伝説と歴史

Chronicles of Eternal Struggle

HISTORICA VAMPIRICA


太祖カイン

Our Sire's Sire

 ヴァンパイアの起源を記した聖書外典「ノドの書」によって伝えられる伝説によると、すべてのヴァンパイアのはじまりは、人類の始まりに時を同じくしていたといいます。

 アダムとエヴァの二人の子供カインとアベル。彼らは「ノド」(名もなき地)という土地で暮らしながら天上神に仕える、とても仲の良い兄弟でした。しかし天上神がアベルの供物をよしとし、自分の供物を嫌ったことに我を忘れたカインは、最愛の弟アベルを殺すという大罪を犯してしまいました。

 天上神はいかづちをもってカインを荒涼たる砂漠へと追放しました。神に呪われたカインは闇の中を彷徨し、そこで出会ったリリスという不思議な魔女との愛の呪縛に囚われました。彼女の援助で、カインはヴァンパイアの持つ神秘的な力(訓え)を目覚めさせたのです。

 一方、天上神はカインを悔い改めさせるべく、四大天使を送りました。しかし力を得たカインは四大天使の説得に耳をかさず、ミカエルからは炎の、ラファエルからは太陽光の、ウリエルからは吸血の呪いを受けたのです。
 最後に来たのは慈愛の天使ガブリエルでした。彼女はカインとその子孫に、呪いを克服する道「ゴルコンダ」を示し、神の大いなる愛を示したのです。

 やがて力を開花させたカインは、リリスの呪縛を振り切って、その住処を去りました。

 その後、さまざまな出会いと別れを繰り返したカインは、エヴァの第三の息子セツの子孫たる人間たちと邂逅しました。カインはその絶大なパワーを見せつけて、彼らの王となりました。そして輝かしく語り伝えられる「第一の街」エノクを建設したのです。

 しかし、カインは孤独でした。強大な力を持つ存在ゆえの孤独。それは彼をして次なる大罪を犯させました。すなわち、新たな4人のヴァンパイア(第2世代)を作り出したのです。そして第2世代は、また十数人のヴァンパイア(第3世代)を作り出しました。

 このときになってカインは自らの罪に気づき、二度と新たなヴァンパイアを作ってはならぬと定めました。それから数時代、「第一の街」は強大な帝国を築き、栄えました。

 しかし「大洪水」はその繁栄を一瞬にして押し流したのです。
 カインは自分の罪に罰がくだされたと子孫らに告げ、瓦解した「第一の街」を去りました。

 カインの子孫たちは、カインの帰還を望みましたが、大いなる始祖はそれを拒み、ヴァンパイアの歴史から姿を消しました。以来、始祖の姿を見た者はいません。


永劫の闘争ジハド

Jyhad, The Eternal Struggle

 始祖が姿を消した後、ウリエルの告げた永遠の親殺し・子殺しの呪いが後に残されたヴァンパイアたちを襲いました。第3世代は決起して、自分の親を全滅させたのです。

 そして、第3世代の13人は、それぞれ自らの作った子孫らを集めて、13の「氏族」を結成しました。彼らは美しい都市を再び築きましたが、始祖カインのいなくなった今、世代間の争いを止める者は誰もいませんでした。

 血みどろの同族殺しが展開され、その最中でヴァンパイアたちが築き上げた壮麗な都の数々は倒壊していきました。かくして、ヴァンパイアの黄金時代は永遠に去ったのです。

 悲哀と憔悴の中、ヴァンパイアたちは廃墟を後にして世界中に散らばっていきました。
 各地に散らばった後も、力と食料をめぐる同族争いは絶えることはありませんでした。強力な力を持ちながらも、決して安息を得ることのない生活。それがウリエルの告げたヴァンパイアの呪いだったからです。

 数千年が経過し、人間たちがその領分を徐々にのばしていく中、ヴァンパイアたちは人間社会の裏に隠れ、常にその歴史を操っていきました。

 ブルーハーがかつての「第一の街」の栄光を目指して、人間と共存する理想都市カルタゴ、その滅亡、ヴェントゥルー・ラソンブラ・マルカヴィアンに導かれたローマ帝国の衰退をはじめ、数々の帝国や文化の勃興、衰亡。そうした歴史の裏には、必ず彼ら闇の君主たちの影がちらついていました。

 やがて中世に入り、ヴァンパイアたちは田舎や人里離れた辺境で、隠然たる力を持つ有力者として暮らすようになっていました。その心のゆるみをつかれたのでしょうか、彼らはローマ教会の異常な成長ぶりを軽視していたのです。

 その結果は、数千年にわたるヴァンパイアの歴史の中でも最大の悲劇といわれる異端審問の発生でした。もともとは南仏カタリ派の討伐にはじまったこの運動は、全欧州に広がり、ヨーロッパ中のヴァンパイアを巻き込んだのです。異端審問によって古いヴァンパイアの多くが火刑台の上で永遠に滅ぼされ、ヴァンパイアたちは人間社会の表側から完全に逼塞してしまいました。

 恐るべき異端審問が下火になったころ、ヴァンパイアの長老たちは、再びその恐怖を復活させないため、「マスカレードの掟」を中核とする掟を遵守させるための組織「カマリリャ」を結成しました。しかしその厳格な統制に反発した一部のヴァンパイアたちはカマリリャを拒絶し「サバト」という過激派となったり、辺境に退いて「アンコニュ」と呼ばれる隠遁勢力になったりしました。

 かくしてカマリリャをはじめとする派閥を中心としたヴァンパイアの新たな時代が始まりました。派閥間、氏族間、世代間、個人間……多層化した同族殺しは全世界で激化し、現代の急速な変化に追いついていけない年長者と、先鋭的で権威を無視する若者たちとの戦いとあいまって、混迷は深まるばかりです。

 終末の時「ゲヘナ」は間近です。この世紀末の世界をヴァンパイアたちはどう生きていくのでしょうか。


十三氏族

Cursed Descendants

 カインの孫たちに起源を持つといわれる「氏族」は13あります。この他にもマイナーな血統がいくつかありますが、さしあたって重要なのは伝統ある誇り高きこの一族たちでしょう。

ブルハー Brujah, the Learned Clan

 古代、知識の守り手であり、飽くなき探求者であった彼らは、何よりも肉体と精神の自由を重んじ、束縛を嫌うヴァンパイアです。自分たちこそが真に自由な民なのだと信じています。しかし、氏族の始祖を殺した大罪によって、その子孫たちは心の平衡を保ちにくいという呪いを受け、自らの人間性と獣性のはざまで苦しむ運命にさいなまれています。

ギャンレル Gangrel, the Clan of Beast

 放浪の宿命を背負い、自らの獣性を使って荒野にその生きる道を見いだした彼らは、狼のごとく気高く、誇り高い一族です。人狼と心を通わすことのできる唯一のヴァンパイアたちでもあります。夜闇の中、人の手の及ばぬ大地を走る彼らに、敵はありません。

マルカヴィアン Malkavian, the Moon Clan

 かつて最も強大な力を有していた一族。しかし始祖マルカヴがカインから狂気の呪いを受け、誰からも爪弾きにされる宿命を背負いました。彼らはヴァンパイア社会のトリックスターであり、彼らの行動は誰にも予測はつきません。彼らだけが終末の真実を知っているという者もいます。

ノスフェラトゥ Nosferatu, the Clan of Hidden

 始祖が犯した邪悪な所業ゆえに、カインから永劫に醜く呪われた一族。彼らは決して人に好かれることなく、愛することさえも自らの容貌によってはかなく崩れる悲劇のヴァンパイアたちです。しかしその呪いゆえに、ノスフェラトゥたちはジハドの呪いから遠ざかることができ、精神の高みを目指すことができるのです。事実、彼らは数あるヴァンパイア氏族の中で、最も冷静で賢い者たちでもあります。

トレアドール Toreador, the Clan of the Rose

 “美しきものを求めよ”。始祖アリケルのその言葉に従って、この一族の者たちは永劫の命を美の探求にささげています。彼らにとって美こそが唯一最大の価値あるものであり、そのためにはすべてを打ち捨てることができるヴァンパイアたちなのです。彼らはおそらくヴァンパイアの中で最も美しい容貌を持つ一族でしょう。しかしその美しさゆえに、見失うものも多いことに気づくトレアドールは、あまりにも少ないようです。

トレメール Tremere, the Clan of Sorcerers

 この若く、謎多き一族は、その起源を中世にさかのぼることができます。魔術師の一族によって作られたこの氏族は、その厳格なヒエラルキーで、ヴァンパイア社会の支配権を握ろうとする野望多き一族です。そのためならば、どんな邪悪な事も辞さない彼らの姿勢は、孤独という大きな代償となってはねかえっています。誰もトレメールを信ずることなどないのです。しかし彼らは来るべき終末の時に向けて、その謎めいた計画を遂行し続けることでしょう。

ヴェントルー Ventrue, the Kingship Clan

 栄えあるヴァンパイアの一族の中でも、最も誇り高く、生まれながらの支配者たる一族がヴェントルーです。彼らは第3世代の長兄たる始祖以来、常にヴァンパイアたちの旗頭として歴史の荒波を押し渡ってきました。人間社会に入り込み、彼らを操ることでヴァンパイアの安寧を得る策をあみだしたのも他ならぬ彼らです。そしてカマリリャは彼らの創造物の中でも最大のものといえるでしょう。現代、彼らは世代間抗争によって崩壊しつつあるカマリリャの建て直しに奔走しつつ、自らの権力を拡大しようとしています。

ラソンブラ Lasombra, the Night Clan

 闇と地獄の力に通じた暗黒の一族。それがラソンブラです。彼らは自らを地上を支配すべく生まれた優れた一族と考え、人間性という軟弱な性質を捨て去ってしまったヴァンパイアたちです。高貴にして冷酷非情。人間などパン程度にしか考えていない彼らは、ヴァンパイアにとってもおそるべき存在です。ラソンブラは過去にカマリリャを否定して「サバト」を結成した氏族として有名です。ラソンブラのヴァンパイアたちは、闇の力に通じているが故に、鏡にうつりません。

ツィミーシィ Tzimisce, the Clan of Shapers

 「悪鬼」と形容される彼らは、おそらく最も残忍なヴァンパイアたちでしょう。トレメールに追われるまでは、東欧に本拠地を置き、人間たちを恐怖させる存在だった彼らは、ヴォズドと呼ばれる恐るべき合体怪物や醜悪なグールを使役して、恐怖をまき散らす最悪のヴァンパイアです。血や骨を自在にゆがめ、自らもおぞましい変身をとげることのできる彼らは、サバトの中で最も恐ろしい戦闘集団です。

ジョヴァンニ Giovanni, the Clan of Death

 中世に成立したこの一族は、生と死を操るすべに長けた妖術師たちです。ヴェネツィアを裏で操り、地中海で勢力を伸ばした彼らは、現代でも大企業のパトロンとして知られていますが、その表の仮面の下には、死者を冒涜し、墓を荒らし、おぞましい魔術を行う邪悪な魔術師たちの素顔が隠されています。ジョヴァンニは極めて排他的な一族であり、ひとつの人間の家系から生まれた者しかヴァンパイアにはしないため、数は少数です。

セト人 Setite, the Clan of Snakes

 すべての第3世代を憎む始祖“邪神”セトに率いられたこの一族は、アフリカに拠点を持ち、ヴードゥーや古代エジプトの暗黒魔術を駆使する宗教魔術結社です。彼らは自分たち以外のすべてのヴァンパイアを、世界の癌と考え、その全滅を志す極めて好戦的で危険な集団です。セタイトは人間の心の透き間に巧妙に入り込んで、その心を堕落させ、邪悪な信仰へと落としていきます。彼らにとって最大の武器は、敵となる各人の心の弱さなのです。
 別名を「Followers of Set」(セトの信徒)ともいいます。

アサマイト Assamite, the Clan of the Hunt

 ほとんどがアラブ系で構成されているこの一族は、最も求道的なヴァンパイアたちです。そして、他のヴァンパイアすべてを憎んでいる氏族です。かつて、アサマイトはその恐るべき暗殺技術を使って、ヴァンパイア間の争闘に甚大な被害をもたらしました。しかし彼らはカマリリャとの戦争に敗れ、トレメールによってヴァンパイアの血を飲めないという呪いを氏族全体に受けてしまいました。以来、彼らは契約を血の代償で請け負う傭兵たちとして動くようになったのです。
 アサマイトは修行僧のように、精神の鍛錬を重要視している一族でもあり、寡黙な人々です。 彼らの本拠地はトルコの山中にある「アラムート」(鷹の巣城)と呼ばれる城塞です。その正確な位置を知る者はアサマイト以外にはいません。かつて、一度だけカマリリャの軍勢によって陥落したことがあります。

ラヴノス Ravnos, the Wonderers Clan

 「ジプシー」を起源とする一族です。彼らは定住する地を持たず、世界中を放浪してまわります。放浪の間にさまざまな迫害を受ける内、ラヴノスは他人を惑わす能力に長けるようになりました。彼らは占いの技に最も長けたヴァンパイアたちであり、自らの運命を正確に予測することで知られています。


ゲヘナの夜は近し

Gehenna, The Endtime

 ヴァンパイアの聖書があるくらいですから、黙示録もあります。終末の時代「ゲヘナ」を予言したこの伝説は、恐怖と共に数千年にわたって語られてきました。以下に、簡単にその言い伝えを概説します。


 ゲヘナ。その終末の最初の日には、いにしえの強大なヴァンパイアたちがすべて目覚め、自らの子孫を一人残らず貪り食らうであろう。

 そして次の日、大いなる始祖たるカインが帰還し、再び「第一の街」の玉座に座るであろう。彼は同族を食らった罪人らを引き出し、自らの血を飲ませる。始祖の血は罪人の血を吸い尽くし罪人は滅びる。そして「闇の女王」リリスが現れ、カインと抱擁し、その牙をお互いの首筋に埋める。すると天空が裂け、大地が割れ、地獄の力が地上に吹き出すであろう。

 三日目、人狼たちは戦い、息絶え、いにしえのヴァンパイアたちによる強大な「血の帝国」が築かれる。その鉄の支配は生き残った者すべてにおよび、「最後の街」ゲヘナに地上に残ったすべての者はやってくる。

 そしてゲヘナの支配は一千年間続く。そこには愛も、哀れみも、命すらもない。美徳は悪徳となり、勇敢は卑劣となる。地獄より力を得た「闇の父」カインによって、あらゆる善きものが汚されていくであろう。

 そして雪が大地に降り積もる。太陽の光は風の前のともしびのように弱まり、そこにたったひとり、女が生まれる。

 エヴァの最後の娘。

 そして彼女がすべての者の運命を決するのである。

 この女が誰かは誰にもわからない。ただ彼女のうなじに記された月の印をのぞいては。彼女はあらゆる苦難に直面するであろう。だが、彼女こそが最後の希望の砦なのだ。

 やがて滅びのときがやってくる。ありとあらゆるヴァンパイアの敵が復活し、蘇生し、この血の少なくなった時代で、ヴァンパイアを狩る。血はダイアモンドのごとく貴重な時代がやってくるのだ。

 見よ!それこそゲヘナの時なり。影が飛び、竜が登り、闇は動き、月は影を落とす。天使は死に、乙女は去り、子供らはヴァンパイアとなり、氏族なきものが闊歩する。

 これこそ、その時。親は子を捨て、子は親を捨て、おたがいを太陽にさらすであろう。氏族なしは容赦されず、狩人たちは呪われしものらを執拗に狩るのだ。

 あらゆる絆は切れ
 あらゆる掟は崩れ
 あらゆるいたわりは消え
 あらゆる氏族は消え去る

 これぞゲヘナの時、我らが終末の時なり

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