ギャンレル

From the Forests of Mystery

GANGREL

 ギャンレル。
 彼らは最も特異なヴァンパイアたちのひとつです。なぜなら、他の血族たちが餌食たる人間の住まう都市を住処とするのに対して、ギャンレルだけは自然の原野をその住まいとするからです。それゆえ、彼らの生き様は都市という牢獄に閉じこめられた他の同族たちにはうかがい知ることができません。往々にしてギャンレルは陰湿な同族同士の争いからひとり超然とした立場を取り、他のヴァンパイアたちもこの得体の知れない従兄弟たちを極力無視しようとつとめがちです。

 そんな高貴なる蛮人たちの不死の生を垣間見ることにしましょう。


荒野の伝承

Tales from Wilderness

 ギャンレルの起源とその歴史に関する伝承は錯綜し、混乱し、矛盾に満ちています。それは彼らが放浪癖を持ち、文明と距離を保ちながら生きてきたことに理由があるのでしょう。しかしここでは、ひとりの血族の歴史家が調べて編纂したギャンレルの起源伝説と歴史の一端を描くことにします。

 ギャンレルの起源は、カインではなくリリスから始まります。そして、その伝説はワーウルフなど〈変身種族〉Changing Breedたちの発祥とも関係があります。ギャンレルが彼らと親しくつきあえるのもここに理由の一端があるのかもしれません。

 アダムの最初の妻であったものの、神の不興をかったリリスは、荒野を放浪しました。その最中に、彼女は四人の子供を身ごもったのです。それを看取ったのは熊、狼、虎、蛇、そして“獣”とだけ呼ばれる動物でした。卵生である蛇をのぞく動物たちはそれぞれひとりずつリリスの子を受け取り、自分の巣で育てました。この子供たちが〈変身種族〉たちの祖となったと言われています。

エンノイア Ennoia, the Founder of Gangrel

 リリスの子供のうち、狼に育てられた娘はエンノイアという名で知られています。彼女は成長すると狼の群の間でつがい、人間の姿をした子供たちを生みました。この子供たちがワーウルフの先祖となったのです。しかし、エンノイアはやがて狼の間の生活を不満として、放浪の旅に出ました。親たち同様に不死だった彼女は、長い間ひとりでさまよった後、アダムとエヴァの子孫たちが住まう都エノクにたどりつきました。その美しさと野性ゆえに、エンノイアは大変な歓待を受けました。

 この壮麗な都で幾星霜の年月を過ごした彼女でしたが、不和の種となってしまい、都を去ることになりました。その出発前に愛人たちと作った子供たちは、後になってジプシーの祖となったと伝えられています。

 再び放浪の旅に出たエンノイアは、行く先々で受け入れられ、そして不和を起こしてそこを去るという事を繰り返し、決してひとところに定住することがありませんでした。最後には、彼女はカインの子孫に迎えられて、エノクへと戻ることになります。そこで〈抱擁〉を受けて血族となったのです。こうしてエンノイアからギャンレル氏族が生まれました。彼らは彼女から動物の言葉を学び、その姿に変身するすべを教わり、世界中を自由に放浪する権利を与えられたのです。

歴史の裏側で

 ギャンレルの活動が正史に記録されることはめったにありません。それゆえ、その動向をほのめかすのは傍証的あるいは異端的な史書がほとんどです。しかし古の氏族のひとつであるギャンレルが人類の歴史に大きく関わってきたことは確かなことでしょう。その証拠に、人間の記憶に残るヴァンパイアの特質の多くは、ギャンレル氏族のそれに拠っているからです。もちろん、ギャンレルが明らかに政治的な意図をもって人類に干渉したことはまれなことでしょうが。彼らの活動のほとんどは生存本能によるものですから。

 ギャンレルの歴史は、そのほとんどが口承によって伝えられています。彼らの活動は、古代の諸地域に伝わる口承伝説にその片鱗を残していると言われています。その代表格が、北欧のヴァイキングたちの間に伝わる伝説であり、特に「グレティルのサガ」はギャンレルの英雄のひとりの事跡を記したものだと噂されています。また、グノーシス派の書籍では、キリストによってギャンレルと思しき狂人が癒されたという伝承も伝わっています。

 血族にとって古代最大の事件ともいえるカルタゴの興亡において、ギャンレルは迫り来る危機を他の氏族や人間たちに警告したと言われています。しかし彼らは同胞たちに手ひどく裏切られることになりました。以来、ギャンレルは他の氏族を信用することを固く戒めるようになったのです。

 ケルト人によるローマ略奪に参加した蛮族の中には、相当数のギャンレルがいたとされています。古代人は血族が自分たちの間で暮らしていることに気付いていました。この頃から訓え『変身』にまつわる伝説が各地で多く見られるようになっています。

 またこの頃、ジプシーたちが出現しました。彼らは紀元前5世紀頃にインドを発祥として現れたと言われています。彼らはギャンレルと同じ血を引いている者たちとされていますが、古代でも特に夜の生き物について深い洞察を得ていたとされています。このジプシーたちの間にも、ギャンレルはかなりの数いたのでしょう。

 中世暗黒時代には、ギャンレルは森と山に覆われたヨーロッパで、蛮族や獣たちとともに荒野を疾駆し、孤立した集落を襲ったり、王の軍隊を奇襲したりしました。この時代は、ギャンレルが優勢だった最後の時代だとも言えます。

 ヨーロッパにおけるギャンレルの衰退は、ルネサンスの到来によって決定的にまで進みました。全世界を席巻していった「文明化」の波は、野性と放浪を旨とする彼らにとって厳しい状況を作り出していったからです。そのかわりに、彼らは新世界の探検に積極的に乗り出していきました。まだ見ぬ秘境と新天地を求めて、世界中に多くのギャンレルがかつてないほど散らばっていったのです。こうした活動の根底には、古代よりギャンレルが、血族と人類にとって未知なる土地へ進出する際の斥候として動いてきた歴史があったと言えるでしょう。アメリカン・ネイティブをはじめとする各地の原住民たちの間に溶け込んだ彼らは、やがて到来した他の氏族に率いられた白い侵略者たちと対立することになります。

 白人たちによって住み慣れた土地を追われたギャンレルは、どんどん秘境へ秘境へと活路を見出していきました、中南米、オーストラリア、シベリア、南極…。ギャンレルは次々と侵略してくるヨーロッパの民に追われながらも、その土地土地に伝説と血筋を残して去っていったのです。それが、世界中の伝説で語られている英雄や魔物像に、ギャンレルが最も色濃く影を落としている理由なのです。

 20世紀に入ってからのギャンレルの活動は、前半では少数民族への圧制(特にジプシー)への反発、後半では環境保護活動への積極的な参加という形で現れました。彼らの相当数はエコテロリストと呼ばれる過激派の中に浸透しており、自然を破壊する者たちに対して死の鉄槌を下そうとしています。ただ、そうした動きはギャンレル氏族の中でも賛否両論というところのようです。


孤高なる放浪者

Life of the Lone Wolves

 他の氏族とは違って、基本的に放浪生活を営むギャンレルはめったに同じ氏族の者と会うことはありません。彼らはほとんどの時間を独りで過ごし、他のヴァンパイアとも非常に没交渉です。それに、ギャンレルは氏族規模の集会を開くことはありません。また、開けた場所に好んで住まい、田舎の住人の多くがそうであるように、よそ者に対して懐疑的な彼らは、大集団が群れて暮らすことを嫌います。

 このように一匹狼なギャンレルたちですが、交流の慣習は存在します。二人のギャンレルが会うと、まず彼らは自己紹介して、最近聞いた話をすべて披露します。こうして氏族の伝承や歴史は広まっていき、ギャンレルの中から英雄が生まれるのです。この結果、ギャンレルの中には、自分の逸話が繰り返し話されることで、労せずして氏族内の威信を得ることができる者もいます。この単純なネットワークによって、大勢が集まらずに氏族全体に情報を伝えることができるのです。

 時折、ギャンレル同士が衝突することもあります。二人のギャンレルがどうしても合意に達せない時、彼らは他の氏族から見れば野蛮に見えるような決闘を行います。二者はどちらかが降伏するまで戦い続けます。通常、敗者が死ぬまで戦われることはありません。また、敗者はいつでも勝者に再挑戦することができます。

 ギャンレルは「儀闘」(Ordeal)と呼ばれる試合も行います。これもまた他の氏族から見れば野蛮以外の何ものでもないのですが、彼らは模擬戦闘を他者の実力を測るために、以前会ったときよりどのくらい相手が強くなったか知るために、こうした試合を積極的に行います。この辺りは、剣豪同士の立ち会いにも似た清廉な剛健さが感じられます。
 儀闘は氏族内での威信を獲得するためにも使われます。その結果いかんによらず、長老から儀闘に選ばれることは非常な名誉です。そして、儀闘を繰り返すことによって、ギャンレル氏族のメンバーは常に精強さを失わないのです(少なくともギャンレルたちはそう信じています)。

 先ほど、ギャンレルは集会を開かないと述べましたが、例外もあります。毎年2回、ギャンレルは春分と秋分を祝います。これも非公式な会合なのですが、氏族が緊急事態にない限りまず開催されます。この会合は、純粋な祝祭であり、ギャンレルたちの交歓の場です。また、5月8日にはギャンレルはベルテイン祝祭(*)を祝います。

 それとは別に、ギャンレルが同氏族のもとを訪問したり、少数の知己を集めて小さな会を開くこともあります。こうした機会に、ギャンレルは自分の新たな子を披露したり、最近の世間情勢を聞いたり、戦いへの参加を表明したりするのです。もちろん、儀闘に発展することもあるでしょう。

 噂では、長老たちがもっと大規模な集会を定期的に開くことで、来るべき激動の時代に氏族が対処できるよう企図しているとも言われていますが、もし本当だとしても、ほとんどのギャンレルはこうした考えは、氏族の独立独歩な気質に水をさすものだとして反発するでしょう。

(*):昔のケルトの祭日で、スコットランドやアイルランドで、旧暦の5月1日に篝火をたいて踊る祭のこと。


ギャンレルの誕生

Into the Forests of Darkness

 ギャンレルの〈抱擁〉は、他の血族とは一風変わったやり方を取ります。彼らは野生の風習を色濃く残している氏族ですから、狩猟者としての立場からこうした儀式めいた〈抱擁〉を行うのだと一般に考えられています。

 ギャンレルが何らかの理由で〈抱擁〉を行う場合、後々になって同族の間で語るに足るような〈抱擁〉にするよう注意しなければなりません。できるかぎり劇的な変容を遂げさせることは父の義務ともいえるのです。そういうわけで、ほとんどのギャンレルは〈抱擁〉する人間に対して狩りをしかけます。これは追う者追われる者の息もつかせぬ競走という、伝統的な狩猟の形を取ることが多いのですが、眠っている者を知らず知らずのうちに〈抱擁〉して、その人が目覚めた時にはヴァンパイアになっている!という状況を楽しむギャンレルもいます。いずれにしろ、良い話の種になるように〈抱擁〉は行われなければならず、それがどれだけドラマチックだったかが父と胤子の評価にもつながるのです。

 ギャンレル氏族の慣習では、新しく胤子を作った際、新生児が目覚める前にあらかじめ満腹にしておいてやるか、あるいは獲物を近くに放置しておくかした上で、そのチャイルドがギャンレルとして自らを証立てることができるまで、父は決して子の前に姿を現さないことになっています。真に野性と勇気と強靱さを持っている者だけしか、最も猛々しい氏族であるギャンレルの一員として一人前になることはできないのです。もちろん、父は姿を見せないといっても、常に子を見守っていなければなりません。特に「仮面舞踏会の掟」を子が破らないよう注意する必要があります。また、ひそかに教導してやることも必要かもしれません(差出人不明の手紙が来るとか、です)。

 このような儀式を経て、ギャンレルの新たなメンバーが生まれるわけです。


遠き眷属ガルウ

Wielders of Fangs and Claws

 ギャンレルの主張に従えば、ガルウ(ワーウルフ)は彼らと祖を同じくする遠縁の親戚です。しかし、ヴァンパイアとワーウルフは太古の昔から不倶戴天の宿敵として流血の歴史をつづってきました。そのため、ギャンレルとガルウとの関係は非常に微妙で複雑なものといえます。他の血族が思っているほど、ギャンレルはガルウと自由に交流できるわけではありません。

 ガルウにはいくつもの部族があります。その部族それぞれについて、ギャンレルに対する姿勢は大きく異なります。最も友好的な部族としては、サイレント・ストライダー、スターゲイザー、ウクテナといったガルウの中である種謎めいた評価を得ている部族があげられます。グラスウォーカーは他の荒野に住まう部族に比べれば開放的な思想を持っていますが、都市を嫌うギャンレルに対してはあまり良い感情を抱いていません。シャドウ・ロードもギャンレルと手を組むことがありえますが、彼らの意図には何か裏があるのが普通です。

 邪悪なブラック・スパイラル・ダンサーが最もヴァンパイアに接近してくるガルウであることは間違いありませんが、一般に彼らはサバトにしか近づきません。  これ以外の部族は、ヴァンパイアを見つけ次第、ギャンレルであろうとなかろうと、その致命的な牙と爪で引き裂こうと襲ってくるでしょう。


姿を変じる者

Masters of Shapeshifting

 ギャンレルの特質の中で最も有名なのは、その変身能力です。訓え『変身』Proteanの創始者とも言われているこの氏族は、他の〈変身種族〉との伝説上の血縁を主張するだけあって、最もこの訓えに長けているヴァンパイアたちなのです。『変身』レベル4に達したヴァンパイアは、吸血鬼伝説で有名なように、狼かコウモリに変身することができます。

狼 Wolf

 狼に変じることで、ギャンレルはこの強力な獣の特徴を獲得することができます。キャラクターデータ的には以下のような変化が現れます。

【有利な点】

【不利な点】

コウモリ Bat

 コウモリに変じることで得られる最大の利点はその飛行能力ですが、肉体的には非力であることは否めません。なお、映画でポピュラーなコウモリ人間の姿は「長所」Meritか『変身』レベル7で獲得することができます。

【有利な点】

【不利な点】

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