Rune-line

サーター王国

(2)ヒョルト人の暮らし

Life of Heortlings

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2002/01/06改稿 ぴろき

 「ヒーローウォーズ」でプレイヤーが主に演ずることになるのは、ドラゴン・パス地方に暮らす「ヒョルト人」(Heortlings:ヒョルトの子ら)と呼ばれる人間の民族です。彼らは数百人からなる大きな氏族単位でまとまって暮らし、主神たる嵐の神オーランスの体現した六つの美徳(勇気、知恵、寛大さ、正義、名誉、信心)と古代の英雄ヒョルトが定めた法(氏族内の秩序を守ることを主旨とする)に従って、農業と狩猟を主とする山あいの素朴な田園生活を営んでいます。

 ルナーによる占領が続く現在も、彼らの暮らしは先祖から連綿と受け継がれてきたやり方をいささかも失ってはいません。ここでは、彼らヒョルト人たちの生活について概説を試みることにします。


一日の風景

 ヒョルト人の生活は、屋外では麦が芽吹く畑や牛と羊が草をはむ放牧地で、屋内ではかまどの女神マホーメイが加護する囲炉裏のそばで、日々過ぎていきます。

 朝、太陽が昇ると、男たちは起き出して畑や放牧地に向かいます。夫や息子が野良仕事に精を出している間、女たちは掃除をして食事を作り、赤ん坊に乳をやったり機織りで着物を作ったりして、忙しく家庭を切り盛りします。成人前の子供たちは親の手伝いをしたり、同年代の連中といろんなところで遊んだり、ときには引退した老人たちのところで昔語りや生活の知恵を教えてもらいます。

 寺院では司祭が礼拝を行い、聖所の掃除や勉強にいそしみます。森の中では村に帰らずに狩猟小屋で夜を過ごした狩人が、獲物を追って歩を進めます。街道沿いにやってきた商人は、家の軒先をまわったりして異国の品物を言葉巧みに売りつけようとします。

 日が落ちてくると、農作業に出ていた若者たちが笑いさんざめきながら帰ってきます。家では夕食が作られ、親族一同が飯にありつこうと集まってきます。暖かい食べ物や果物が並べられた周りは人でごった返します。そして、地ビールをあおりながら、男たちは口々にいろいろな話を誰彼ともなくしかけます。大笑いと大声でいっぱいの中、時にはとっくみあいのけんかまで始まることがあります。女たちはそうした大騒ぎを微笑みながら見守りながらも、男どもの軽口にはぴしゃりと鋭くやり返すのです。

 みなの腹もくちくなり、語り部や吟遊詩人が、いにしえの神々や英雄の物語を朗々と吟じ始めれば、あたりの者はみな静まりかえって、その歌に耳を傾けます。感極まって涙を浮かべる男たちもいます。さしもの子供たちもこのときはじっと祖先の昔話に聞き入るのです。

 夜が更けると、人々は三々五々、家の壁際にある寝床や吊り網にのっかって眠りにつきます。客人たちもその脇で横になります。みなが寝静まった後は、消えることのないマホーメイの炉火が、かたわらの棚に置かれた先祖や神々の土人形たちとともに、安眠を守ってくれます。そしてそのころ、夜風が冷たくなってきた見張り櫓では、不寝番の男たちがマントをきつく引き寄せて明け方までの仕事に集中するのです。


日々のならわし

 ヒョルト人は、すべからく“氏族”(clan)というまとまりの中で日々の暮らしを営んでいます。氏族とは、ヒョルト人のいくつかの家系(同じ家系の者は“血族/kin”と呼ばれます)が、神話や歴史上の事件や取り決めに基づいて共同生活を営むようになった数百〜千人からなる集まりです。氏族は、ヒョルト人の社会の基本単位であり、これより大きな組織(部族、王国など)はあくまで氏族の寄り集まったものとして認識されます。

 土地と家畜は氏族の所有とされ、氏族全体で管理運営します。氏族の土地はまとめて“トゥーラ”(tula)と呼ばれ、畑と放牧地、それから祝祭などに使われる空き地、および開拓されていない原野に分けられます。狩人たちは原野にある森に分け入って獲物を捕らえ、村に持ち帰ります。川が近くにあれば、釣りなどが行われることもあります。

農場の生活

 ヒョルト人の生活の場は、放牧地に囲まれた農場(Stead)です。標準的な農場では20〜40人が数家族に分かれて暮らしています。農場には普通、大雪に耐えられる長方形をした頑丈な母屋(長館、ロングハウス)がいくつか並んでおり、この母屋のまとまりの周りには、鍛冶場、納屋、食糧倉庫、搾乳小屋といった作業用の建物が設けられています。便所は母屋から少し離れた所に設けられていることが多いようです。畑はこうした家屋とともに石垣や柵で囲まれて襲撃から守られています。防壁の外には牛や羊を放牧する牧草地が広がっています。森や山間の平地から成る氏族の領地のあちこちにこうした農場が点々としているのが、サーターでよくみられる景観です。

サーターの農場風景

 氏族の中心地は“祖農場”(anscestor stead)と呼ばれます。ここはふつうの農場よりも一段と大きな集落になっており、小さな町といってもよい規模です。祖農場には氏族の集まりが開かれていろいろなことが討議される集会所をはじめ、市場の立つ場所、それから寺院や祠といった宗教的な聖所が設けられています。ヒョルト人たちは時々、祖農場におもいていろいろな用事をすませると、また自分の農場へと帰っていきます。敵が来襲してきたときには、祖農場は氏族全員が立てこもれる堅固な砦となります。

会合

 ヒョルト人の成人は、“氏族の輪”と呼ばれる氏族の集会で自由に発言することができます。族長が会議を仕切り、農作上の問題や、住民どうしの争い、隣の氏族への対応、戦争の準備などなど、ありとあらゆる案件がこの氏族集会で相談され、決議されます。参加者は武器を持って集まり、賛成するときには武器を盛大に打ち鳴らすこと(wapentake:武器鳴らし)で知られています。

 こうした大がかりな集会とは別に、族長と氏族の重鎮たち(近侍/thaneと呼ばれます)だけからなる幹部会議“内なる輪”があります。この会議の座は、嵐の神々のそれを踏襲しており、族長がオーランスの座を占め、近侍たちがその役割に応じて、長を補佐するさまざまな神々の座にすわります。この幹部会議は普通、七名で構成されています。

男と女

 一般に、ヒョルト人の男性は喧嘩っ早くて情熱的、女性は冷静沈着で計画的です。というわけで、ヒョルト人の夫婦関係は、頼りになるが時々暴走しそうになる夫を、しっかり者の妻が後ろで手綱を引っ張っている、ということが多いようです。もちろん、年をとれば男でも分別と知恵を学びますし、女性も大胆さを身につけるようになるものですが。

 そして、ヒョルト人の間で、男女の職能分けはあまりはっきりしていません。男は畑や戦場ではたらき、女は子供を育て家を守る、というおおまかな分別はありますが、どちらかというと個々人の能力に応じた仕事をするという実力本位の傾向が強いのです。例えば、男でも家事や子育てに専念する者はいますし、女でも才能と技量があれば戦士となって活躍してもかまわないのです。

衣食など

 ヒョルト人の衣服は亜麻や革を使った素朴なもので、上着と半ズボンが普段着です。サーターが寒い土地柄であることもあって、マントや帽子も好んで用いられます。衣服を織るのは女の仕事で、機織りの音は彼らの村の風景の一部です。

 ヒョルト人の主食は大麦です。食肉には子羊や豚が多く使われますが、実際には猟でとれたいろいろな獣が食卓に供されます。牛は主に農作業用ですが、余った牛は食用に屠殺されます。鶏肉をはじめとする鳥も食べます。なお、ヒョルト人にとって山羊は汚れた動物で、扱うことすら嫌がられます。

 ヒョルト人は犬を飼いません。かわりに“アリンクス”(Alynx:かすみ猫)という山猫の仲間を飼い慣らして、牧羊や狩猟、またはねずみ取りとして生活の中に取り入れています。アリンクスはヒョルト人にとって神々の時代以来のパートナーであり、家族同然に愛され育てられるのです。

美徳と犯罪

 ヒョルト人が美徳とするのは、勇気、知恵、寛大さ、正義、名誉、そして信心です。これに加えて、自由を愛する独立心もたいへん重んじられています。そして、まず氏族に、次に自分自身に責任があり、その後は、自分で責任がとれるかぎり誰に従ってもよいとされています。

 臆病であること、不誠実であること、正義を軽んじること、氏族の利に反する行い、長上に逆らうこと、客人に礼節を欠くこと、はいずれも不道徳であり、やってはならないことだとされています。

 サーターのヒョルト人たちは、神話時代の英雄ヒョルトの定めた掟に従っています。そこでは、氏族がすべての秩序の中心であることと、死刑に値する犯罪について決められています。それによれば、同族殺し、強姦、主殺し、カルトの秘密の暴露、混沌との交流、聖地の冒涜、故意に病気を広めること、が死や永久追放に値する罪だとされています。そして、親族の罪は一族全体で負わねばならないと考えられています。

 ヒョルト人にとって最も重い処罰は、無法者(outlaw)として氏族を追放されることです。無法者は、文字通り法の保護を受けることができません。具体的には、彼らを殺傷しても罪には問われないのです。無法者は別の氏族に受け入れてもらうかしない限り、誰からも相手にされず、歓待もされません。厳しいサーターの自然と、戦乱が巻き起こる情勢の中で無法者になることは、ほとんど死を意味するのです。

復讐と賠償

 ヒョルト人は何よりも自由を重んじますが、それゆえに自分にとって大切な人や物が傷つけられたときには、オーランスの定めた「暴力もひとつの手だ」というならわしにしたがって、自分で復讐を行うことを常としています。しかしこれでは際限のない仇討ちが社会を乱してしまうことになるため、ヒョルト人たちは「賠償」(weregild、ワーゲルド)という慣習をつくって紛争の手打ちを行います。誰かを殺傷してしまったり、貴重な財産を破壊してしまったときには、加害者の親族または氏族は被害者の氏族に対して賠償を支払うことで、それ以上の争いを防ぐのです。

 賠償の額は、相手の氏族にとって被害者がどれだけ重要な位置にいたかによって決まります。以下は標準的な賠償額です。特別な立場にある人物の場合、本来の階級よりも賠償ではより高い階級扱いとされることもあります(たとえば家長など)。

 もし、賠償のならわしを経ても両者の間で復讐心がおさまらなかった場合、一族をあげて加害者の一族(重大な事例の場合、氏族全体がかかわることもあります)に血の復讐を誓う事態に発展することがあります。これは「血の抗争」(blood feud)と呼ばれる状態で、悲惨な血みどろの争いが待っています。

 なお、自分と同じ氏族の者を殺傷することは、ヒョルト人にとってもっとも忌むべき犯罪“同族殺し”であり、死か永久追放に値します。逆に、ヒョルト人の氏族に属さない者(客人ではない異邦人や無法者)を殺傷しても罪には問われません……そのかわりにおそらくは相手の仲間から復讐の対象になるでしょう。

事例賠償額
自作農(土地を持っている人)を殺した場合25頭の牛を支払う、または三季節の追放。
小作農(土地を持たない人)を殺した場合10頭の牛を支払う。
近侍(族長の顧問、氏族の重役)を殺した場合50頭の牛を支払う、または五季節の追放、あるいはその両方。
加えて神に牛5頭または馬2頭を浄めのために捧げる。
貴族(族長、司祭長)を殺した場合100頭の牛を支払う、または無期限の追放、あるいはその両方。
加えて神に牛10頭または白い牛2頭を浄めのために捧げる。
逗留中の客人を殺した場合宿主の額と同じ。
客人ではない異邦人、無法者、族長の保護下にないトリックスターを殺した場合賠償なし。

戦い

 いざ何かの脅威から大切な家族や財産を守らねばならなくなったとき、あるいは敵に対して打って出るとき、なめした革に金属片や鋲を打ち込んだ鎧を着て、ぶこつな槍や剣を使って戦いに赴くのがヒョルト人の間で一般的です。優れた飛び道具である弓は、森での狩猟に使いやすいよう短いものが用いられます。ヒョルト人にとって戦いは日常の延長上にあるので、軍用に特化した武具はめったに見られないのです。

 また、ヒョルト人には軍隊という考え方は薄く、戦士として訓練を受けて行き届いた武具を持った者はあまりいません。そこで氏族内の屈強な者たちや外来の傭兵たちが「近侍武士」(Weaponthane)と呼ばれて、族長子飼いの戦士としての任についています。彼らは氏族最強の戦士たちで、族長から生活扶養を受けながら、氏族の領地内を巡回したり、敵の襲撃からの防衛を行います。

 もちろん近侍武士たちだけでは戦争はできません。ヒョルト人の氏族が持つ軍勢は、その大部分が「フュルド」(fyrd)と呼ばれる民兵から成っているのです。フュルドに参加するのはある程度の戦闘訓練を受けており、武具も調達できる男たちであり、その数はおおまかにいって氏族の成人男性のおよそ半数にあたります。

 トゥーラ内への襲撃といった非常事態に応じて見張りや近侍武士から号令がかかると、彼らはできるだけ急いで自前の武具(たいていは槍と盾、革の鎧とかぶと)を装備して現場に馳せ参じます。近侍武士たちはこうして三々五々集まってきたフュルドの陣頭指揮をとることになります。なお、フュルドの目的は氏族の防衛であるため、フュルドとして外に遠征することはありません(使節に警護員をつけるなどといった形で武装した男たちが外に出ることはありますが)。

 ほんとうに危機的な状況の場合は、男子全員が召集され、女子供も戦闘に参加しますが、めったにあることではありません。

襲撃行

 ヒョルト人の氏族は、それほど人手を必要としない農閑期には、近隣の氏族への襲撃を慣習的に行っています。

 こうした襲撃行は、大きく分けると“牛泥棒”(cattle raid)と“襲撃”(raid)の二種類があります。前者は、少人数の武装した若者たちが、近くの氏族の放牧地にこっそり忍び入って、時には小競り合いを経て、牛を連れて行くというものです。これは、ヒョルト人の間では若者どうしの健康なスポーツと見なされており、そうそう悶着の種になったりはしません(もちろん、度を超せば紛争に発展することもあります)。

 後者の“襲撃”は、相手の財産や土地をぶんどるために行う本格的な襲撃です。主に抗争中の氏族との間で行われます。男たちと近侍武士から成る百名強の軍勢で目標とする氏族の土地に攻め込むのです。このとき、看護役として女たちや癒し手も軍勢の後方に付き従います。相手の氏族も相応の迎撃をしますから、自然、襲撃は血なまぐさい展開を招きます。しかし戦場で死ねばオーランスの広間で勇者として遇されることが約束されていますし、武勲をあげて帰れば多大な賞賛と褒美にあずかることができますから、男たちは我先にと戦いの中に身を投じるのです。

成人の儀式

 ヒョルト人の少年少女は、十五歳になると成人の儀式を受けて、そこで課される試練を乗り越えることができれば、晴れて大人の仲間入りをすることになります。この通過儀礼は厳粛なもので、少年少女たちは神々の領域にはじめて実際に足を踏み入れることになるのです。

 大人と認められたヒョルト人は、以後、氏族の集会や寺院での礼拝に参加する権利を、他の年長者と同様に与えられることになります。もちろんそれと同時に、ヒョルト人としての規律と義務に従わねばならなくなります。もう子供だからといって看過されることはありません。

婚姻

 最後にヒョルト人の結婚について触れます。ヒョルト人は一夫一婦制をとっており、離婚も認められています。先祖を同じくする血族の異性との結婚は許されていません。このため、婚姻を結ぶときには近親相姦にならないように注意を払わなければならないのです。そういうわけで、多くの場合、結婚相手は別の氏族から連れてくることになります。

 なお、ヒョルト人の家系は普通、父親側をたどります。先祖を同じくするかどうかは父親の家系をたどっていって判断されることになります。まれに女性優位の氏族では、母親の家系をたどることもあります。

 夫と妻のうち身分の高いほうの家に低いほうが入ります。双方が同等の場合は夫の家に妻が入ります。また、サーターのヒョルト人の間では、夫婦の間にできた子供は夫の氏族の一員となります。


部族

 ほとんどのヒョルト人にとって、生活する上でもっとも大きな組織はあくまで日々の暮らしで助け合う身近な人々、つまり氏族です。しかし、より大きな集まりを作ることから得られる利益にはさまざまなものがあるために、大昔からヒョルト人たちは隣接するいくつかの氏族で“部族”を作り上げてきました。

部族の評議会

 部族としてまとまった諸氏族は、協議するための場として評議会を編成します。これは氏族の集会がより大きくなったかたちの集まりで、やはりオーランス神が作った嵐の神々の評議会を模しています。構成員は、通例、十二人の幹部とひとりの“部族の王”です。

 部族の王は、その名の通り、部族の最高指導者です。彼(または彼女)には主神オーランス(あるいはアーナールダ)の徳目を体現した理想的な人物としての資質が求められ、王権を象徴する宝物が与えられます(冠や杖など)。そして王となるには昔からさまざまな試練が課されてきました。当然ながら、部族の王は諸氏族やヒョルト人たちの仲裁役を公正に務める義務があります。もしそれに失敗すれば、その地位をすぐさま追われてしまうことでしょう。

 評議会に加わる部族の幹部は、参加している氏族の長たちから成る協議会で選出されます。普通は、部族の王と氏族の長たちがそれぞれ候補者を指名してから選考を行います。たいてい、特に問題もなく妥当な人選が行われて選出は終わります。

 部族の評議会は、普通、共通の聖地とされる場所で開催されます。その中では、婚姻や外交、交易などの事柄が話し合われ、紛争の調停や裁判が行われます。特に氏族間の婚姻については、近親結婚を防ぐために注意が払われます。

部族の祭儀

 氏族ごとにも、神々を祀るための寺院が精力的に設けられて運営されていますが、部族としてまとまることで、より大きな規模で礼拝を行って神々の加護を受けることができます。ヒョルト人たちは、自部族の聖地での大祭儀に参列することで、氏族だけでは望めないような偉大な奇跡に浴することができます。こうした儀式は、その部族で重要とされる神々の祝祭日に、部族を代表する司祭たちによって執り行われます。

 加えて、それぞれの部族には必ず、部族の団結心を象徴するワイター(守護精霊:後述)がいます。その強さは部族の大きさや絆の堅固さによって決まるといわれています。

都市の輪

 サーターの諸部族は、賢者サーター王の教えによって石壁で囲まれた「都市」を作るすべをおぼえました。そして、それぞれの都市はその周りに暮らすいくつかの部族によって維持されています。これらの部族は“都市の輪”と呼ばれる部族間の集まりを作って、自分たち共通の都市の管理運営について話し合います。

 サーター地方にあるそれぞれの都市には、“都市の輪”に属する部族によって運営されているさまざまな寺院が設けられています。都市を訪れた人々は、そうした寺院に詣でることを忘れません。


宗教とヒーロークエスト

 ヒョルト人は先祖から伝わる神話や伝説をとても大事にしており、そこからすべての生活の知恵を学んでいます。また、彼らは一日の仕事が終わった後、みなで集まって夕食を囲み、いろいろな話をすることがとても好きです。語り部が吟じる遠い昔の英雄の話もあれば、男たちのたわいもないほら話や、村にやってきた旅人から仕入れたよその土地の噂など、おしゃべりが絶えることはありません。物語は、彼らにとって最高の娯楽であり、すばらしい伝統でもあるのです。

 そして、ヒョルト人は常日頃から生活のいろいろな場面で神々や精霊の助言をあおぎ、感謝の祈りを欠かしません。祭日には大人たちは氏族の祖農場にある寺院に集まって、神巫の導きのもとで礼拝の儀式を行います。このとき、寺院は神々の住まう世界との橋渡しとなり、集まった人々は実際に神話の世界を体験することになるのです。たとえば主神オーランスの館に入って神々の宴に参加することができるのです。

 そうしたヒョルト人にとって、神々や精霊は隣人と同じくらい身近な存在です。ヒョルト人の奉じる数多くの神々はまとめて“嵐の部族”(the Storm Tribe)と呼ばれます。彼らは、世界の王であり風の大神であるオーランスとその王妃であり大地母神であるアーナールダを筆頭とする偉大な神々の部族だからです。ヒョルト人の男女の九割近くは、男ならオーランス、女ならアーナールダの入信者です。この二人の大神のカルト(教団)の中にはいろいろな下位カルトがツリー状に編成されており、人々はそうした数多くの下位カルトのうちから、自分の生活スタイルに応じたものを選んで入信します。

 まれに、オーランスとアーナールダ以外の嵐の部族の神々に入信するヒョルト人もいます。彼らは何らかの分野の専門家であり、ヒョルト人社会の間では欠かせない重要な役割を担っています。ただ、社会の主流からははずれているので、敬遠され気味なのも否定できません。

 嵐の神々に加えて、ヒョルト人にとって身近な霊的存在として“祖霊”(anscestor)と“ワイター”(wyter)があります。祖霊とは、その名のとおり、自分の氏族の先祖たちの霊です。彼らは死後、神界でオーランスをはじめとする嵐の神々に仕える霊魂になっており、折に触れて氏族を見守り、加護を与えてくれるのです。彼らは一年に一回、真冬の晩に地上に降りてきて、自分の子孫たちのもとに現れて祝福を授けます。

 一方、ワイターとは、氏族をはじめ、カルト、戦士団といったヒョルト人のさまざまな組織(コミュニティ)を加護してくれる小神たちのことです。これは、昔の英雄かもしれませんし、地元の神霊たちかもしれません。ワイターは、自分が守る組織が安全に日々の暮らしを送ることができるよう、外敵の侵入やさまざまな脅威に目を光らせ、何かあれば組織の長に報せてくれます(なお、ワイターの意思は普通、組織の長にしかわかりません)。逆にいえば、氏族のワイターの力の及ぶ範囲が、トゥーラだということもできるのです。ワイターは、かならず何かに宿っています。例えば、氏族長の銀の腕輪、村一番の大木、軍旗、先祖伝来の武具などなど……。そうした物品はヒョルト人が最も大切にしている品です。それが失われれば神霊の加護を失って、組織自体が崩壊してしまうからです。

 ヒョルト人をはじめ、グローランサの人々はこのような神々や精霊たちと宗教祭儀を通してつながりあい、神話を肌身に感じ取ることができます。彼らにとっては、神々や伝説は架空の物語ではなく、確固たる現実なのだといえます。

 時には、高い資質を持った者が、神話や伝説の偉業を儀式的に踏襲することで、新たな力や加護、あるいは特別な成果を得ようとすることがあります。例えば、先祖の英雄が神々の世界に分け入って武具を得てきた逸話をまねることで新たな神具を獲得したり、神々が果たした試練を再びくぐり抜けることで氏族に豊かな加護をもたらしたり、などです。こうした神秘的な儀式を「ヒーロークエスト」と呼びます。ヒーロークエストは決して過去や未来の超人だけの特権ではありません。現在のグローランサに生きる者ならば、誰でもこの偉業を達成するチャンスはあります。そして「ヒーローウォーズ」の核心もこの探索行にあるのです。

ヒョルト人の神話

 ヒョルト人は、次のような神話を伝えています。

 はじめのころ、世界は邪悪な“皇帝”によって支配されていました。彼はあらゆるものを奴隷にし、縛り付けていました。そこで嵐の王ウーマスの末子であったオーランスは“皇帝”を殺して世界をその圧政から解き放ちました。このとき、オーランスは“皇帝”の囚われ人となっていた大地の女神アーナールダと結婚して、二人して人々が生きるべき道と掟を定めると、世界中から神々を招いて、親族たちとともに“嵐の部族”という最初の部族を作り上げました。このころ、民を導いたのが最初の英雄“勝利者”ヴィングコット王でした。

 しかし、いくつかの過ちが重ねられたことで、世界は闇に覆われ、混沌がやってきました。これを憂えたオーランスは、この世に光を取り戻すために、自ら西へと旅立ちました。そして、途中で出逢った六人の神々とともに西の果てから地界へと降りていったのです。

 オーランスの加護を失った人々は、悪しき勢力の前に滅びそうになりましたが、このとき現れた英雄ヒョルトの偉大な導きによって、民は“ヒョルト人”として団結しました。そして、さまざまな種族と同盟を結んでこの困難な時代に立ち向かいました。

 一方、数々の冒険を経て地底にある死者の国にたどりついたオーランス一行は、そこで死せる“皇帝”と再会しました。彼らは“大いなる盟約”を結ぶことで、混沌との戦いで荒れ果ててしまった世界に再び生命を取り戻させたのです。オーランスは太陽を空に送り出し、“曙”が訪れました。

 この後も、ヒョルト人たちは“グバージ”という形で表れた混沌の侵略や、竜と話す者や神知者たちの過ちと戦い、そのつど勝利をおさめてきました。そして今再び、ルナー帝国という悪しきものが世界を暗くしようとしています。ヒョルト人は再び立ち上がってこれを打ち破らねばなりません。


ヒョルト人の敵

 ヒョルト人が“古の闇”(Predark)と呼ぶ混沌はすべからくヒョルト人の敵です。混沌はこの世を破壊する勢力であり、絶対に許してはならないし、氏族の土地に入れてはならない相手です。混沌の怪物が目撃されたという報せが入ると、氏族の男たちは手に手に武器を持って討伐に向かいます。特に混沌が多い地域では、ウロックスを奉じる混沌殺し専門の戦士を雇い入れて、こうした脅威に立ち向かいます。

 同様な理由から、混沌をしもべとするルナー帝国もヒョルト人にとって敵です。さらにルナーは、ヒョルト人から何よりも大切な自由を奪い、祖先の掟に定められていない重い税を課しました。彼らは甘言を弄して邪悪な教えを子供たちに吹き込もうとし、オーランスへの礼拝を弾圧しています。

 混沌の他にも、氏族ごとに神話伝説の時代から敵対してきた勢力がいます。ドラゴン・パス各地に住んでいる古の種族は、隣接する氏族とは昔からいろいろと反目していることで知られています。

 また、ドラゴンやドラゴニュートは、かつて“ドラゴンキル戦争”を起こした記憶から、畏怖されたり憎悪されています。もっとも、彼らに積極的に手を出そうとする者は誰もいませんが。


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