Rune-line

グローランサ

(4)混沌

Chaos

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2000/01/08 ぴろき

 混沌。
 それはグローランサ世界をむしばむ癌のような存在です。かつて神代の昔、混沌は世界の裂け目からやってきて、グローランサを一度は滅ぼしてしまいました。神々と生き物たちの懸命の努力によって世界は再生しましたが、今も混沌はあちこちから浸みだして、さまざまなおぞましい姿をとりながらグローランサとその住人たちをおびやかしています。

 ここでは、グローランサの住人のほとんどにとって究極悪である混沌について紹介します。


混沌とは?

 混沌はグローランサに本来内在してはならない“外側の”力です。いろいろな神話が語るところによれば、グローランサ世界は無限の広がりを持つ原初の混沌の海の中に生まれた泡のような存在だといいます。言い換えれば、あらゆるものがランダムに生成消滅を繰り返す混沌の海のただなかにあって、持続性のある確かな秩序を持った“入れ物”として生まれたのが、このグローランサという世界なのです。そしてこの小宇宙の中にはルーンと呼ばれるいくつかの諸力が生まれ、それらの反応・合成によって万物が創造されました。

 しかし、ルーンから生まれた大きな力を持つ神々がおたがいに相争ったことによって、グローランサという入れ物が揺れ動かされ、やがて細かなひび割れが走り始めました。水に浮かべた器に小さなひびが入れば水がそこからしみこんでくるのと同じように、亀裂の入ったグローランサには次第に“外なる”混沌そのものが入り込み始めたのです。神々は最初それをたいして気にもとめませんでした。ところが“不浄の三神”と呼ばれる邪悪な神々が強大な魔術を使って一気に世界の亀裂を広げ、大量かつ強力な混沌をグローランサに引き入れたことで、“入れ物”全体が砕け散るという悲劇に見舞われることになりました。これが世に言う“大暗黒”であり“混沌戦争”でした。

 “我が戦い、皆が勝った”の勝利と神々の“大いなる盟約”によって、砕け散った世界は奇跡的につなぎあわされましたが、一度砕けた器を修理しても亀裂が完全に消えることはないように、それ以来、混沌は常にグローランサに浸み入り続け、その部分の秩序を崩して破壊しようとしています。

混沌の神々


混沌の顕現

 世界に浸入した混沌の現れ方は、醜悪な怪物に代表される目に見えるかたちから、心や魂の堕落や腐敗といった目に見えないかたちまで多種多様です。共通しているのは、それが世界が“ほどかれ”て、いびつな形に再構成された姿だということです。こうして混沌によって再組織化されたものは、よほど強大な秩序の魔術を使わない限り、永遠にグローランサから逸脱した存在となってしまいます。そして、好む好まざるにかかわらず混沌の変異を周囲にもたらすようになります。こうした効果が、混沌がグローランサの癌と呼ばれるゆえんなのです。

 もちろん、秩序だったルーンの力によって存在しているあらゆる神々や生き物にとって、このように根源的な変異をもたらす混沌は完全に対極に位置する勢力です。それゆえにグローランサの生き物たちは混沌の存在に本能的な恐怖と嫌悪を抱き、決して許すべからざる絶対悪として敵視するのです。

 さて、もっともわかりやすい混沌の顕現が、さまざまな混沌の怪物たちです。以下ではそのうち数が多く有名なものを紹介します。いずれも他に劣らぬ邪悪さと力強さを持ち合わせた存在であり、ヒーローの行く手に立ちふさがる難敵として登場することでしょう。

ブルー

 おそらくは全世界でもっとも有名で、もっとも憎まれている混沌の種族がブルー族でしょう。山羊の頭とひづめを持った人型生物であるブルーは、もともとセントールやミノタウロスと同じ獣人の一種でした。しかし、ブルーの創造主である狂った風の神ラグナグラー(オーランスの兄でした)が野心にかられて“不浄の三神”のひとりとなり、世界に邪神ワクボスと混沌の軍勢を呼び入れたときに、種族全体が永久に混沌に汚染されてしまったのです。

 それまでブルーは多産な種族でしたが、混沌によってその力は身の毛のよだつような性質のものに変えられました。ブルーの雄はありとあらゆる他の種族を(男性すらも!)はらませることができる力を持ったのです。今では雌は種族全体のわずか一割にしかすぎず、ブルーはもっぱら他種族を強姦することで数を増やしています。そして、不運な母体に宿ったブルーの幼生は、時期が来ると母体を食い破って外界に現れるのです。こうして生まれたブルーは、母体の種族の頭部を持っていることすらあるのです! この許し難い背徳行為が、全世界でブルーが極めつけに憎まれている主因だといえるでしょう。

 混沌の尖兵として戦った神代以来、ブルーは他のすべてのものから憎まれ、狩りたてられてきました。しかしそれでも彼らは世界の辺縁部でしぶとく生き残り、その害をまきちらしています。ブルーたちは山間の洞窟などに集落をつくり、祈祷師を頂点とした呪術社会に暮らしていることが多いのですが、原野をさまよって略奪や暴行で生計をたてている野良ブルーも多いといわれています。

 ブルー族は“不浄の三神”を信仰しています。そのうちのひとりでブルーの始祖であるラグナグラーは神代に滅ぼされたので、現在のブルーたちは、ラグナグラーの妻であり強姦の女神である忌まわしきセッドと、病気の女神である暗黒の大精霊マリアを主に崇拝しています。

ドラゴンスネイル(混沌の蝸牛)

 ドラゴンスネイルは、混沌の力に冒されて途方もなく巨大化したカタツムリの一種です。二つの頭部を持つものも多く、その固い殻と知性なき貪欲な肉食性は生息地近くに住む生き物たちにとって恐ろしい脅威です。

 混沌戦争の終盤、ドラゴン・パスの東にあるプラックス平原で、雄牛の戦神ウロックス(ストーム・ブル)と混沌の総帥である“悪魔”ワクボスとの間で壮絶な戦いが繰り広げられました。ウロックスは数多くの味方の助力を得て何度倒されても立ち上がり、ついに飛来したスパイク山のかけら(それは秩序の塊そのものでした)でワクボスを地面にたたきつけて粉砕したのです。このとき、ばらばらになったワクボスの体から混沌に汚染された洪水があたり一面に広がりました。そして当時そのあたりに生息していた不運なカタツムリたちはこの水の呪いを受けて、ドラゴンスネイルへと変貌しました。現在もプラックスやドラゴン・パスで害をなしているドラゴンスネイルはそれらの末裔です。

スコーピオンマン(バゴッグの民)

 スコーピオンマンは、頭部、両腕、胴体は人間ですが、腰から下がサソリの胴体と脚になっているというおぞましい半獣半人の怪物です。彼らは起源も定かでない混沌の精霊バゴッグの落とし子であり、母なるバゴッグは何かを食らうと卵を産み落とし、そこから生まれたのがスコーピオンマンだといわれています。

 スコーピオンマンはあたかもアリのように地中の洞窟で巨大な女王を中心とした集団生活を送っています。また、地表で野盗のように小集団を組んであたりを荒らし回っている者もいます。まれに傭兵として無知な領主に雇われたりすることまであるといいます。

 スコーピオンマンは倒したり捕らえたりした敵を食らう習慣を持っていることで恐れられています。特に女王スコーピオンマンは、血塗られた儀式の中で哀れな犠牲者を食い尽くし、バゴッグと同じように卵を産み落とします。その卵からは犠牲者の胴体が生えた新しいスコーピオンマンが生まれるのです。おそろしいことにこうして生まれ変わった者は生前の記憶を残しているといいます。しかしほとんどの者がこの変容に耐えられず発狂してしまいます。

ウォクタパス

 ウォクタパスは巨大なタコに人間の胴体手足がついたような姿をした水陸両棲の混沌の化け物です。彼らの多くは湿気の多いところに暮らしているようです。

 ウォクタパスはその殺しにくさで悪名高い怪物です。彼らはすさまじい再生能力を持っており、たとえ五体ばらばらにしたとしても、しばらく時間が経てばつなぎあわさったり、新しい手足が生えてきたりして、数時間もたてば元に戻ってしまうのです。火ですら傷の再生を少し遅らせる程度の効果しかありません。おまけに、雑食性であるウォクタパスは飢え死にさせることすらできないのです。こんなほとんど不死の化け物を倒す方法は、強力な魔術を使って根本から消滅させるか、あるいは細切れにして酸か何かで完全に分解してしまうしかありません。そういうわけで、ウォクタパスは決して数は多くないものの、ぬぐいきれない混沌の汚点としてグローランサにはびこり続けています。

 ちなみに、ルナー帝国の悪食な貴族の中には、ウォクタパスをタコ料理のようにして食べる者がいるといいます……あくまで噂ですが。

オーガ

 オーガとは人食い人種のことです。彼らは完全に人間でとおる姿をしており、たいていは美男美女がそろっています。しかしよく観察すれば、オーガの歯は肉をかみちぎるために鋭くとがっています。もっとも、そこまで注意を払えるようになったときには、もう犠牲者にとって手遅れなことが多いのですが。

 オーガは“大暗黒”のときに、あまりのひもじさに耐えかねて、同族である人間の肉を食らうことで生き延びようとした哀れな者たちの末裔です。彼らはその背徳的な行為によって混沌に汚染され、やがて人間社会を内側から襲う破壊の尖兵になりはてました。オーガは混沌の神であるカコデーモン(悪鬼)を信仰しており、彼から自分の正体を隠す魔術を授けられています。このため、強力な魔術や尖った歯をのぞけば、オーガを人間と見分けるすべはほとんどないのです。おまけにたちの悪いことに、オーガたちは自分が他のすべての生き物よりも優れていると信じており、人肉食はその証拠であるとさえ考えているのです。

 なお、ふつうの人間であっても、何らかの理由から人肉食に手を染めた者は、神代の先達がそうであったようにまもなくオーガに変容してしまうといわれています。

ゴープ

 ゴープとは、いわゆる不定形の化け物……スライムのことです。“大暗黒”のころ、すべてを不定形へと変えてしまう変異の混沌神ポチャーンゴが大地に触れたために、固い不動の地面がぐにゃぐにゃとしてうごめき這いずりまわる不定形のものに変わってしまったのがゴープのはじまりだといわれています。

 混沌の変異性の化身であるゴープには、なにひとつ固いところや確かなところがありません。色も形も大きさも常に移り変わってとどまることがありません。こんな怪物には普通の武器は一切効果がないのも当然です。火と魔術による攻撃でしか、ゴープを滅ぼすことはできないのです。ゴープの生息場所は地下の洞窟やじめじめした場所にほぼ限られていますが、際限なく成長し、分裂繁殖するこの化け物を根絶するのはほとんど不可能でしょう。


諸処の混沌観

 混沌はほぼ全世界的に究極の悪だと見なされていますが、何を混沌と見なすか、混沌をどのように扱うか、といった具体的な対処法については地方によっていろいろと異なっています。ここでは、ドラゴン・パスの英雄戦争にかかわるヒョルト人とルナー帝国にかぎってその混沌に対する考え方を概観してみることにします。

ヒョルト人の混沌観……悪しき行いが混沌を呼ぶ

 ドラゴン・パスに暮らすヒョルト人にとって、明らかな悪である混沌の怪物を排斥するのは当然ですが、加えて彼らは同族殺しや強姦といった社会的タブーを破る行いそのものを混沌の現れと見なし、混沌が持つ伝染性ゆえにそうした反社会的行為が別の混沌(いちばん具体的には混沌の怪物)をその共同体に招き寄せると信じています。そのため、人倫に反する行いに手を染めた者は、所属する共同体(氏族や家族)から縁を切られた上、共同体のテリトリーから永久に追放されることになります。こうすることで共同体は混沌の災禍を避けることができると考えられているのです。

 また、年末の聖祝期には、神代に神々が混沌と戦ったときの偉業を模してどのヒョルト人氏族でも盛大な儀式が執行されます。もしこれが少しでも失敗すれば、それは世界に再びほころびを生じさせ、混沌を呼び込んでしまうことになるでしょう。ヒョルト人たちにとっては、先祖から連綿と続いてきたこのサイクルを乱すことは、即、混沌の襲来と世界の滅亡を意味するのです。

ルナー帝国の混沌観……すべては包摂できる

 ルナー帝国は、赤い月の女神が示した「われらはみなわれらなり」(We are all us)という理念をかかげて、あらゆる異なる文化・思想・生き方をルナー哲学のもとに統合しようとしています。その成立以来、帝国はおたがいにいがみあう諸文化・諸地域・諸宗教を女神の腕の中に“包摂”してきました。女神の“啓発”を受けて真の“ルナー人”となった者たち(多くは帝国の要職を司っています)にとっては、混沌もまた抱きとめるべきひとつの大きな力にしかすぎません。その証左として、赤い月の女神は神となる過程で、混沌の神のひとりである巨大な怪物クリムゾン・バットを自らの乗騎としてしたがえることに成功しました。クリムゾン・バットは今も帝国の敵にとって戦慄すべき存在であり続けています。また、ルナー帝国軍にはブルーなど少なからぬ混沌の怪物が参加しているともいわれています。

 さて、こうしたルナー人特有のいわばすべての価値観を相対化するような考え方は、“啓発”という特別な修練を経て獲得することができるといわれています。“啓発”の詳しい内容は、ルナー哲学の玄妙な体系に隠されてよく知られていません。ただ、これには第1期に現れ、グバージ戦争の中で姿を消した不思議な神ナイサロールがかかわっているといわれています。一説によれば、ナイサロールもまた月の女神の前世であったといいます。あるいは、ナイサロールは赤の女神によって復活を遂げ、ルナーの民を“啓発”に導こうとしているのだという説話も帝国内にはあるようです。


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