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ルナー帝国

(3)帝国軍

The Imperial Army

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2000/12/04 ぴろき

 ルナー帝国軍は、世界に冠たる力を持つ組織であり、帝国市民には安心を、帝国の敵には恐怖をもたらす存在です。つい最近まで(一部の湖沼をのぞけば)海に出たことの無かったルナー軍は、そのほとんどは陸上軍団によって編成されています。

 月の旗をかかげた赤き軍隊について概観します。


“剃刀”ジャ・イール Jar-Eel the Razoress

 ジャ・イールは、フワーレン・ダールシッパ、ホン・イールに続く“第四の月の息子”です。彼女は1621年現在、ルナー帝国最大の英雄ですが、国外ではそれほど知られてはいません。彼女は約三十年前に、イール・アリアッシュ一族の賢者たちによる数世代にわたる交配計画に基づいて誕生しました。彼女のこれまでの人生は、物理的・魔術的を問わずさまざまな試練と勝利に彩られてきました。

 ジャ・イールは生まれてすぐに「幼児軍団」の一員として、「シンディック大封鎖」を打ち破るべくフロネラのイーストポイントへの「月の船」による遠征に参加しました。ニーダン山脈を下ってフロネラに分け入る際、彼女の神々しい威厳と無垢さは、トロウル撃退に決定的な役目を果たしました。

 次に彼女は敬虔な戦士たちを女神の狂信的な兵隊へと変貌させ、この「血を流す者」たちはサーター征服戦争の時に、峻険きわまりないボールドホーム市の断崖を登るという試練を与えられました。「血を流す者」たちはこの試練に打ち勝ちましたが、フマクトによって赤の皇帝が重傷を負ったため、ジャ・イールの面目はつぶれた格好になってしまいました。しかし六年前、ジャ・イールは帝国にとって脅威の存在だった聖王国のファラオを捕らえて抹殺することに成功して、この不名誉をすすぎました。

 ジャ・イール最大の試練は、“深鍋”エルウリンの反乱でした。厨房奴隷に落とされた騎馬の蛮族であったエルウリンは、台所用品を振るってコスターディを席巻した奴隷反乱を指揮しました。反乱はすみやかに鎮圧されましたが、エルウリンは帝国にまた料理を供するくらいなら死を望んだのです。ジャ・イールは彼を救い、私的な時間を割いて正しい行いについて教え、肉体鍛錬を施しました。エルウリンは今では彼女の無二の腹心となっています。

 ジャ・イールは不屈の意志と明敏な頭脳を持っており、あらゆる試練に対してその強大な力を発揮してきました。あるルナー修道士は彼女について「人当たりがよく快活で、賢明にして眉目秀麗、神聖にして危険このうえなし」と表現しました。

 ジャ・イールは現在、ルナー・ハートランドで高まりを見せている「白い月の守護者」たちを論破し正道に立ち戻らせるべく多忙の日々を送っています。彼女は彼らを自分の哲学に改宗させて、“月の剣”の叡智を帝国全土に確立させることを望んでいるのです。


帝国軍の編成

 ルナー帝国軍は、現在のグローランサ最大最強の軍隊であり、巨大な動員力と広範な資源、そして奇怪な魔術と職業軍人の軍団を備えています。

 帝国軍の最高司令部は、“帝国の大君主”ベレックス・マキシムスを筆頭とする将軍会議「軍令部」(High Command)によって編成されています。ベレックス・マキシムスは、他には赤の皇帝とジャ・イールだけに許された称号「大将軍」(Full General)を得ています。

 軍令部は将軍が統括する下部組織を編成しています。四つある常備軍はそれぞれが「将軍」(Half General)によって率いられ、サトラップから資材装備を提供されています。

駐屯兵団 The Garrison Corps

 「駐屯兵団」は四つの常備軍の中で最大のものであり、帝国全土に無数に散らばる街や都市の守備隊を監督しています。兵の質は並で、将軍の幕僚は地元で任官されます。守備隊は公的秩序を保ち、重要人物を護衛し、パレードでは華々しく行進することをその役目にしています。彼らは敵の侵略からその土地を守ることを使命としていますが、現実には市壁を守るので手一杯です。オラーヤなどの最前線地方では、守備隊は実際に市外にも展開できるだけの戦力を持っています。

ハートランド軍と騎兵兵団 The Heartland Corps & The Cavalry Corps

 「ハートランド軍」は、重装歩兵および弓兵、軽装歩兵で構成された大規模な精鋭歩兵軍です。「騎兵兵団」は騎兵連隊で編成された精鋭軍です。この二つの兵団を統括する将軍は、前線は各連隊に任せて後方で指揮をとります。将軍は野戦司令官を幕僚として使います。

 この二つの兵団に属する連隊は、国外での行軍戦闘用に訓練されています。「渇きの高原」出身のアンテロープ槍騎兵などに代表されるように、この兵団は帝国の地方で徴募された特殊な部隊で構成されているのです。これらの兵団に入隊するには、駐屯兵団で抜きんでた功績をあげなければなりません。とはいっても、ハートランド軍と騎兵兵団が駐屯兵団を馬鹿にする、というようなことはありません。駐屯兵団は防衛用の軍隊であり、この二つの兵団は攻撃用の軍隊だからです。彼らが召集されるのは、よほどの非常時であるため、その結果も大虐殺などの悲惨なものに終わることが多いです。

近衛兵団 The Imperial Bodyguard

 「近衛兵団」はルナー帝国最強の精鋭軍団です。近衛兵団は地方で徴募されることはなく、他の兵団から精鋭を抜擢して入隊させます。各部隊はすべて訓練された神官戦士で構成されており、赤の皇帝から最大級の恩寵を受けています。この寵愛に応えるべく、彼らは皇帝を守ることに肉体と魂のすべてを捧げています。また、近衛兵団には「ヴァンパイア軍団」などの暗い噂が絶えずつきまとっています。

 近衛兵団の連隊長各人はそれぞれ他の兵団の将軍に匹敵する階級にあります。軍令部ですら、彼らに対しては命令ではなく要請を行うことしかできません。もし戦争に動員された場合には、その軍が大将軍に率いられていない限り、彼らは自分たちの指揮官にのみ従い、独立した指揮系統のもとで動きます。このため、将軍たちは近衛兵団の連隊をまるで腫れ物にでも触るように慎重に扱わねばならないのです。

戦時動員

 いったん戦争となれば、軍令部は四つの常備軍から必要な連隊を抜擢して一軍を編成し、将軍ひとりをその指揮にあてます。長期間の戦役の場合は、軍令部は将軍の賛否いかんに関わらず、諸兵団から適切な部隊を引き抜いて特別な兵団を編成します。現在、こうした兵団は二つあります。「属領地軍」と「赤の地軍」です。もうひとつの軍である「アロリアン軍」は、「シンディック大封鎖」によって連絡が途絶し、その将軍も「恐怖の夜」で死んだために、現在では紙上だけの存在です。

 将軍たちは全員が、自在に自軍の下部編成を組み替える能力に長けています。これは、彼らがすべてヤーナファル・ターニルズの入信者であり、神の教えと秘儀によって、自分の部隊を最も効率よく動かす力を授けられているからです。連隊長たちは必ずしもヤーナファル・ターニルズの入信者ではありませんが、多くの者がこの教えに従っています。ただし部隊によっては入信を禁じられているところもあります。


帝国の諸連隊 Regiments of the Empire

 以下は、帝国軍の代表的な連隊です。

エダススのジェンバルー痙攣隊 The Jenbaru Shakers of Edasus

 典型的な駐屯兵団の連隊である「エダススのジェンバルー痙攣隊」は、オラーヤに配置されています。ペント遊牧民によってエダススの街が包囲されたとき、女神デネゴリアは御使いであるジェンバルーをつかわして市民を導き、棒と石、屋根のタイルなどといった粗末な武器だけで侵略者を追い払うことに成功させました。以来、ジェンバルーは連隊の神として崇められています。“痙攣隊”と呼ばれているのは、ジェンバルーが顕現して司祭や戦士に乗り移るとき、激しいけいれんを引き起こすからです。

鉄靴軍団 The Legion of Iron Boots

 コスターディに駐留しているハートランド軍の連隊。ローン市の市民がセーブル族のサトラップに反旗をひるがえし、市内のセーブル族を全員抹殺したときに、その勇名をあげました。強固な石壁に守られたローン市は、屈強なアンテロープ槍騎兵でも破ることができなかったのですが、出陣した鉄靴軍団が市の周りを七回回って、左足を一度に打ち鳴らすと、それによって起きた地震によってローンの市壁は崩れ落ちたのです。帝国軍は市内になだれ入って反逆者たちを虐殺しました。鉄靴兵(Bootsboys)は戦闘前に戦場に地震を起こして敵の出鼻をくじくことができます。鉄靴軍団は現在もローン市の廃墟を駐屯地としてコスターディにとどまっています。

シャー・ウン・コサック隊 The Char-Un Cossacks

 騎兵兵団の精鋭として有名なコサック隊は、ルナー帝国の同盟者であるシャー・ウン族から編成されています。コサック隊は軽装騎兵であり、弱者を弾圧する残酷な軍隊として悪名をはせています。彼らの犠牲者のほとんどは地方で蜂起した農民たちです。


月の船 Moonboats

 ルナー帝国の誇る魔術飛行艇が「月の船」です。これらは主に伝令船あるいは輸送艇、偵察艇として帝国内で使われています。帝国外でも航行は可能ですが、「月の船」は赤い月の光の周期に直接影響され、新月のときには動けなくなるので非常な危険を冒すことになります。

 「月の船」を操縦できるのは帝国の中でも唯一、尊大な態度で知られるダージーンのイェステンドス族の船乗りたちだけです。「月の船」はそれぞれイェステンドス族のあるひとつの氏族から船員を募っており、このため「月の船」を新造するときには氏族間で乗せる船員をめぐって競技が行われます。「月の船」の多さがそのまま氏族の威信の高さになるからです。


魔術学院 College of Magic

 ルナー帝国軍が他の国々の軍隊に抜きんでて秀でているのは、魔道司祭を組織化して軍部隊に編成して用いている点です。他の文化圏でも、寺院によって特定の魔術を駆使できる魔術部隊が作られることはありますが、ルナー帝国はより柔軟かつ広範な魔術を軍が使えるように工夫しています。司祭たちは帝国内にあるさまざまな魔術学院で研鑽を積んで、大人数で協同して魔術能力を磨きます。魔術学院の存在によって、ルナー帝国軍はグローランサで並ぶもののない最強の魔術軍隊となっているのです。ただ、多くの軍指揮官は、野放図な魔術の使用のもたらすひどい破壊よりも、誉れある戦いでより後味の良い結果を残す方を好む傾向にあります。


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