カマリリャ

Rose Watered with Blood

THE CAMARILLA

 「カマリリャ」(The Camarilla)は全世界に広がる最大のヴァンパイア組織(セクト)です。大半のヴァンパイアはこの組織に属しており、その支配のもとで暮らしているのです。その体制はひとことで言えば、「西洋封建制的社会」です。

 カマリリャの血族たちはひとつの都市とその近郊地域をまとめて「シマ」(Fief)と呼んでいます。「版図」(Domain)のほうがどちらかというと礼儀正しい呼称ですが。この版図がいわばヴァンパイア社会におけるひとつの国をなしているのです。そして、この国の中は封建的な階層社会になっています。以下、その様子を説明していきましょう。


版図内の体制

Neo-Feudalism

 まず、カマリリャには7つの大きな氏族(Clan)が存在しています。各氏族は由緒ある誇り高い家系であり、各版図内でもそれぞれがひとつの家門を形成しています。

 各氏族には版図ごとにたいてい氏族長(Clanhead)と見なされる強大なヴァンパイアがいます(最年長であることが多い)。彼らは各氏族の代表として強大な権力を有します。いわば「貴族一門の当主」です。西洋の中世と同じように、氏族長の個人的な恨みつらみがその版図の氏族全体を巻き込む戦争に発展することも珍しいことではありません。

 長に次ぐ、あるいは同等の力を持つ年老いた強力なヴァンパイアたちは長老(Elder)と呼ばれ、長に匹敵する権力を有しています。時には黒幕として動いていたりもします。「有力な重臣」たちといえるでしょう。

 長老に次いで、若輩(Ancilla)と呼ばれる比較的年若いヴァンパイアたちがいます。彼らはヴァンパイア社会である程度の名声は得ているものの、いまだ長老と呼ばれるほどの力を有していない上昇途上の階層です。「一般の家臣」レベルに比されます。

 プレイヤーの操るキャラクターは、いまだ年若く、それほど力も名声も得ていないヴァンパイアたちです。彼らのような若輩者のことを幼童(Neonate)と呼びます。上の階梯へ登る足がかりをつかもうと必死になっていることが多い彼らは、ヴァンパイア社会の中で最も頻繁に活動する階層です。幼童は「下級の家臣」といえます。

 なりたてほやほやのヴァンパイアは子(Childe)と呼ばれ、一人前扱いされません。彼らは自分の“父”の保護下にあり、ヴァンパイア社会のしきたりについて学んでいる途中です。時が至ればその版図の公子(後述)に謁見し、正式に社会の一員として迎え入れられます。

公子・・・都市の魔王

 こうした構造を持つ七大氏族を統轄するのがその版図の最高指導者である公子(Prince)です。それぞれの版図に公子はひとりしかいません。彼はその版図での「王」であり、版図に暮らすヴァンパイア間の紛争を調停したり、新たな掟を制定したりして秩序を保つ役目を負います。また、新たなヴァンパイアを創る許可を与えたり、ヴァンパイアを追放処分や死刑にすることのできる唯一の人物でもあります。

 公子は重大な罪を犯したと認定した版図内のヴァンパイアに対して「咎人狩り」(Blood Hunt)を宣告することができます。これが布告されると、その版図内に住むヴァンパイアは、被告を見つけ次第捕縛して公子のところへ連行する義務を負います。時には殺してもかまわないという指令も出ます。

 公子の位には、その版図の中で最も勢力の大きい氏族の長(たいていその版図内で最年長)が即くことになっています。まれに弱い氏族から傀儡の公子が立てられることもありますが、異常事態なので長続きしません。

 公子は自分の版図のカマリリャ支配維持に責任を負っており、失政が大会合(後述)などで明るみに出れば失脚を免れるのは困難となるでしょう。

参議・・・黒幕たち

 公子の位についていない、その他の氏族の長はほとんどの場合、公子の顧問である参議(Primogen)の一員となって、版図の統治の一端を担います。参議の力は版図ごとにまちまちで、ほとんど公子の独裁専制になっているところもあれば、参議の許可を得なければ公子が何もできないところもあります。

 以上が正式なカマリリャの版図内体制ですが、この体制から逸脱している者もいます。

ケイティフ・・・生け贄の山羊(スケープゴート)

 ケイティフ(Caitiff)と呼ばれる彼らは、自分の父からヴァンパイア社会のしきたりを教えられず、自分がどの氏族に属するかも知らない“生まれてはいけなかった者”です。ケイティフは「氏族不明」(Clanless)とも呼ばれ、どこに行ってもさげすまれ、追い立てられます。誇り高い吸血鬼の社会では彼らは存在すら許されない者たちなのです。厳格な公子にはケイティフを見つけ次第滅ぼすよう命じている者さえいます。

 しかし、現代の巨大都市の中ではほんの気まぐれに創られた哀れなケイティフの数は決して少なくありません。


カマリリャ内の制約

The Sacred Traditions

 ヴァンパイアは強力な生き物ですが、好き勝手に行動することはやはり許されません。一定の行動規範というものが存在しています。かくいうこの部分がプレイヤーの皆さんから最も「よくわからん」と言われた部分なのです。

 わかりやすくするために、主たる行動規範を列挙してみます。

【ヴァンパイアの本性から来る制約】

【社会規範その1:六条の掟】…古来より守るべきとされる伝統的な掟

【社会規範その2:貸し借りの原則】…恩には恩をもって返すしきたり

 意外と思われるかもしれませんが、ヴァンパイアは他人との恩、つまり「貸し」と「借り」の関係を非常に大事にします。カマリリャは封建制度を取っているため、成員間の信義・忠誠というものに重きが置かれるのです。

 「貸し借り」には大きく分けて五段階があります。受けた恩と同等のレベルの恩返しをするのが慣例となっており、恩返しが済むまでは、「借り」のあるヴァンパイアに対しては一段低い立場になるわけです。実際には「貸し借り」が錯綜してたいていわけがわからなくなっています。

 この原則が、カマリリャの封建制度の基盤といってもよいでしょう。年老いて強力なヴァンパイアは、若くまだ弱いヴァンパイアに保護と援助を与えることで、彼らに服従を要求できるわけです。いわゆる「御恩と奉公」ですね。しばしば年長者たちは恩の押し売りをするため、若者の間には嫌気がさすものも多いのですが。

 以上がカマリリャ社会の中での一般的な行動規範・制約です。後はそれぞれのヴァンパイア同士の関係をよく見極めることで、世の中をわたっていけるでしょう。


より高次の体制

Unknown Treachery

 以上のような階層構造をなした版図の集合体がカマリリャであるわけですが、公子の監視や版図間の紛争解決のためのより上位の体制も存在しています。

 大会合(Conclave)は隣接するいくつかの版図の構成員全員が参加権を持つ会合です。これは定期的あるいは臨時に開催され、その地域で目下問題となっている事項の裁定や細かい掟の解釈の定義などを扱います。また、公子の支配の監査も行われ、訴えがあれば厳重な審査の末、判決が下されます。場合によっては公子の退位命令も下すことができるのです。

 こうした強い権限を持つ大会合を開催し、議長をつとめる権限を持つのが護法官(Justicar)と呼ばれる選ばれた長老です。彼らは絶対的な裁判権を持つ司法官として各地を巡回し、問題があれば大会合を開いて裁判を行うことができます。公子といえども護法官の指示に逆らうことは許されません。このため、彼らが自分の版図にやってきたというだけでひと騒動が起こるくらいなのです。護法官は文字通り、法の執行人なのです。

 この護法官を選出するのがカマリリャの最高幹部会議である内陣(The Inner Circle)です。この機関は七大氏族の最高指導者(全世界で最も強力と見なされているひとり)の集まりであり、15年に1回開催されます。過去五百年、開催地は常にヴェネツィアでした。そして、内陣ではカマリリャ全体に関わるような重大事項について極秘裏に協議されます。最大の決定事項はもちろん護法官の選出です。護法官は七大氏族から各1人ずつ選ばれます。


カマリリャ七大氏族

Seven Pillars

 カマリリャは中世末期に成立した組織ですが、そのとき氏族全体で参加することを表明した氏族は7つでした。その他の6つの氏族は独立するか、カマリリャに敵対の立場をとって離れていったので す。ここではカマリリャに参加した七大氏族をそれぞれ説明します。

 ブルハー(Brujah)は、自由を重んじる気風を持った、相当に反体制的な氏族です。彼らはカマリリャに参加してはいるものの、その旧態然とした保守的な体制に常に不満を持っており、常に変革を指向しています。このため、しばしば公子と真っ向から対立したり、果ては叛徒(後述)となってカマリリャ自体に反旗をひるがえすこともあるのです。現代では多くの者がテロリスト、パンクなど現状を打破しようとする過激な生活を送っています。彼らのいにしえの理想郷カルタゴを滅ぼしたヴェントルーとは古代からの仇敵同士です。

 ギャンレル(Gangrel)は、都市を捨てて原野にその住処を求めた氏族です。人間の多い町に住まない点で他の氏族とはまったく異なっており、その驚異的なサバイバル能力は他を圧倒しています。そのため、他の氏族からは多少野蛮だと見なされています(気にしてはいませんが)。彼らはワーウルフと同じ祖先を持つという伝承を持っており、普通はヴァンパイアを狩る存在であるこの恐るべき人狼とも親交できるほぼ唯一の氏族でもあります。

 マルカヴィアン(Malkavian)は、完全に発狂したヴァンパイアばかりで構成されています。その狂気は表になかなか出ない偏執から、常軌を逸した狂人まで多種多様です。彼らは吸血鬼社会でのトリックスター的な役割を担っており、その狂気ゆえにかぎりなく真実に近いところを突くこともあれば、ただ単に混沌を招くだけのこともあるのです。しかしこの狂気の氏族の情報ネットワークはあなどれません(大半のマルカヴィアンは歯牙にもかけていませんが)。

 ノスフェラトゥ(Nosferatu)は、おぞましいほどの外見的損傷を受け、極めて醜怪な容貌を持った氏族です。その姿ゆえ、人間の間にたちまじって暮らすことが難しい彼らは、基本的に下水道など都市の地下に住み着いており、非常に広範囲な情報ネットワークを形成しています。おおかたの者はいわゆる美しいものに理由のない憎悪を抱いており、トレアドールとは一般に犬猿の仲です。

 トレアドール(Toreador)は、美にすべてをささげた氏族です。彼らは美の保存、美の創造にその超常能力を活用し、美の源泉ともなる人間の芸術家たちに限りない興味の目を向けています。一方で、幻想の世界に耽溺して現実から遊離してしまう者や、ただ容貌が美しいというだけの者も少なくありません。他の氏族からは「退廃している」などと非難されることもあります。

 トレメール(Tremere)は、中世に錬金術師の一団によって創設された氏族です。彼らはヴァンパイアの血をパワーソースとする独自の魔術を編みだし、太古より存在する他の氏族に匹敵する力を得たのです。しかし、始祖がヴァンパイアの間で禁忌とされるディアーブラリィによって「氏族」となるだけの力を得たため、今でもあまり他の氏族から信用されておらず、「陰謀好きの黒魔術師」というあだ名を頂戴しています。また、新たな者をヴァンパイアにするときに氏族の上層部の血を飲ませて忠誠を誓わせるため、その結束力は全氏族中最強クラスです。

 ヴェントルー(Ventrue)は、ヴァンパイア全体の統率者を自任する「貴族」の氏族です。たいていの場合、指導者としての器を持った人間の中からメンバーが選ばれ、ヴァンパイア社会の中で指導者としての地位…公子など…を占めることが最も多い氏族です。現代では、その組織はあたかも巨大多国籍企業のような様相を呈しています。若者は年長者を尊重しつつも、のし上がろうとしなければなりません。彼らのアンチテーゼのようなブルハーとは宿敵同士ですが、カマリリャの秩序維持のためには彼らとも手を結びます。


カマリリャの敵

Eternal Struggle

 カマリリャは世界最大の組織ですが、決してその地位は安泰なわけではありません。その発足から五百年。常にカマリリャは内外の脅威にさらされてきました。

 叛徒(Anarch)は年若いヴァンパイアの間から吹き上がった反乱の炎です。年長のヴァンパイアたちによる専制支配をえんえんと続けてきました。ヴァンパイアは不死身です。人間社会のように世代交代は自然には起こりません。そして中世末期に欧州を襲った「魔女狩り」の嵐の中で最初の大叛乱が勃発しました。抑圧された若いヴァンパイアたちは、永遠の圧制を覆すべく反旗をひるがえしたのです。数百年の激戦の末、カマリリャの結成によってこの反乱は鎮圧されましたが、叛徒運動はその後も各地で頻発し続けています。
 特にアメリカ西海岸を中心としてカマリリャに対するレジスタンスを展開している者たちは、カマリリャ封建体制のかわりに、すべてのヴァンパイアが平等に、デモクラティックに意見を闘わせ、より自由にものが言え、行動のできる社会を目指しています。一対一ではかなわなくとも、束になれば長老にでも勝てる、それが彼らの戦略であり、事実それはロサンゼルスで成功したのです。戦後、時代の急激な移り変わりとともにカマリリャの旧弊を嫌って叛徒へ身を投じる者たちはますます増えつつあります。

 サバト(The Sabbat)は、中世末期に若いヴァンパイアたちが「隠者」(Autarkis:叛徒の前身)として自分の主人たる年長者たちに大叛乱を起こし、混乱を収拾するため設立されたカマリリャによって鎮圧されたときに、徹底抗戦を叫んで辺境へと逃れた過激派たちです。彼らは、この数千年にわたる同族争いを裏から操っていると思われる第3世代とその走狗たる長老たちの壊滅を誓っています。その規模はカマリリャの4分の1にも及びませんが、厳しく律された軍隊的な組織と、狂信的なメンバーたちのゲリラ戦略は常にカマリリャを悩ませ続けました。事実、北アメリカの東半分は彼らの手中に落ちてしまっています。公子たちは自分の版図にサバトがすでに潜入しているのではないかと、いつも神経をとがらせています。

 アンコニュ(Inconnu)は、ローマ帝国崩壊時に長老たちが集まって結成された結社です。彼らはジハドの抗争から一歩身を引いていると自称しており、他の同族が血みどろの争いを繰り広げている様を、いずこからかじっくりと観察し、世の趨勢を見極めようとしているのです。彼らが何を臨むのか知るすべはありません。ただ、「観察者」(Monitor)と呼ばれるエージェントだけが、ヴァンパイアの支配する大都市に時折姿を見せるだけなのです。彼らの多くは数百歳の長老であり、その潜在力はカマリリャのパラノイアの原因にもなっています。

 黒手団(The Black Hand, Manus Nigrum)は、おそらくこの永劫のジハドの中で最も謎めいた恐るべき組織でしょう。彼らの存在はほとんどのヴァンパイアに知られてはおらず、その目的に至っては、組織の中でさえ知る者はごく限られているのです。一般に、黒手団はサバトの別称として使われていますが、実のところ、黒手団は数千年前に中東で成立した秘密結社です。やがて彼らは東洋と西洋の二つに分裂しましたが、常にヴァンパイア社会の裏の裏で策動を続けてきました。彼らの中には滅び去ったと言われている氏族までが加わっていると噂されていますが、黒手団については何ひとつ確かな事はいえません。


終末近し

The Endtime is Near

 新たなる一千年が幕を開ける今、カマリリャはかつてない危機に瀕しています。数年前、まったく理由は不明ながら、七大氏族の一翼を担ってきたギャンレル氏族が突然の脱退を宣言しました。ヴェネツィアで十三年ぶりに開かれた内陣では新しい護法官が選出されましたが、その幾人かは、到底その任に耐えられそうにない若輩者でした。血族社会全体に広がる動揺、激増するケイティフ、そして猛威を強めるサバト。各地の公子は自領を守るべく、警察力を強めようとしていますが、それがかえって各層の反発を招き、さらなる混乱を助長するようになっています。

 絵空事だとされてきたゲヘナの予言が着々と実現する今、六百年の歴史に終止符が打たれるのか、それとも暴風の中をかろうじて切り抜けることができるのか、カマリリャとその中で跳梁する血族たちは史上最大の試練に立たされているのです。

inserted by FC2 system