ターシュ王国は、属領地軍最強の戦力を誇っている。二万人の男女を組織化された連隊にまとめあげる力を持つターシュ軍は、ドラゴン・パスにおける帝国の尖兵である。
建国者アリムははじめて北ドラゴン・パスに散らばる諸部族に団結をもたらした。帝国と戦うために、彼は部族レベルの、後には王国レベルの組織を必要とした。グレイズランド人はターシュの民兵から成るシールドウォール隊と馬に乗る襲撃隊に強力な補助部隊を提供した。王とその支持者たちが持つ大地を揺るがす力はもうひとつの鍵となる要素であり、1362年の「落ちる丘の戦い」で披露された。
ターシュの部族連合軍、グレイズランド人、そして帝国からの加勢が、かつて誰も打ち負かせなかった遊牧民の軍勢に勝利をおさめた「クイントゥス谷の戦い」(1374年)の後、ターシュ人は帝国式の戦い方を学び始めた。かくして、オヴァーティン王の治世(1375-95)は古ターシュにとって画期的な時代となった。ターシュ人の断固たる意志と統率力が、グレイズランド人の速度と機動性と火力をあいまって成功をおさめたのである。しかし、彼の息子であるヤランドロスはターシュ人がグレイズランド人に騎兵戦力を頼っていることが弱点であることを正しく認識していた。
まる一世代が、征服譚と頻繁に襲撃の対象となった帝国からの略奪の成果を聞きながら育ち、そのことがさらなる襲撃に火をつけて、やがて襲撃は絶え間なく行われるようになった。帝国の相対的な弱体は無視され、成功に酔ったことで長期的な戦略は曇らされた。このことは後年、ターシュに破滅的な結果をもたらすことになった。
ヤランドロス王は強力な戦王であることを示し、その長い治世(1395-1440)と彼の父親による統合の努力によって、かつての部族連合は戦士王の鉄の支配下におかれた強大な王国へと変貌していった。彼が帝国と帝国の大半を占領していたペント人に対しておさめた成功は、自前の騎兵を設立し、かつてないほどの規模でプラックス人を雇った彼の努力に帰せられるべきものである。自前の騎兵を設けようという努力によって、ターシュは彼の治世の間、古きグレイズランド人の同盟者をあてにすることなく、王国の新たな兵力をつくりだすことができたのである。
1448年のオライオス王の死の時点が、独立国としてのターシュの絶頂期であった。このとき、ターシュはホーレイの大半、ファーポイント、西バラザールを支配していた。物情騒然たるクイヴィン族の土地にも手を伸ばそうとしていた。しかし、1449年から60年にかけて荒れ狂った内戦が、ターシュとその軍隊にとって破滅となった。高地の民は低地の民と戦い、町の民は山の民と戦い、大地の寺院は王軍と戦ったのである。
ターシュ軍は分裂し、ホーレイは手放された。イラロが最終的にターシュ王に即位したとき、彼が支配したのは大幅に縮小した領土とまったく姿を変えた軍隊であった。重騎兵はほとんどが壊滅するか四散していた。彼らは王国の支配をかけて激しくお互いに戦った貴族たちそのものであり、ほとんど生き残っていなかったからである。軍隊はその専業意識を失い、ふたたびほとんどが民兵と戦の群から成るオーランス人の軍勢になった。
フォロネステス王の支配のもと、ターシュは帝国の一部となったが、南ターシュは依然として独立不羈を保っていた。彼の治世に、北部および低地のターシュ人はゆっくりとしかし着実に帝国の体制へと組み込まれていった。戦時には、帝国は“同盟国”が南部人と戦うための強力な援軍を提供し、時が経つにつれてその軍勢は相当な発展をとげていった。
長柄の斧のパラシー(1538-55)は、戦術および物量において数少ない継続的な変化をもたらしたが、彼は後に自分の後継者たちによって効果的に使われることになる古ターシュの誇りを鍛え直した。彼は高地の民から成る軍勢を低地の民と並べて運用し、ヤランドロスの頃と同じように戦いでは陣頭指揮をとる王であった。これを実現するために、彼の宮廷はヤランドロスの突撃騎兵隊とほとんど同じ機能を果たしたのである。パラシーは新興のサーター王国と同盟する賢明さも見せ、多くの援軍を派遣させた。
しかし、その野心に見合うだけの軍隊を築き上げる資産を有した攻撃的な国をつくりあげたのは大王ファージェンテスであった。彼はパラシーと同じように英雄的な指導者であり、この偉大な戦士を一対一の戦いで殺したのである。ファージェンテスはたいへん攻撃的であり、次々と王国の敵や反抗的な味方に襲いかかっていった。その性格があまりにも獰猛であったため、彼は自らの手で六人の敵王を殺したことから“王殺し”と名付けられたほどである。ファージェンテスは戦略の達人でもあり明敏な政治家でもあった。彼は属領地を動かす力を使って、ターシュを帝国内で強い力を持つ国へとつくりあげていった。無尽蔵とも思える資金と帝国の後援にささえられて、彼は流民国を撃退し、強固な国境をはりめぐらせた。彼の息子は強大な王国を支配したが、父親の残した戦争という遺産のために、勃興するサーター王国との戦いに忙殺されることになった。何度となくサーターはドラゴン・パスにおけるターシュの利害と対立した。やがてこうした対立は帝国軍が皇帝自身の親征としてターシュへ送られるという事態に発展した。サーターの敗北とドラゴン・パス大半の占領にともなって、ターシュはこの地域における帝国の計画の立て役者となった。戦争を支援するためにターシュを通って流れる富と権力は、この国を飛躍的に富ませ、強大化させている。
属領地を構成するさまざまな王国は、その人口と経済力に応じて、属領地軍にいくつもの連隊を提供している。王国から供出された部隊は、地方守備軍と常備軍の二種類に分類される。地方守備軍は常備主力部隊を擁し、完全な正規軍としてのその力は普通、王国が攻撃を受けたときにだけ発揮される。これは軍役の一形態ではあるものの、属領地の王は望むならばこの軍隊を外国での戦争に向かわせる権限も有している。地方守備軍がこの形で使われたときには、属領地法によって常備軍としての給料が支払われる。もっともなことだが、属領地の大半はこうした召集を(場合によっては帝国や属領地政府の資金援助なしに))あまり頻繁に行えるほどの力は持ち合わせていない。
属領地軍部隊(地方守備軍の主力としてもはたらいている常備軍部隊)は、帝国軍と同じように常備兵であり、ミリンズ・クロスにある属領地野戦学院で将校を訓練する属領地布告に縛られている。属領地軍の将校たちは帝国軍とは流儀も能力も異なることに誇りを持っている。彼らはハートランド人は軍人としての真の心意気に欠けていると見なしている。その技術は認めるが、心根は惰弱だと考えているのである。彼らをして精強な部隊としているのは、この外見だけは文明人を装ったこの野蛮で好戦的な伝統なのである。さまざまな高地の民の部隊が、戦いにおける攻撃性と恐れ知らずなことで特に知られている。
属領地総督と皇帝だけが、属領地軍部隊を召集することができる。集められた後、彼らは軍としてまとめられ、その中には帝国軍の連隊が混じることもあれば混じらないこともある。属領地の諸王国全体に召集の号令が急報されるため、ドラゴン・パスに派遣される軍隊はひとつの属領地だけではなく、ヴァンチ、アガー、イムサー、ホーレイ、そしてターシュから来た部隊で構成されることになる。しかし、この方法は政治的な利害から問題を引き起こしてきた。ターシュはドラゴン・パス地方での戦争の遂行に一貫して乗り気だが、ほかの属領地はこの政策が属領地全体ではなくターシュ一国だけを富ませるものだと見ている。彼らの言い分では、ターシュが征服地からもっとも多くの利益を得るのである。この結果、ほかの属領地は皇帝の親征でなければ遠方の戦争に自国の軍勢を派遣することに難色を示すようになった。属領地総督は、不満の出ている属領地から集める戦力を削るかわりに、1611年の戦争税として知られる税を代償として支払うよう命じることでこれに応えた。この税から得られる収入は主にその巨大な軍隊と好戦的な拡張主義を助けるためにターシュへ送られている。戦争税はターシュをのぞいて、属領地全体で不評である。
典型的な王殺し隊員 |
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【バグノット歩兵隊、ダンストップ歩兵連隊、第一ファーゼスト歩兵連隊、第二ファーゼスト歩兵連隊、ガーディント歩兵連隊、ゴールドエッジ歩兵連隊、ペニス歩兵連隊、スレイブウォール歩兵連隊、タルフォート歩兵連隊】
属領地軍全体で、強靱なシールドウォール諸連隊は勇名を博している。常備の主力部隊のまわりに大半を成す非常備兵を置くというターシュの大規模で強力な野戦軍の伝統は、今日でも受け継がれている。シールドウォール諸連隊は、部族の戦力を維持している伝統的な体制を受け継ぎながらも、その伝統を属領地軍の構造の中に合体させているのである。各連隊は似たような装備をそなえており、それらは属領地軍から許可されている装備補給基地から受け取っている。彼らは同じやり方で戦うように訓練されており、同じ戦術を学んできた将校によって指揮される。しかし、これらの部隊の起源に応じて、その質にはいくらか地域的な格差がある。たとえばファーゼスト歩兵連隊は、伝統的な田園部から徴募された部隊が持つ精神と技能にいくらか欠けているとして、シールドウォール諸連隊の名を汚している。
ターシュは充分な社会資本によって物が豊富に供給されている。ファーゼストを中心として、ファージェンテスによって築かれた道路網があるおかげで、強力な軍隊はすばやく集まって、たやすく補給を受けることができる。帝国はこの王国をドラゴン・パスにおけるすべての作戦の前線補給基地として使っている。オスリル川を通ってやってきた膨大な軍需輸送は、この戦地全体に分散されるのである。サーター侵攻のために、主力の攻撃に先立ってかなりの補給基地が建設されたため、帝国の連隊は皆、手近なところで補給を受けることができる。作戦を継続するために、ターシュは多くの商人と契約を結んで、ドラゴン・パスに補給物資を輸送させている。この王国に投入される帝国と属領地の資金は驚異的に大きい。補給物資の分配は属領地の商人たちに契約で任されており、彼らは軍隊との利益の大きな契約を求めて激しく争いあっている。護衛隊は戦域で積極的な任務を受けていない連隊から派遣されている。
王本人の公式な勅令なしに地方守備軍に属さない私兵隊を持つことは禁じられている。部族の戦士たちであっても、個人的な護衛を属領地軍の連隊に編入させなければならないのだ。実際には、ファージェンティテスと少数の寵愛されている貴族たちが、一族の私兵を持つことを許されている。しかし、この決まり事は、王国内で開催されるダート競技会という形を使って、ターシュ貴族の間で“くぐり抜け”られている。多くの貴族は武器や武術にたいへん秀でた“召使い”を雇っている。同様に、好戦的な神々を祀る寺院の多くも、熟練した近侍武士を瞬時に葬ることができる司祭を擁している。
常備の連隊は城塞や根拠地である都市や周辺の町の兵舎に普通は駐屯している。連隊の軍旗と寺院が連隊本部なのだが、連隊の大半がほかの場所に駐屯していることはめずらしいことではない。連隊の補給中隊(別名“百卒隊”)が、退役しているが高い尊敬を払われる傷病兵たちとともに連隊本部に駐屯しているのはよくあることである。
シールドウォール連隊は召集がかかってから集合および準備に三週間かかる。常備連隊は普通、一週間で準備がととのう。
散開隊形の投射兵たちが戦闘中に敵戦線へ絶え間なく牽制射撃を行う間に、軽装歩兵隊が通常の展開を行う。敵が投射兵を追い散らしたら、彼らが戦闘に打って出る。
軽装のシールドウォール隊は数と堅牢さに頼る。陣形を崩すことはなく、一群となって整列して行軍できるよう訓練されている。彼らは軍隊のかなめであり、その他のことは何も訓練されていない。側面から攻撃された場合には、脇腹を突かれないよう運動できるだけの技術を彼らは備えている。敵の投射兵と交戦したときには、シールドウォール隊は敵の主力戦線に遭遇するまでの間、敵の射撃を耐え抜き、槍と剣を持って肩と肩をくっつけ、戦場のほかの場所で決戦戦力が勝利をおさめるまで戦うのである。
重装歩兵も似たような役目を負っているが、歩兵戦で決定的な戦力である。その突撃と技術による衝撃力によって強大な殺傷能力を有しているため、彼らは敵に近接してこれを撃破するのである。彼らは特に戦線の生命線を維持したり、敵の精鋭歩兵隊を迎え撃つことに秀でている。
ランスを装備した中騎兵は、ポニーより少し良い程度の標準的な馬に乗っているため、優れた重戦力としてはたらくことは考えていない。彼らの仕事は突撃して敵の投射兵を追い散らし、側面から襲いかかって敵の後背をおびやかすことである。もしチャンスがあれば、突撃を敢行する。追撃戦では、中騎兵は本領を発揮して、容赦なく効果的に潰走する敵を追いつめる。
重騎兵はターシュ軍にとって真の決定的な戦力を構成する。突撃の衝撃力、重装備の武具、そして高い技術を持ち、精鋭部隊として期待されている重騎兵が戦いの勝敗を決するのである。彼らの突撃は足並みをそろえることで最大の衝撃力を発揮し、いったん走り出せば激突するまで全力疾走で行われる。
ターシュ軍の作戦の主要な要素とは、中央にシールドウォールを構え、側面に騎兵戦力をつけ、軽装歩兵でこれらをかばう、というものである。常に予備戦力を残しておいて、好機が到来すれば両翼や中央に投入する。もし側面に縦隊を敷けるだけの戦力があるならそうするが、その移動を隠蔽するに適した地形でなければ行わない。敵戦力を消耗戦に追い込んでから、戦線を移動させて側面攻撃を成功させるというのが、ターシュの軍事教本の大要である。
ターシュの軍事戦略は複雑で、数多くの歴史的・地理的要因から決定される。ターシュには主流を成す三つの戦略思考派閥があり、折に触れて宮廷でお互いにしのぎを削っている。
流儀:手段を選ばずに事件や人々を操作する。モイラデスとファザールの両人が好例。
ターシュは周辺地域に正統な覇権を持っている。軍事力の行使は我々の政治的努力の失敗を意味する。ターシュは力を単なる政治の道具として使うことで、周辺地域を政治的・経済的・神話的に支配することができる。すなわち、ターシュがホーレイ、バラザール、サーター、そしてグレイズランドで主導権を握るべきなのは定められたことなのである。ターシュと国境を接するすべての国々は我々の勢力圏内にあるのだから、支配指向の政策を実際に行う対象である。彼らを支配することによって、彼らは我々の戦争を我々のために戦い、我々の優れた品物や技術を売り出すための格好の市場を提供するのだ。
流儀:荒っぽい軍国主義。征服と攻勢。
かつてターシュはホーレイ、バラザール、クイヴィン、ファーポイント、ケロフィネラを支配していた。彼らは我々のものであり、再び我々のものにしなければならない。彼らは惰弱な民であり、背骨となってはたらき、その愚挙と無能からすくい上げてくれるターシュの力を必要としている。それゆえ、この戦略は戦争を求める。戦争の中でしか、これらの国々は本当の意味でターシュの支配下には入らないからだ。経済支配と政治的同盟は、直接の軍事行動のかわりにはならない。サーターの征服はこの支配を復活させるための第一歩にすぎない。サーターが王国に編入されたあかつきには、我々は増加した富と資産を使って、ホーレイとバラザールへの次なる征服の波を準備することができる。
流儀:愛国的な国益第一主義。我々はもはやひとりではない。
我々は強大な帝国の先鋒である。帝国は我々が兵隊と資金、そして魔法的な助力を自分自身の目的のために使えるようたくわえておく無制限の機会をもたらしてくれたが、我々は帝国内の政争において機敏でなければならない。我々は帝国の屋台骨ではあるが、ホーレイやシリーラといったように、我々の地位を奪い、我々の勝利を自分たちの権力獲得の手段にしようとしている他の国々がいる。それゆえ、戦争、政治、経済、そして魔術はすべて何よりも重要な帝国内の政争で使わなければならない。我々が独力で勝利をおさめることは不可能であるがゆえに、我々は比類無き群の長たらねばならず、そして群の生存を確たるものとしなければならない。それなくしては、我々は敵地に放り出された一匹狼になりさがるのだ。
狂気の聖戦軍 The Insanity Crusade |
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オライオス王の軍がトルクの軍勢に滅ぼされたとき、この敗戦を生き残って、見失った血族たちを取り戻すためにトルク君主領に戻ることを誓った者たちがいる。かくして、「狂気の聖戦軍」が生まれた。時が経ち、どれほどの血族であっても生き延びられないほどの歳月が過ぎ去ると、聖戦軍は生き残った者たちを救出することから、死せる者たちを解放することへと目標を変えて存続した。数年ごとに、新たな聖戦遠征がトルクに向かって出征する。というのも、聖戦軍の司祭たちはオライオス王の霊魂がいまだ生きており、この狂気の土地に囚われているのが見えるからである。彼らはこの魂や他の者たちを解放して、適切な葬儀を行いたいと考えている。「狂気の聖戦軍」はターシュで唯一合法的に混沌と戦う戦闘集団である。彼らはしばしばどこであろうとも混沌が現れればそれを殺すために雇われる。彼らは禁止されている神ウロックスを信仰しているが、聖戦軍の隊員は入隊してから十年以内に聖戦遠征に参加すれば、彼を信仰することを特別に許可される。ターシュにいるウロックス信者はすべて入信の際に、聖戦軍に参加するか、無法者になるか、あるいは処刑されるかの選択を強いられる。 |
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