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サーター王国

(3)サーターの神々

The Storm Tribe

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2000/12/03 ぴろき
この記事で使われている画像はすべて「Hero Wars - Glorantha」所収です。

 ドラゴン・パスに暮らす蛮族たちは、嵐の神オーランスを主神とする風の神々とその盟友たちを尊んでいます。これらの神々はまとめて“嵐の部族”と呼ばれています。必ずしも風のルーンに関係する神々だけではなく、オーランスの妻である大地母神アーナールダをはじめ、死を司るフマクトや商業の神イサリーズなど、オーランス人の生活に関わる神々はすべてこの神殿の中に列せられているのです。

 氏族や村々の寺院で日々礼拝されているのは主に嵐の部族の長であるオーランスとアーナールダですが、同時にその土地での暮らし方に縁が深い神々や氏族のルーツである英雄たちも別に社を建てて敬われるのが一般的です。もちろんその他の“嵐の部族”の神々も折に触れて供物が捧げられ尊ばれています。また、よく使われる街道や脇道には旅の安全を願ってイサリーズの祠が地元の人々によって作られています。都市に行けば、さまざまなカルトが運営する寺院がいくつもあって、多くの参詣者を集めています。


二人の主神

 嵐の神オーランスと、その妻にして大地母神アーナールダは、嵐の部族の王と王妃であり、すべての神々の頂点に立つ偉大な夫婦です。オーランス人の尊ぶべき美徳はすべてこの二人の中に体現されており、サーターの民の生活のあらゆる根幹はこの二人のもたらした嵐の掟と大地の法に息づいているのです。

 サーターのすべての氏族がオーランスとアーナールダに捧げた寺院を設けていますが、王国崩壊後は、ルナーの弾圧によってオーランスの寺院の多くが無惨に破壊されました。しかしそれでも、人々は改宗を装いながら、ひそかに偉大な神々の王への信仰を続けています。

オーランス、神々の王 Orlanth

 “嵐の部族”の族長であるオーランスは、天と地の狭間にある“中空”を統べる王者です。オーランスは戦い、裁判、詩文、農業をはじめとするあらゆる物事に通暁している偉大な指導者ですが、同時に優秀な者に対しては惜しみない歓待を与えることでも知られています。そのため、彼の周りには血のつながった風の神々の他にも、数多くのいろいろな神々が集っているのです。

 オーランスは数々の冒険を果たしましたが、特に有名なものが世界が混沌によって破壊されたとき、仲間とともに地界に赴いて“大いなる盟約”を結び、世界を再生させた“光持ち帰りしものの探索行”です。

 オーランスは蛮族の男性の理想像です。勇敢な戦士、好奇心に満ちた冒険家、叡智に長けた族長、愛情深い夫、厳格な父……見習うべきすべての美徳はオーランスによって体現されているのです。オーランス人は死後、皆“オーランスの大広間”か“アーナールダの機織りの家”に集って宴を楽しみ、再び生まれ変わっていくことを堅く信じています。

 オーランスは、さまざまな年齢の力強い男の姿として描かれ、その多くは稲妻と戦士の武具を身につけて、族長であることを表す権威の腕輪をはめています。

アーナールダ、大地の母 Ernalda

 オーランスの妻であるアーナールダは、あらゆる生命の母であり、豊穣の源です。作物や牧畜をはぐくむ大地は、毎春アーナールダによって生命力を吹き込まれ、秋に実りとなって収穫されるのです。彼女はすべてのものの母であると同時に、比類無き指導者でもあります。アーナールダは夫オーランスのかたわらにあって常に適切で賢明な助言を行い、時には自ら調停役をかってでるのです。

 アーナールダはかつて死せる“皇帝”とともに地界に囚われましたが、勇敢なオーランスの“光持ち帰りしものの探索行”によって救い出され、以後、彼の永遠の伴侶として“嵐の部族”の女王となりました。このとき彼女は“大地の部族”から何人かの女神も連れてきています。

 アーナールダは蛮族の女性の理想像です。賢明なる妻、慈愛深い母、快活な娘、冷静沈着な女族長など、社会のいしずえとなるべきオーランス人の女性にとっての美徳はすべてアーナールダによって体現されています。彼女たちは死後は“アーナールダの機織りの家”で安息の日々を過ごした後、生まれ変わると信じています。

 アーナールダは、腰のベルトに鍵束を吊し、肉と果物があふれんばかりに入った籠を手に持った婦人として描かれます。その腕にはオーランス人が婚約を示すためにつける腕輪が七つかけられています。


光持ち帰りしものたち

 「光持ち帰りしものの探索行」は、オーランス神話のクライマックスであり、最も偉大な業績と讃えられる冒険です。世界に光を取り戻すため、地界に向かってオーランス神に途中で合流し、後々の旅の試練で活躍した六人の神々は、今も“光持ち帰りしものたち”として嵐の部族の中でも特に尊敬されている神々です。オーランス人の氏族の長老会議の中には、オーランスとこの六人の一行を踏襲したかたちのものも少なくありません。

 ただし、六人の中で“肉体を持つ男”とギーナ・ジャーは、いずれもひとりの神としては信仰されておらず、かわりに氏族の英雄や守護精霊が列せられて礼拝されることになっています。また、トリックスター・ユールマルを信仰する者は、法の外にあるアウトサイダーとして冷遇されます。

チャラーナ・アローイ、白き癒し手 Chalana Arroy

 大いなる癒し手であるチャラーナ・アローイは、誰からも愛される慈愛に満ちた女神です。彼女は神代から今に至るまで、ずっとこの世界の傷つき病んだ者たちを救うことに全身全霊を捧げてきました。彼女はあらゆる傷や病を癒すすべを心得ています。

 世界最古の神のひとりであるチャラーナ・アローイは“神々の戦い”の惨禍を悲しんで癒しの技を世界中に広めました。そしてオーランスの“光持ち帰りしものの探索行”に同行して地界に赴き、死せる“皇帝”すらも生き返らせました。

 彼女のカルトは大きな組織は持ちませんが、白き衣をまとったチャラーナ・アローイの信徒は、世界中どこに行っても敬愛される献身的な癒し手たちです。彼らは徹底した非戦論者で、あらゆる生物への殺傷が厳しく禁じられています。

 チャラーナ・アローイの姿は、その信者と同様、白いガウンをまとった背の高い上品で清楚な女性として描かれ、その腕と指先は友愛と祝福、そして癒しの呪文のしぐさをとっています。

ランカー・マイ、灰色の賢者 Lhankor Mhy

 灰色の衣と長い髭を持つ賢者ランカー・マイは、知識を司る叡智の神です。彼は“嵐の部族”の知恵袋であり、オーランスを補佐する優れた法官でもあります。彼の腕には“知識の腕輪”がかかり、いつでも巻物をかかえている姿で描かれます。

 ランカー・マイは世界を救うためにオーランスとともに地界に赴いたとき、それまで蓄えた豊かな知識と優れた知恵によって、一行が直面した数々の危機を乗り越えたことで知られています。

 ランカー・マイは、氏族に伝わる口伝や慣習を司る法官をはじめ、さまざまな分野の学者、都市の書記、年代記の編纂者、その他知識に関係する仕事をする者すべてに信仰されています。彼の信徒にとって知識を破壊したり冒涜する行為は絶対に許してはならない所業です。

イサリーズ、通商の神 Issaries

 言葉や取り引きなどといったコミュニケーション全般を発明したイサリーズは、オーランス人の道祖神でもあり、公正な商取引や旅先の安全を守ってくれる神です。彼の三人の息子たちも通商の神として広く敬われています。長男の“穀の余り”ハーストは物々交換を、次男の“仲買人”ガーゼーンは商売の共通語である“交易語”を、そして三男の“黄金の舌”はキャラバンを、それぞれ生み出しました。

 イサリーズはランカー・マイとともに西に赴く途中のオーランスの一行に参加しました。西方行や地界下りで立ちふさがる数々の難所や扉をイサリーズはその力で巧みに突破し、冒険の成功を導いたのです。

 イサリーズは、旅や交易、商業にたずさわるオーランス人に広く信仰されています。街道のそこかしこにはイサリーズに捧げられた祠が点々としており、旅人たちは道中の無事を祈ってそこへの礼拝を欠かしません。

 その地方の服に身を包んで、片手を体の前に、もう片手は後ろ手にまわした姿が、イサリーズの一般的に描かれる姿です。また、通商の神であることを表すために、いろいろな品物が彼の周りに付け加えられます。

ユールマル、道化 Eurmal

 ユールマルは“トリックスター”と呼ばれる神々の道化であり、愚者です。その行いは突拍子もなく予想のつかないもので、物事を良くすることもありますが、たいていは悪くしてしまいます。神代より、ユールマルの信じがたい愚行によって、世界には多くの災いとわずかな幸福がもたらされてきました。彼は“光持ち帰りしもの”のひとりでもありました。

 ユールマルの信徒は、法や習慣などのあらゆる束縛から自由であるかわりに、すべての秩序からの保護も受けられません。彼らはまったくのアウトサイダーであり、完全な自由人です。

 トリックスターである彼の姿は、挑発的に着飾って、人を小馬鹿にした笑みをうかべ、悪ふざけの入った小袋を片手に、わいせつなしぐさをしている、というものがよく見られます。


嵐のはらから

 天空と大地を引き裂いて中空を作り出した嵐の王ウーマスの子らは、“若き神々”の筆頭となって世界に激動の時代をもたらしました。主神オーランスを頭とするこの嵐の神々は、オーランスの荒々しい兄弟たちと、“雷鳴の兄弟”と称されるオーランスの子供たちから成っています。彼らはそれぞれ独特の性格と力を持っており、それぞれがオーランス人の生活の諸分野に対応して礼拝されているのです。

フマクト、死の戦神 Humakt

 フマクトは、すべてのものに平等に訪れる“死”を司る寡黙で恐ろしい神であり、真実を重んじる厳粛で誠実な剣士です。彼の姿は、“死”を象徴する装飾された剣そのものか、あるいは剣と盾で武装したいかめしげな戦士として描かれます。

 フマクトが地底で発見した“死”の力をはじめて試したのが人間の祖である“定命の祖父”であったため、人間は死すべき定めの種族となりました。フマクトは本来オーランスの異母兄にあたる北風の神ですが、“死”を濫用して皇帝を殺害した弟の所業を恥じ、風の力を自らはぎ取ったとも伝えられています。

 フマクトを奉じる剣士たちは、何よりも真実を重んじる厳格な名誉規範にのっとった戦いの道を歩みます。彼らにとって誓約は絶対であり、虚言は最も忌むべきものなのです。“死”の体現者であるフマクトの信徒は人々に畏怖され敬遠される存在ですが、同時に決して嘘偽りに走ることのない真摯なともがらとして信頼もされているのです。

ウロックス、混沌殺し Urox

 荒野を吹き荒れる竜巻である“嵐の雄牛”(ストーム・ブル)ウロックスは、混沌を討ち滅ぼすことを永遠の使命とする荒々しい狂戦士の神です。ウロックスは雄牛の頭部を持つ精悍な戦士か、ひづめを持った猛獣の姿で描かれます。

 ウロックスは“大暗黒”のさなかにも力尽きることなく、混沌の大軍勢と戦い続けました。最も偉大な武勲は、混沌の首領“悪魔”との一騎打ちです。彼はドラゴン・パスの東にあるプラックス平原を舞台に魔王と対決し、幾多の神々の助けを借りながらついに怨敵を打倒したのです。ばらばらにされた“悪魔”の身体は今もプラックスの“大石塊”の下に埋まっています。

 ウロックスの戦士は、混沌殺しに一生を捧げた豪放磊落、悪く言えば粗野で乱暴な荒くれ者たちです。彼らは混沌の存在を感じ取る力を持っており、いったん混沌を前にすれば決してひるむことなく戦います。このため、ウロックスの信徒は一般に短命です。

ヴィンガ、女冒険者 Vinga

 ヴィンガは、普通は男の仕事とされている、戦いと冒険の日々を送ることを選んだ女たちの守護女神です。彼女は無力な者、例えば迷子や暴行を受けた女性、襲撃を受けて窮地にある村落、戦いの中で瀕死の重傷を負った友、を守ることを使命としています。

 ヴィンガは“大暗黒”のはじまるずっと以前から、オーランス人の氏族を守ってきました。彼女とトロウルとの間の戦いは特に激しく、今でもヴィンガ信徒はトロウルに対して油断なく目を光らせています。ヴィンガの姿は、男ものの装束の上にスカートをはき、武具を構えている赤毛の女性として描かれます。彼女の信徒もまたこの姿を踏襲した装いをすることで知られています。

オデイラ、狩人 Odayla

 オデイラはオーランスの息子であり、狩猟と森の獣たちの守護神です。彼は狩りによって生きるすべと獲物が安らかに生き返ることができる方法を人々に教えました。オデイラの加護によって、狩人は豊かな獲物を確実に捕らえることができるのです。そんな彼の姿もやはり弓をかついだ若い狩人として表されます。

 オデイラは、オーランス人の狩人たちに信仰されています。狩人の多くは屋外でほとんどの時間を過ごし、農村に暮らす他の人々からは少し離れた生活を送っています。

インキン、山猫の父 Yinkin

 “かすみ猫”(シャドウキャット)とも呼ばれる山猫アリンクスは、犬を飼う習慣のないオーランス人にとって一番身近な動物のひとつです。特に狩人にとって、俊敏で賢いアリンクスは無二のパートナーなのです。インキンは、オーランスの異父弟であり、兄神に忠実であることでも知られています。インキンはマイナーな神ではありますが、アリンクスの飼い主や多くの狩人たちは彼への礼拝や供物を欠かしません。彼の姿は、アリンクスか、またはアリンクスの頭部を持った人間として描かれます。

コーラート、風の父 Kolat

 コーラートはオーランスの異母兄で、オーランス人の祈祷師が操る四方の風を統べる精霊の王です。彼を崇める祈祷師は“コーラートの子”(Kolating)と呼ばれますが、人里離れたところに独居して、ほとんど誰に知られることもなく生きます。彼らはまれに訪れる者の頼みを聞いて風の精霊を召喚するともいわれています。コーラートは、ほほをふくらませて風を吹く顔と力強い腕を持つ突風として表されます。

雷鳴の兄弟 Thunder Brothers

 オーランスの息子たちのうち、主要な中に数えられない者たちは“雷鳴の兄弟”と呼ばれてひとまとめにされています。彼らが個別に礼拝されることはあまりありませんが、“投石手”ヘドコランスや“飛翔者”ヴァンガンスなどといった者たちは、信者に与える特殊な魔力ゆえに礼拝の対象になっています。“雷鳴の兄弟”はオーランスに率いられる風の戦士の一団として描かれるか、あるいは個別に特徴を備えた神として表されます。

悪しき風の神々

 嵐の部族の中に参加していても、オーランスの統治を嫌がり、トラブルの種になってばかりいる困りものの神々がいます。彼らは“悪しき風”と呼ばれ、神代からオーランス人たちに災いをもたらす存在として恐れられてきました。こうした神々には、冬の吹雪の神ヴァリンド、干ばつと飢饉の神ダーガ、荒れ狂う暴風ガガースといった者たちがいます。彼らは一般に礼拝されておらず、ひどい災害に見舞われたときにだけ、その怒りが向けられないように供物がささげられるにとどまります。

 まれに、こうした悪しき神々を積極的に信仰する輩がいますが、そうした者たちの心も神々と同じようにねじくれて歪んだものになってしまいます。


大地の一族

 アーナールダがオーランスのもとに嫁いで以来、大地の神々は嵐の部族のもうひとつの要となりました。嵐の神々がどちらかというと男のなりわいを司る神々なのに対して、大地の神々はオーランス人の女たちのいろいろな仕事や暮らしを統べています。そのため、大地の部族の神々の多くは女性です。彼女たちは、春に芽吹き、秋に収穫され、冬には眠りにつく大地の力の諸側面を表しており、農業を営む人々から篤い信仰を受けています。

ヴォーリア、春の乙女 Voria

 春の訪れと新しい生命が芽生えることを告げる無垢な女神であるヴォーリアは、オーランスとアーナールダとの間に生まれた娘で、幼子を守る女神でもあります。彼女は、“光持ち帰りしもの”が到来して、地界が喜びに満ちたときに生まれました。

 ヴォーリアの訪れは作物の女神たちに新しい季節のはじまりを教えるので、オーランス人たちは豊かな実りを祈願して、この春の乙女にたくさんの供物を捧げます。ヴォーリアは、はだしで春の野を駆け回る清らかな娘として描かれます。

バーンター、鋤の神 Barntar

 バーンターは、オーランスとアーナールダとの間に生まれ、炉辺の女神マホーメイを妻としている神で、耕作と野良仕事を司っています。彼は地味で物静かな神ですが、オーランス人にとってバーンターのはたらきはまさに氏族の根幹を成しています。バーンターは、鋤をもって大地を耕す百姓の男として描かれます。

家畜の女神

 サーターの民が飼う牧牛の女神がウラルダ、放牧地で飼われる羊たちの母がネヴァーラです。オーランス人は、牛の乳の出がよくなるように、羊がまるまる太るように、そしてたくさん子牛や子羊が生まれるように彼女たちに供物を捧げます。

 また、一般的ではありませんが、豚を飼っているオーランス人氏族もあります。そうした人々は豚の母であるムラロタに捧げた寺院をトゥーラに設けていることがあります。

ヴォーリオフ、牧人 Voriof

 ヴォーリオフは“牛飼い”とも呼ばれ、放牧地で牛や羊を飼う牧人たちの守護神です。オーランスとアーナールダの息子である彼は、牧童の神でもあり、野山をかける少年たちを見守る存在として尊ばれています。彼の姿は、牛追い棒をもった牧人として描かれます。

エスローラ、穀物の母 Esrola

 サーターの民の穀物の女神であるエスローラは、特にオーランス人の主食である大麦の実りを恵んでくれます。そのほかにも、作物や豆類はすべて彼女のもたらす大地の恵みと信じられており、春先や秋の収穫時にはエスローラへの祈りの声は絶えることはありません。エスローラは、聖なる大麦の苗を手にした若い女性の姿で描かれます。

アズリーリア、富の祖母 Asrelia

 アーナールダの母親であるアズリーリアは、地下の奥底に眠る宝の蔵を守る気むずかしい女神です。彼女は冬ごとに大地のあらゆる宝を手元に引き寄せて数え、春になったらそのうちのいくばくかを地上に返します。

 アズリーリアは、首飾りや宝石で飾り立てたローブ姿の醜い老婆として描かれます。彼女の信徒は大地の寺院にたくわえられた宝物を守る役目を負っています。

バービスター・ゴア、大地の守護者 Babeester Gor

 穏和で戦いに向かない女神たちばかりの“大地の部族”の中にあって、バービスター・ゴアは大地の守護者として血生臭い戦いに赴く荒々しい戦女神です。寺院の中で彼女を象徴するものは、まがまがしい鉄製の斧であり、それにはそれまでに殺した者の指や骨、陰茎が結びつけられていることもあります。

 かつて“大暗黒”のとき、死せるアーナールダの体から、バービスター・ゴアはこの世の破滅をもたらした罪人たちを罰するために雄叫びをあげながら生まれ出ました。黒髪と血塗られた斧を持つ彼女の前には、どんな恐ろしい神々でも逃げ出したのです。血の海に沈んで殺戮の血潮を飲んで暴れ狂うこの女神を止めることができたのは、血を酒に変えて彼女を酔い潰したユールマルだけでした。

 バービスター・ゴアの信徒は大地の寺院の守護者をもって任じています。女性だけから成るこのカルトの戦士たちは、大地を汚した者や人倫の道をはずれた者を容赦なく地の果てまで追っていって処断することで畏怖されています。

マーラン・ゴア、地震の女神 Maran Gor

 “大地を揺るがすもの”とも呼ばれるマーラン・ゴアは、地震を起こして大虐殺を楽しむ恐るべき女神です。彼女はずんぐりした女性の姿で描かれ、地面を踏みしめた足はその力を暗示しています。オーランス人の間では、マーラン・ゴアは祟り神として恐れられ、その怒りを避けるためにだけ信仰されています。彼女の祭壇は大地の寺院の中でもほんの数ヶ所にしかありません。

マホーメイ、炉辺の女神 Mahome

 家の女神のひとり。オーランス人の家を温める優しき囲炉裏の火の女神で、アーナールダとオーランスの間の娘です。彼女は永遠に絶えぬ炎で人々の体を芯から温めてくれます。マホーメイは残り火を入れておく壺か、それを抱えた百姓女として描かれます。寒気厳しいサーター地方に暮らす人々は、越冬の力を与えてくれる彼女への感謝の祈りをかかすことはありません。

ミンリスター、麦酒の神 Minlister

 家の神のひとり。オーランス人の間で最も愛されている酒がビールです。ミンリスターは神秘的な力を使って麦から黄金色の酒を作り出してくれる神です。氏族の醸造蔵には必ずミンリスターに捧げられた祠が設けられています。

グストブラン、鍛冶の神 Gustbran

 “神々の鍛冶屋”の二つ名を持つ神。“神々の戦い”で死んだ神々の骨である金属を打ち鍛える技を司り、オーランス人の鍛冶たちに信仰されています。彼の授けてくれる技と魔術によって、オーランス人の農夫は鋭い鋤を手に入れ、戦士は敵を打ち倒す魔法の剣を振るうことができるのです。彼は大きな炎の中心に目がある姿や、たくましい赤い肌の鍛冶屋として描かれます。

タイ・コラ・テック、死者の女神 Ty Kora Tek

 タイ・コラ・テックは、地界で死者たちの上に君臨する女王であり、オーランス人の間では葬送の女神として知られています。アズリーリアと姉妹である彼女は、死に装束に身を包んだ痩せこけた老女として描かれ、時には髑髏の顔で表されることもあります。彼女の信徒は、死者に死に化粧をほどこして墓地を守る墓守の役目を果たします。タイ・コラ・テックの司祭は、死者の世界の秘密に通じた者として人々の間では畏怖される存在です。


参集した神々

 オーランスの呼びかけに応えて嵐の部族に集まった神々は、嵐と大地のともがらだけではありません。世界中から、新しい時代で座を占めるためにさまざまな神々がオーランスとアーナールダのもとにやってきたのです。その中には、敵対していた神々の仲間もいました。オーランスはそうしたかつてのライバルをも、寛大な心で招き入れたのです。

エルマル、太陽の神 Elmal

 オーランス人の間で太陽として崇められる光の神エルマルは、もともとは火の部族の一員でした。彼はオーランスに命を救われた後、嵐の部族の女神をめとってオーランスの眷属に加わりました。その後、エルマルは主人が“光持ち帰りしものの探索行”に出た後、オーランスの館を守る衛士となって、ありとあらゆる襲撃をしりぞけたことで勇名をはせました。“曙”のとき、彼は天空に昇って太陽となり、以来、その輝きで地上を照らし続けています。

 エルマルは、天空にかかる太陽としての姿でよく表されますが、時には黄金の盾を持った金色に輝く戦士として描かれることもあります。

 エルマル信徒は、氏族の守護者です。彼らは外に冒険を求めるのではなく、かけがえのないものが敵や災いによって砕かれぬように全身全霊をもって守り抜くことを使命としているのです。エルマルが天空を確かな足取りで巡るように、エルマルの戦士たちも不断の見回りを常としています。エルマル信徒は優秀な護衛として、族長らを守る任にあたることもよくあります。

マスターコス、御者 Mastakos

 マスターコスは、冒険のさなかのオーランスに捕らえられた移動の神で、それ以来、オーランスの御者として忠実に仕えています。マスターコスはほぼいつでも主人であるオーランスとともに信仰されています。描かれる彼の姿は、トンボの牽く戦車を操る青い肌の男です。

へラー、雨の神 Heler

 穏和なヘラーは、忠義の鏡としてオーランス人の間で敬われています。もともとは水の部族の一員だった彼は、悪竜アロカに呑み込まれてしまったときに、オーランスの奮闘によって助け出されました。それ以来、ヘラーはオーランスの無二の親友となったのです。彼は雲を伴った青色の美青年として描かれます。

ドナンダー、楽人 Donandar

 ドナンダーは、音楽と舞踏と放浪を司る神です。彼は歌や踊りが生み出す豊かな情感や暖かな雰囲気をこよなく愛しており、小さな竪琴をかまえる姿で描かれます。

 ドナンダーは、吟遊詩人や楽士をはじめ、踊り子や歌手、旅の一座などといった大道芸にたずさわる者に広く信仰されています。オーランス人の集落では、ドナンダーの信徒は決して粗略に扱われることはありません。歓待の返礼として披露される彼らの芸能は、蛮族たちにとって何よりの娯楽なのです。

ユーレーリア、愛の女神 Uleria

 世界最古にして、あらゆるかたちの愛を司るいにしえの女神。愛の技を駆使して生きるさまざまな女たちによって積極的に信仰されており、彼女のカルトは官能の技を惜しみなく信者に提供することで知られています。大きな集落や街には、ユーレーリアに捧げられた娼館があり、一夜の歓楽を求める男たちを引き寄せているのです。ユーレーリアは豊満な女性か、魅力的な男性としてその姿を描かれます。


英雄たち

 オーランス人の歴史の中で、偉大な業績を果たした英雄たちもまた、神々の列に加えられて現代に至るまで尊崇の対象となっています。特に以下の三人は、サーターの人々にとって特別な意味を持っている英雄たちです。彼らに捧げられた社は、部族の中心地や街に行けば見ることができるでしょう。

ヴィングコット、勝利者 Vingkot

 オーランスの息子のひとりであるヴィングコットは、オーランス人にとって最初の英雄です。彼は神代、“神々の戦い”の中で右往左往していた人々をはじめてまとめあげました。それ以来、オーランス人は“ヴィングコットの子ら”(Vingkotlings)と名乗り、“光持ち帰りしものの探索行”のときまで生き延びることができたのです。

ヒョルト、導き手 Heort

 ヒョルトは、氏族の慣わしと掟を定めた偉大な英雄です。オーランスが“光持ち帰りしものの探索行”に出発して、加護を失って滅びかけていたオーランス人たちをもう一度まとめあげて団結させたのは、ヒョルトの偉業でした。現在、サーター地方に暮らしているオーランス人たちはみなヒョルトのもとに集った人々の末裔です。

“裸足の”ハルマスト、光持ち帰りし英雄 Harmast Barefoot

 “裸足の”ハルマストは、グバージの脅威が全世界を覆ったときに、行方不明となった西方の英雄アーカットを探し出すため、定命の者としてはじめて「光持ち帰りしものの探索行」を成功させた人物です。彼によって救出されたアーカットはやがてグバージを滅ぼしました。今も偉大なヒーロークエストを成就しようとする者は彼に助力を求めるのです。

アラコリング、ドラゴン殺し Alakoring

 アラコリングは、西の方ラリオスより到来し、「ワームの友邦帝国」によって惑わされ支配されたドラゴン・パスのオーランス人たちを解放した英雄です。彼は数多くの竜を殺した武勲で知られ、そのため“ドラゴン殺し”の異名をもって呼ばれています。そして、迷える同胞を導くためにはじめて王権の法を定めました。以来、オーランス人の部族は王を戴くようになったのです。

サーター、聖王 Sartar

 サーター王国の始祖であり、オーランス人に諸部族共和をもたらし、街の造り方を教えた偉大なる賢者。彼は死後、神となって王国を守護し、ボールドホームの寺院に置かれた“サーターの炎”は代々の王族たちにサーター王の助言を伝えていました。また、サーターの街々でも、都市建設者として礼拝が行われていたのです。

 ルナー帝国の侵略によって“サーターの炎”は消され、王国は滅亡しましたが、現在でもサーター王への信仰は、古き良き時代への思慕と蜂起への情熱とともにひそかに続けられています。


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