浮かべていたのです。

 異端審問によって長老たちが激減し、その中でツィミーシィの幼童たちから「大叛乱」の火の手が上がりました。セトの信徒たちは巧妙にこの大戦乱の間を渡りながら、血族同士の骨肉の争いをどんどん激化させていきました。やがてサバトとカマリリャが設立されましたが、セトの信徒はいずれにも加わらず、彼らがお互いの喉に食らいつきあうままに任せたのです。

 大航海時代になると、セトの信徒の戦いは新世界にまで広がりました。新大陸で行われた原住民の大虐殺は、セトの信徒たちの他の血族への憎悪を深めるに十分なものでした。1560年にスペインとポルトガルが北南米の領有を宣言すると、白人に混じってヨーロッパの血族たちがどっと新大陸に押し寄せました。セトの信徒はこの大移住に対抗すべく、アマゾンやユカタンの密林に多くの神殿を建設しました。こうした神殿は今でも麻薬組織の黒幕として活動しているのです。北米では人狼とサバトの勢力がセトの勢力の伸張を阻みました。セトの信徒たちは南部や中西部の砂漠に好んで住まいました。そこが彼らの故郷を思い出させたからです。

 アフリカやオーストラリア、アジアでも戦いは続きました。特に、アフリカから奴隷貿易の犠牲となって黒人たちが新大陸へ運ばれるのをセトの信徒は何としても止めようとしましたが、果たせませんでした。そのかわり、彼らはハイチで興隆したヴードゥー教に入り込み、文字通りヴードゥーの神々となって黒人たちを率いて、白人の支配に対抗しました。現在でもハイチやジャマイカは彼らの勢力圏であり、信者のネットワークを通じて強大な力を誇っているのです。

 近代から現代に至る技術革新を最も積極的に受け入れたのはセトの信徒たちでした。彼らは特にマスメディアを効率的に操作して、政治的・宗教的指導者の暗部を暴き立てました。この結果、人々は宗教や政治への不信感を強め、セトの一族は他の血族による支配を弱めることに成功したのです。

 アメリカでは、20年代の禁酒法に乗じて、セトの信徒は大規模な犯罪組織を構築しました。これ以降、彼らの主たる活動はこうした犯罪組織を通じて行われるようになり、麻薬、白人売買、賭博、殺人、窃盗などなどほとんどあらゆる種類の犯罪が彼らの手中に落ちました。現在では、暗黒街と宗教的団結が、セトの信徒の力となっているのです。彼らは全世界に橋頭堡を築いているほぼ唯一の氏族であり、その数こそ少ないものの、隠然たる力を政財界に有しているのです。


暗黒神の末裔

The Dark Spawns

 セトの信徒は暗黒神セトの教義を狂信的なまでに信奉する宗教的秘密結社ということができます。この氏族はセトの第3世代やホルスへの復讐を遂行するために存在する集団なのです。セトの信徒は現状に変化をもたらし、物事を衰滅させることで自分たちの優勢を確立しようとします。ほとんどの他の血族はセト人の真の目的を知りません。彼らはセトの信徒を単なる狂信者だと見ているのです。それが巧妙な偽装であることに気付かずに。

 セトの信徒は〈抱擁〉する目標を非常に注意深く選びます。彼らは信者であるグールを〈抱擁〉することもありますが、政財界や宗教界の要人を堕落させて(あるいはすでに堕落している人物を)〈抱擁〉することも頻繁に行います。いずれにせよ、長い時間をかけてその人物を観察し、真に優秀で、神への奉仕に値すると見なした時にようやくセトの信徒のひとりとして迎え入れるのです。セトが赤毛であったという伝承から赤毛の者が珍重される傾向にあります。

 〈抱擁〉された雛はまず地元の神殿に連れていかれ、苦痛と恐怖に満ちたイニシエーションを受けることになります。それに耐えた者はセトの教義を徹底的にたたき込まれ、同時に光と太陽が致命的であることを教えられ、太陽神が敵であるということを教え込まれます。

 セトの信徒はさまざまなグールを作ります。犯罪者、暗黒街の幹部、秘密結社の一員、警察や判事、宗教的指導者などなど、有用と思えるあらゆる業種に彼らは血の贈り物を与えて奴隷にしています。ただし、いずれの場合も優秀な者だけが選ばれます。ただの人殺しや怠惰な馬鹿を〈抱擁〉する余裕は氏族にはないのですから。


堕落の技

Arts of Degeneration

 セトの信徒は破滅と腐敗の使徒です。彼らは世界の堕落をもたらすことで究極的な暗黒神の勝利を狙っているからです。彼らが堕落を誘う手管は実に多種多様で巧妙なものです。よく使われる手段は、目標を快楽や富に耽溺させて中毒させた後、それらの供給源がセトの信徒にしかないことを知らしめるというものです。具体的には、無償で麻薬をしばらくの間提供した後、突然その供給を絶つのです。あるいは、ありとあらゆる性的な快楽を楽しませて、もはやそれなしには一時もいられない体にしてしまうのです。こうした呪縛は超自然的なものでないため、逆に容易に破れるものではありません。こうしてセトの信徒は奴隷を増やしていくのです。

 また、司法や警察の中下層にグールのネットワークを築き、セトの信徒が誘因する犯罪への訴追を逃れさせたり、敵を巧妙な法律の罠の中に陥れたりするのも常套手段です。セト人はありとあらゆる犯罪に関わっています。トレアドールの品評会を混乱させるために名画を偽造したり、ヴェントルーの支配力を弱めるために上院議員を破滅させたりするのです。

 特に「テュポンの道」(下記)に従うセトの信徒は、積極的に人の心に堕落の種を蒔き、それを大きく育てて地域全体を破滅させていくことを不死の生を送る上での目標としています。


セトの神殿

Palaces of the Dark God

 セトの信徒たちは、「テュポンの道」に従う高位司祭の下で共同住居である神殿に暮らすことがよくあります。彼らの奉じる神はもちろんセトですが、神殿の形はその環境に応じてさまざまです。密林の中ならそれこそマヤかエジプトの神殿のような姿をしていますが、都市部では郊外にある廃屋や打ち捨てられた工場地域、倉庫、地下道などを利用しています。あるいは建物の地下奥深くに築かれた地下のホールや、古代の遺跡などを利用していたりします。ともすれば摩天楼のビルの一角に秘密結社の本部があることも珍しいことではありません。

 神殿内部が自然の光、太陽光はもちろん月光や星灯り、そして人工の灯り、で照らされるのは禁じられています。壁にかかげられた松明が薄暗く灯っているだけなのです(電灯も使われますが、松明のほうが好まれます)。そして、独特の香の甘い匂いが空気中に立ちこめています。

 伝統的なセトの神殿は、セトがかつて支配した上下エジプトを模して二つのエリアに分かれています。玄関を入るとまず「外聖域」があります。ここは真っ白に磨かれた壁に下エジプトの繁栄を描いた壁画が描かれています。絵の中ではナイル川のパピルスの草むらの間をアヒルが遊び、ワニが寝ている中、鎖でつながれた奴隷が処刑場へと向かい、凱歌をあげるセトがオシリスの体をばらばらにしています。こうした絵の質はその神殿の重要性と資金力によっていろいろです。高位の神殿ではエジプト本国から遺品を運んできて飾っていることすらあります。

 両開きの扉を通ると「防光廊」と呼ばれる細い廊下がまっすぐ続き、突き当たりに扉があります。ここは本殿に光が入らないようにするための通路です。ここにもいろいろと装飾がされ、床には絨毯が引かれています。

 「内聖域」の壁は遮音のため伝統的に黒い綿のカーテンで覆われています。床は砂で覆われており、セトの彫像の前に置かれた炭入りの香鉢から漏れ出す薄暗い灯りだけが光源です。この鉢には香を焚き、礼拝のために血を注ぎます。セトの彫像はエジプトの動物の頭を持った神の姿にかたどられています。もっと小さい神殿では、小振りな神像に電熱器の香炉があるだけのこともあります。

 セトの大神殿はウガンダのヴィクトリア湖岸に立っています。この黒曜石と象牙で造られた神殿には幾多もの血が注がれました。その他の大きな神殿としては、ロンドンのドック地区にある神殿、ローマのカタコンベにある神殿、ニューヨークの下水道にある神殿、ニューオリンズの湿地帯の中にある神殿、カリフォルニアのデスバレーに隠された神殿、が挙げられます。

 こうした大神殿には、「テュポンの大司祭」と呼ばれるぶつぶつと泡立ち腐り果てた“もの”が鎮座しています。これは「テュポンの道」を極め尽くした人物のなれの果てであり、こうした生き物は眠れるセトの目となり口となると信じられています。彼らの語る言葉はセトの言葉であり、うやうやしく拝聴されます。「テュポンの道」に従う者は最終的にはこの境地に至ることを目指しているのです。彼らはセトの夢に接触できると言われていますが、確かなことは誰にもわかりません。

 その他の小さな神殿は、ヴェントルーやトレメールたちが怖れているように、世界中のどこにでもありえます。どの都市にもセトの信者たちがいる可能性があり、大都市ともなれば相当数の信者を集めることができるのです。


啓発の道

By the Words of our Master

 セトの信徒は、独特の教義への服従をそのメンバーに要求しています。その具体的な現れが、「人間性」に代わる三つの「啓発の道」です。彼らはセト自身と偉大なセトの信徒によって開発されたこの生活指針を胸に、永遠の闇に至る戦いに赴くのです。ごくまれに「人間性」を保っているセトの信徒がいますが、そうした者は半端者にすぎず、決して尊敬を得られません。

テュポンの道 Path of Typhon

 セトはギリシア語で「テュポン」と呼ばれる邪神です。セト自身が示したとされるこの「道」は最もよく信奉されている「道」であり、氏族の上位者のほとんどがこの教義をマスターしています。
 この「道」に従う者は、ありとあらゆる形の腐敗と堕落と破滅を世界にもたらそうとします。戦争の惨禍、麻薬の害、幼児虐待、性的暴力、貧富の差、殺人と悪逆、すべてがこの「道」が喜び、追い求めるものです。この「道」はセトの信徒の根本教義であり、これを極めることで暗黒神そのひとと心を通じ合わせることができると言われています。

恍惚の道 Path of Ecstacy

 腐敗や破滅よりも、快楽と贅沢を追い求める「道」。「テュポンの道」に似てはいるものの、彼らはその冷酷さからはかけ離れています。悲惨を助長するより、彼らは快楽を至上のものとし、ヴァンパイアの中で最も退廃した生活を好んで送っています。この「道」の信者はトレアドールを特に軽蔑しており、彼らを啓蒙し、この「道」に引きずり込もうと常に狙っています。

闘士の道 Path of the Warrior

 三つの「道」のうち最も最近に発生したこの「道」は、多くのセトの信徒の支持を受けています。セトはかつて優秀な狩人であり戦士でした。その姿に倣おうとする彼らは、肉体的な強さと技を磨くことに不死の生を捧げています。「闘士の道」の信者はそのほとんどがマゾヒスティックで狂信的な信者です。彼らは“獣”を心の根幹として、肉体を鍛え上げることで“獣”を支配できると信じています。

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