Rune-line

ターシュ王国

(6)ターシュを揺るがし、動かす者たち

The Movers and Shakers of Tarsh
原文/ピーター・メトカルフェ
訳文/まりおん&ぴろき

Rune-line

2002/01/23
この記事は英国の雑誌『Unspoken Word vol.1』より「The Movers and Shakers of Tarsh」を
作者Peter Metcalfe氏の許諾を得て翻訳したものです。
文中で使われているイラストは『Unspoken Word vol.1』より抜粋しました。

 モイラデスは1610年に死亡したと伝えられていたが、実際は生存している。

 しかし彼はもはや日常些末なターシュの支配に興味を失い、その支配を彼の息子ファランドロスを指導者とする王立評議会に任せている。そのかわり、彼はターシュ全土を変容させる強大な呪文を編み出すことを計画している。

 そうした中、最も豊かで、属領地の中軸国と呼ぶ者もいるこの国で、権力者たちはその力を用い始めている……。


モイラデス Moirades

ターシュ王

〈哲人王:153〉〈ヒーロークエスター:103〉〈長期計画者:52〉〈狂気あるいは啓発:102〉

ターシュ王モイラデス  1610年の「破滅的な遷移」(Crippling transformation)によってほとんど命を落としかけて以来、現在モイラデスは豪奢な宮殿からほとんど姿を現さなくなっている。しかし彼は不具となったわけではない。その経験により定命の存在の限界を超えてルナーの神秘を理解するようになったのだ。息子(ほんの学徒にすぎない)に彼の名を以て些末な「政治」を好きにまかせる一方で、彼自身はターシュを変容させる巨大な呪文のためにその精力を集中させているのである。

 呪文の準備のために既に多大な富が使われ、その完成のためにはさらに多くの富が必要とされている。彼は巨大なルナーのエネルギーで地を充たすため、七つの「スプロウル・パレス」(sprawling palace)を建立することを計画している。それが引き起こす衝撃のために寺院周辺では消失、擾乱、混沌への変移その他の騒乱が予想されている。モイラデスはそれを知ってはいるが、左様な些末な事はターシュが成し遂げることに比べれば何事でもないと考えている。

 呪文の下準備を終えた後、モイラデスはターシュの変化へ向けた準備を開始した。この最初の兆候は、全ての官吏にダラ・ハッパの役職名をあてることを命じた「コルツ」(Khorz)と呼ばれる布告である。モイラデスはもはや「王」ではなく、ターシュの輝ける「コルツ」なのである(訳注:コルツとは、ダラ・ハッパの大帝コルツァネルム(Khorzanelm)の名から由来すると思われる)。ターシュの自由(伝統的な自由とルナーの自由の双方)への冒涜であるにも関わらず、呪文の力のおかげで、反乱で数百人の命が失われただけで済んだ。モイラデスはこの結果に満足し、さらなる布告を計画している。


ファランドロス Pharandros

ターシュの摂政太子

〈有能な行政官:52〉〈イェルムガーサの入信者:5〉〈ルナー化されている:15〉〈憂慮する:10

摂政王子ファランドロス  ファランドロスはかつてはグラマー大学の新進の学徒であり、イェルムガーサへ入信するためにヒーロークエストをおこないさえした。だがモイラデスが病に倒れたため、彼は「最初の血の戴冠せざる王」(訳注:王の部族である“最初の血の部族”の代行族長)となったのである。彼は父王を退位させないことにしたが、父王の行おうとしている呪文を注視するにつれ、現在その決断を酷く後悔している。彼が憂慮するのは既に成されたことではなく、呪文によって行われようとしていることである。彼の父王に聴取することのできたわずかな者たちが語ったことは、彼をひどい不安に陥れた。もし属領地総督や“聡明なる”タティウスが彼らが語ることを一言でも耳にしたならば、帝国はサーターを征服したときのようにターシュに急襲するかもしれない。

 個人的な面でも、彼は安堵とは無縁である。モイラデスに無視されつづけたことで病み、母妃はサーター人とおぼしき不調法者と一緒に住み始めた。ファランドロスは母が相手の髪からノミをとってやっているなどと噂されるのにまったく耐えることができない。偉大なファザールと義兄弟の間柄であったことに誇りを持っていたものだったが、彼の不名誉な指揮が明らかになった今や、その関係は邪魔以外のなにものでもなくなった。さらに悪いことに、ファザールはその行いが恥であるを認めることを拒み、ファランドロスが同族を裏切ったと非難しているのである。

 家庭内の事情を棚上げし、ファランドロスは国内の事情に没頭し始めた。しかし彼が一つの悲哀を正すたびに、彼の同族の悪行がさらに10の脅威を解き放つといったことになっている。彼の母の行いはターシュの多くの人々の間での醜聞となっており、彼の権威を徐々に損なっている。悪意あるファザールは彼を貶めている全てに対して復讐するための一撃を伺っているが、いまだ傷ついたとはいえ彼の名声は偉大であり、投獄することもできない。彼の父の呪文はファランドロスが作り上げた収益を全て浪費する脅威となってきている。「コルツ」の布告があったとき、ファランドロスはそれを公式文書に限り、言葉や文書においては使わないとすることでなんとか反乱を避けることができた。しかし、七つの新たな大寺院の建立や、その結果として起こる混沌の侵入をどう隠せばいいのだろうか? 遅かれ早かれ、せき止められたいた意識が決壊し、王国を破滅の海が覆うのではないかとファランドロスは恐れている。


“博識”ファザール Fazzur Wideread

ターシュの将軍

〈野戦指揮官:14〉〈敵を理解する:53〉〈カリスマ的指導者:53〉〈ヤーナファル・ターニルズの帰依者:202〉〈立腹している:5

ファザール将軍  二度の罷免を受けた高名な将軍。ファザールは現在、自らの所領にこもり思索にふけっている。二度の罷免はファザールに非があるわけではなく、それが悪意から成されたものだということをファザールは理解している。

 一度目の罷免は、小人ソル・イールがパヴィスへの侵攻の中で道化にされた事に腹を立て、モイラデスが倒れた好機を利用して軍団から彼を放逐したものであった。しかしファザールは復活し、スターブロウの反乱を叩きつぶし、ヒョルトランドへ侵攻を果たした。彼はまたソル・イールの上官となり、ソル・イールからのパヴィスよりの異動願いを礼儀正しく却下しては面白がったのであった。

 二度目の罷免は彼がヒョルトランドへ侵攻している間に起こった妨害工作のスケープゴートとされたものであった。告発が間違っている事を知らぬものはなく、本当の理由は、いとこのユーグリプタスが酷い失敗をした後をファザールが継いだ事実に“聡明なる”タティウスが耐えられなかったからだ、ということを知っている。ユーグリプタスの無能で、死ぬ方法でさえ教えてもらわねば知らなかったという。タティウスは侍従たちをそそのかして皇帝の耳を手に入れ、ヒョルトランドへの侵攻に対して数々の妨害を行った。それが明るみに出ると、タティウスはファザールにその責を負わせて罷免したのである。

 罷免されたことよりファザールを傷つけたのは、ターシュの王宮がもはや彼を助けてくれないということであった。モイラデスは、解放(それがなんであれ)をもてあそんで気楽に喜んでいる乱心した馬鹿者である。だが、彼の義兄弟であるファランドロスは、少なくともタティウスの陰謀を阻止できたはずなのだ。だが、ファザールがターシュに戻ると、ファランドロスは大仰な儀式で彼を迎え、ターシュの将軍という地位を彼に与えた。ファザールはこの意気地なしの破廉恥漢に嫌悪以外のなにものも感じられなくなっている。

 疎んじられているにもかかわらず、ファザールは孤独ではない。多くの若い士官たちは今も彼を敬愛し、この偉大なターシュ人への恥知らずな扱いに対して陰気に不平を漏らしている。ファザールは彼らに対し、彼の偉大な勝利は時至ったときに行動する事で得られたものだ、と言って拙速を戒めている。彼の所領から、タティウスかファランドロスが間違いを犯すのをじっと待ち受けている。もしそれが起これば、彼は行動に移るだろう……


ミュティウス・スラックス Mutius Thrax

王国元帥

〈野戦指揮官:20〉〈行政官:13〉〈スタークヴァルの入信者:20〉〈コネが多い:20

ミュティウス元帥  ファーゼストの時事劇団が演じる「幻の豚狩り」によって不朽の逸話となった「忌わしの森」侵攻の失敗でもっとも巷間に知られているミュティウスは、戦場での能力ではなく、その行政手腕とスラックス一族の強い立場によって現在の地位を築いてきた。

 スターブロウの反乱での誤った指揮を理由にタティウスがファザールを告発したとき、ミュティウスはファザールの指揮に問題があったことに同意した。ターシュと帝国との間に溝を作りたくない(そうすることはターシュを一方的に敗者とするだけだからだ)ミュティウスは、ファザールを引退させるようファランドロスに進言するという誰もやりたがらない仕事を引き受けた。しかし、愚直な摂政太子はファザールに戦場でターシュ軍の指揮を執らせたかったので、彼をターシュの将軍に留任させたのである。

 予想通り、ファザールはその地位を悪用して直情的な若手将校たちの間で支持を集め、戦利品と武勲の約束を大盤振る舞いすることで、彼らを堕落させてしまった。ミュティウスはこの災いをさまざまなやり方で抑えることに忙しい。ファザールとの縁を切るよう大勢に圧力をかけたり、信用の置けない将校を転属させたり、頑固な問題児どもを処罰するために「名誉の法廷」を召集したりなど。しかし、ファザールが大手を振って歩いている限り……摂政太子は彼を逮捕するわけにはいかないのだ……ミュティウスは内戦をおそれなければならないのである。


“オレヴの息子”アンダース Anders Olevson

王国膳近侍

〈抜け目のない交易商:20〉〈ガーゼーンの入信者:12〉〈金銭のやりくり:52〉〈金持ち:102〉〈誠実:10〉〈ジャーノティアンの教えの信奉者(均衡を保つ):20

アンダース大臣  「七つの宮殿」にかかる支出を管理させるためにファランドロスが万が一にも弾劾される可能性のない人物を必要としたとき、彼には“オレヴの息子”アンダース以上の人選はなかった。裕福な商人であるアンダースは、かつて贈収賄を一貫して拒み続けたことでバグノットの人々を感動させた。いつもの勤勉さで自分の職務を遂行する一方で、アンダースは王の損にならないかたちでいかに支出を削減するかについて数多くの提言を行い、評議会に感銘を与えた。膳近侍の職があいたとき、王ですらアンダースがこれを埋めることを特に問題としなかったほどである。

 以来、評議会の政策はアンダースの哲学によって複雑さを増してきた。彼を腐敗から無縁としている典雅なルナーの教義は、同時に、どの派閥が支配的になることも避けなければならない過ちであると彼に信じさせているのである。このため、彼はファザール問題や王の魔術儀式、ファザールとその他の都市との確執などについても派閥の力関係に応じて陣営を行ったり来たりしている。彼の日和見主義な投票は時に評議会にかなりの不満を生むこともあるのだが、彼はいつでもなぜ自分が前と違う意見に票を入れたのかについて明快で筋道の通った理由を提供している。アンダースは、均衡が保たれることで、ターシュが来たるべき嵐をも耐え抜くことを望んでいるのである。


“雄牛のごとく吼える者”ボーリン Bolin Bullroarer

ファーゼスト市長

〈行政官:10〉〈ハーストの入信者:10〉〈バイソスの入信者:10〉〈金持ち:103〉〈欲深:15

ボーリン市長  ボーリンは一番最近のダート競技会で生き残った競争相手が皆次の一戦には生き残れないくらい弱体化した後に、市長となった。以来、ダート競技会は必要とされていない。というのも、ボーリンがファーゼストに打ち立てた支配権は、彼が消防士と夜警を掌握しているために揺るぎないからである。彼は途方もなく金持ちであり、時事劇団から百姓たちから指を一本ずつ集める領主として諷刺されている。

 欲深で権力欲が強いにもかかわらずボーリンが人気があるのは、彼が神聖な闘牛大会の後援者だからである。バイソス(訳注:ルナー帝国本土の一地方ペランダの雄牛神)の支持者として、ボーリンはペランダ地方の古風な儀式をファーゼストに持ち込んだのである。ライオンとオーランス人による見せ物に飽きた大衆は、体を青く塗った闘牛士たちの巧みな軽業と彼らの冒す危険に見せられたのである。戦いが終わると、雄牛は生き返って闘牛士を素早く切り裂いて殺してしまう。もし闘牛士の戦いぶりがよければ、ボーリンは親指を上に立てて彼の蘇生を命じる。もしよくなければ、ボーリンは中指をかわりに立てて印とする。

 ファーゼストはターシュで卓越した立場にあるため、ボーリンは王立評議会と密接にかかわって仕事をしている。彼にとってファーゼストの繁栄が何よりの望みであり、その目標をめざして政策への支持不支持を決めるのである。彼は時折、地平線上にたゆたう危機、すなわちモイラデスの魔術とファザールの不満、にやきもきしている。


“十の群の”ジャルサンドロン Jarsandron Tenherds

グレイズランドの王

 “十の群の”ジャルサンドロンは、“黒の”エンダルスドロンが正体不明の暗殺者に殺された後、1606年に輝く雄馬の王となった。彼はドラゴン・パスのパワーバランスがターシュとルナー帝国の同盟者に傾いていることを悟っていた。王としての最初の行動のひとつは、エンダルスドロンによる一連の夜討ちによって鼻っ柱を折られていたモイラデスとの関係を修復することであった。この借りは1610年にグレイズランド人の傭兵隊がルナー軍のパヴィス攻略の一翼を担ったことで支払われた。

 その後すぐにファランドロスが摂政太子となり、ジャルサンドロンはターシュとの友好関係を維持することに努めた。ファランドロスはグレイズランド人をほとんど無視し、1613年にスターブロウの反乱を鎮圧する際にも彼らの雇用を拒んだ。翌年、ジャルサンドロンはサーターへの襲撃を率いたが、襲った氏族のいくつかがターシュに忠誠の対象を変えていたことを知らなかった。ファランドロスは激怒し、つぐないを要求した。この侮辱に応えてグレイズランド人はターシュを襲撃し、ターシュも報復攻撃を行った(しかし残念ながら敗北した)。

 翌年、ファランドロスは大軍をグレイズランドに送った。ジャルサンドロンは“鉄の蹄”との古き同盟を呼び起こし、敵軍に数度にわたる素早い襲撃を行った。彼はヴェンドレフを守るために獣人たちを駐留させると、遠くから投射戦は行うが決して正面対決せずに、ファランドロスがグレイズランドの中を右往左往するように仕向けた。ジャルサンドロンはターシュ軍の食糧狩猟部隊を攻撃して、補給隊を捕虜にした。火の季の末には、ファランドロスは少数のヴェンドレフの集落を荒らすだけに甘んじながらターシュへと帰国した。

 この侵略は両陣営にとって多大な被害を出したため、ジャルサンドロンはファザールに使いを出して、毎年の貢ぎ物を申し出た。彼はルナー帝国がグレイズランド人の傭兵を雇えるという点で貴族たちを納得させた。ファザールはこれを了承して、ファランドロスとジャルサンドロンとの仲直りを取り持ったのである。


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