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ルナー帝国

(2)帝国の体制

The Goverment of Lunar Empire

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2000/07/23 ぴろき
この記事はGreg Stafford氏の『The Lunar Empire』を
もとに書かれたものです。

 ルナー帝国は、高度に組織化された社会体制と支配の構造を持っていることで知られています。赤の女神の征服によって、神代以来、都市を中心とした帝政ヒエラルキーが確立していたダラ・ハッパ太陽文明を帝国に組み入れたことで、ルナー帝国もまた皇帝を頂点とするピラミッド状の社会体制を持つことになりました。事実、ダラ・ハッパの民からは赤の皇帝は、イェルムより連綿と継承されてきた第七十七代目のダラ・ハッパ帝位を継ぐ者だと見なされています。

 赤の皇帝の威令が届く帝国の領土は、大きく分けると四つの領域から構成されています。ダラ・ハッパとペローリア全域から成る帝国本土「ルナー・ハートランド」、西方の影響を受けた文化を持つ自治領「カルマニア」、帝国に征服された蛮族王国群「ルナー属領地」、そして帝国に協力している同盟国群「ルナー同盟地」です。帝国領は、おおざっぱに言って、円状に広がるルナー・ハートランドの周辺にその他の領域が広がっているという形になっています。この同心円の中心には赤の女神の昇天した跡であるクレーターとその脇に建設された帝都グラマーが存在し、そこから放射線状に他の帝国領に通商連絡網が走っているのです。


帝国の支配者たち

 ルナー帝国は、亜神である赤の皇帝を筆頭に、強大な魔術の力を有する神秘的な高官たちによって統治されています。

赤の皇帝 The Red Emperor

 赤の女神の息子である赤の皇帝は、ルナー帝国の絶対的な専制君主です。彼は不死の存在であり、過去何度殺されても甦ってきました。帝都グラマーに座する皇帝は、ダラ・ハッパの七十七代目の皇帝として、強大な帝国軍の大将軍として、そして赤の女神の創始したルナー・カルトすべての最高司祭として、帝国の全域に揺るぎない支配を敷いています。彼の言葉はそのまま法となり、すべての帝国市民は皇帝を神として崇敬しなければなりません。

 赤の皇帝は、かつてペントの遊牧民の英雄シェン・セレリスに殺害されました。復活した皇帝は、以来、数多くの「仮面」を変化させるようになりました。皇帝の「仮面」が変われば彼の性格もがらりと変わり、ひいては帝国の政策もまた劇的な変化を見せるようになったのです。現在の赤の皇帝の「仮面」は、幼児まで食卓に饗する悪趣味な美食と途方もない贅沢にうつつをぬかす欲深な退廃貴族のそれですが、いつなんどき再び「仮面」が変わるかもしれません。

 赤の皇帝は、最も神聖な誓約ですら、新たな意味をそこに付け加えることでねじ曲げてしまう力を持っています。かつて、「恐怖の夜」で帝国軍を助け、その後もたびたび帝国のために戦った悪名高い傭兵隊長エシルリスト卿は、その功績によって領地拝領の確約を赤の皇帝より取り付けました。しかし、実際に与えられた土地は、いまだ帝国の敵の手中にあるドラゴン・パスの山奥だったのです。卿は自力でその“拝領地”を斬りとらねばなりませんでした。同じように、帝国の同盟者であるシャー・ウン族も、エルフの暮らす巨大な森が生い茂った荒涼たる地方を領地として与えられたため、凶悪な炎の魔術によってエルフの森を残らず焼き払わねばならなかったのです。
 この力を駆使して赤の皇帝は、帝国や自分をおびやかす敵を策略に陥れて葬ってきました。当然ながらこの所業も帝国外でのルナーと皇帝の評判をおとしめている一因でもあります。

 赤の皇帝が最も憎むのは脱税者です。彼は税を逃れようとする不届き者を罰するために、帝国徴税長官“非情の官犬”アイヴェックスを大司祭とする「税の魔」(Tax Demons)のカルトを編成しています。脱税者は彼が使役する怖ろしい復讐の魔物に襲われることになります。

 皇帝はルナー帝国全土に赤の女神セデーニャの教えを定着させ、さらに帝国外にも布教を推進していく使命を母たる女神から負わされています。この崇高な任務のために、彼は自分の代理となる高官には、自らの魂の一部を乗り移らせて直接助力を与えます。ルナー行政府や帝国軍の最高幹部の多くはこの恩寵を賜って皇帝の意志を代行しているのです。

第一の輪…帝国最高政府 The First Circle

 赤の皇帝に直属する最高顧問団が「第一の輪」です。その構成員は赤の皇帝によって任免されますが、現在は帝国軍大将軍でもある“帝国の大君主”ベレックス・マキシムス、赤の皇帝に責務を負っていない数少ない者のひとりである“月の娘”グレート・シスター、ルナー・ハートランドを構成する君主領の総督(サトラップ)たち、などで編成されています。赤の皇帝の今の「仮面」が政務向きではないため、帝国の政策は事実上「第一の輪」の協議によって決定され、皇帝の名のもとに全帝国に発令されます。

サトラップ…君主領総督 Satraps

 赤の女神の復活以来、ルナー帝国が征服してきた土地の中でも主要な地域は、現在九つの「君主領」(サトラッピ、サルタネート)から成るルナー・ハートランドを構成しています。各君主領は「サトラップ」あるいは「サルタン」「総督」と呼ばれるひとりの大君主によって統治されています。君主領は帝都グラマーを擁する銀の影君主領を中心に、ぐるっと円状に配置されています。他の八つの君主領は、原聖地、コスターディ、オローニン、ドブリアン、カラサル、ダージーン、シリーラ、オラーヤ、と呼ばれています。

 サトラップは、管轄君主領の全権を握っており、治安の維持と防衛の責任を負っています。徴税や帝国の利益の確保だけでなく、都市内の警邏、消防などといった事細かなことまで、すべてサトラップの管轄事項なので、サトラップ各人は小規模な私兵組織を編成して、帝国軍などと協力して任務にあたっています。また、地元の貴族の間で争議が起きたときには、サトラップは当事者たちの訴えを聞いた上で、彼らだけに許された特殊な《包摂》の魔術で取りなします。ただ現実には、上程される案件が非常に多いため、ほとんどの場合、サトラップは「法官」(Judex)を代理として派遣し、事態の調停にあたらせます。

地元貴族…伝統の守り手

 ルナー帝国は、その発祥以来、実にさまざまな文化圏をその版図内に組み入れてきました。当然、征服以前にはそうした地域にもそれぞれ支配者たる一族や組織があったわけですから、帝国は彼らを圧伏あるいは懐柔する必要がありました。赤の女神の教えは、混沌すらもひとつの力として容認するほどの寛容性を持った哲学ですから、異なる文化圏どうしを結びつけるにはうってつけだったといえます。

 戦争であれ平和的な形であれ、ルナー帝国の勢力下に入った諸地域の支配者層は、赤の皇帝に忠誠を誓い、赤の女神の教えを推進するべく帝国に協力することを条件に、いにしえよりの伝統的な支配を続けることを許されました。そういうわけで、ルナー帝国の諸地域の法慣習や社会構造は、同じ帝国に属しているとはいえ、おたがいにほとんど外国に近いほど異なっています。各地の地元貴族は、自分たちの文化伝統に強い愛着を持っているので、逆にそれが不当に帝国政府によって侵害されたと感じた場合には、帝国に反旗をひるがえす旗頭にもなりかねない、という危険もあります。帝国の高官たちもそれはよくわかっているので、できるだけ地元貴族に対しては懐柔的な姿勢で臨んでいるのです。


帝国の臣民

 ルナー帝国に暮らす民草は、上は貴族に匹敵するほどの資産家から、下は売買される奴隷まで非常にさまざまで雑多な構成になっています。ルナーの教えによって統合された異なる民族や種族が混じり合い、特にルナー都市ではグローランサの他地域では見られないほどの多様性が現れているのです。そんな彼らルナー国民は、社会身分に基づいて相手を遇する習慣を持っています。帝国全土でほぼ共通している社会身分の大まかな分け方は以下の通りです。

選良 The Select

 帝国市民権を有する特権階級。「選良」となるには赤の女神のカルトに入信を許されなければなりません。赤の女神は、転変する月と同様に、数多くのアスペクト(相)を有しています。そうした各アスペクトごとにカルトが存在しているのですが、いずれのカルトであれ入信できれば帝国市民権が与えられて「選良」として遇されるようになります。

 赤の女神のカルトに入信するには、帝国が任命した宗教監督官「審問官」が課す試験を通過しなければなりません。これに合格するには、セデーニャの哲学について深い洞察を得ていることを証立てなければならないのです。普通、合格するだけの思想教育を受けるには、他のルナー・カルトで司祭級に匹敵するくらいの研鑽が必要となります。このため、「選良」に数えられる人々は帝国内でもごく少数であり、ほぼ例外なく帝国行政の枢要な部分に関わっています。逆に言えば、政府や軍隊内で高位の職につくには「選良」となることが絶対に必要となるのです。

 「選良」に選ばれた人々は、税や賦役の免除が受けられる他、磔刑や去勢といった残酷な刑罰を受けることはなくなります。また、地元のサトラップへの直接嘆願権、さらには皇帝の宮廷への直接嘆願権を獲得します。義務としては、当然ですが、自分の属する赤の女神のカルトへ新たに貢納を行わなければなりません。また、帝国の代表者として徳高く忠実に振る舞うことが期待されます。

少数 The Few

 「少数」に類される人々は、上記の地元貴族に該当する地方支配層です。

多数 The Many

 帝国の一般大衆である「多数」身分の人々は、基本的な法的権利を認められて自由民としての生活を保証されています。支配層である貴族や帝国官僚たちは、彼らをすべて皇帝の臣民として平等に扱わなければならない義務を負っています。「多数」身分となるには、皇帝への忠誠誓約をしかるべき当局や寺院の認可を受けて行えば許されますが、唯一、奴隷だけはこれを禁じられています。

他者 The Others

 帝国の最底辺に位置しているのが「他者」身分に類される人々です。彼らは基本的な法的権利を認められておらず、家畜同然に扱われています。奴隷、スケープゴート、犯罪者が主にこの身分に属しています。奴隷は持ち主の意のままに売り買いされますし、場合によっては処刑されても文句は言えません。犯罪者やスケープゴートたちは、都市内での生活を許されなかったり、最低限の告訴権も奪われたりしています。ただし、彼らは徴税の対象にはなりません。時折、皇帝の寛恕を示すために、こうした「賤民」たちが自由民に昇格する機会が与えられることもありますが、ようやく悲惨な身分から脱したとしても、待っているのは鬼のような徴税官なのです。

 外国人も厳密には「他者」身分に類されるのですが、しかるべき当局に登録を済ませれば、申請した滞在期間の間は「多数」同様に基本的な権利を帝国当局から保証されます。

 なお、カルトの中にはダンファイヴ・ザーロンやティーロ・ノーリのように、こうした最底辺の人々に何らかの救済の手をさしのべるところもあります。


ダート競技会 The Dart Competitions

 ルナー帝国は上記のような厳格な身分制度で構成されていますが、低位の者が栄達を遂げることは不可能なことではありません。事実、現在強大な力を誇る一門であっても、数百年前までは単なる凡百の中のひとつでしかなかったことなど珍しくもないからです。帝国では、これは有能な力を秘めた者を女神がその恩寵によって掬いあげたのだ、と言われていますが、現実は悪名高い「ダート競技会」によってそうした下克上の多くが達成されてきたのです。

 その名前の示すものとは異なり、ダート競技会とはすなわち一定のしきたりに従った暗殺合戦のことです。この名前は、ある有名な貴族が、運動競技会の最中に“毒塗りダートの誤射”で殺されたことに由来しています。今ではダート競技会は大がかりな大衆の見せ物になっており、ルナー貴族が資金を出して勝負を競います。競争に使われるのは一般には傭兵ですが、時には蛮族や魔術的な暗殺者までも駆使されます。この合法的な暴力手段があるため、どんなに有力な帝国貴族であっても常にその座から転落する可能性が残されているわけです。

 赤の皇帝は、帝国の税収に大きな影響さえなければダート競技会を認可しています。内戦で兵士や軍費を浪費するよりは、有力者どうしが少数精鋭を使って殺し合うほうがはるかに割に合うからです。ただ、時には、ダート競技会が皇帝の定めた一線を踏み越えてしまうこともあります。史上、帝国軍が鎮圧のため出動を余儀なくされた大規模な紛争は例がありますし、皇帝が“狂戦士”ハレックに殺されてしまうというとんでもないアクシデントもありました。


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