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ヒーロークエスト

(2)探索の道程
Heroes on the Edge

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2000/12/07 ぴろき
この記事は、「Narrator's Book」(Issaries Inc.刊)の第2章を参考に書かれています。

 ヒーロークエストは、大きく分けて準備、旅立ち、探索、帰還の四つの段階を経て行われます。そして実際の冒険行となる「探索」の内容は、冒険者が求めるものに応じて長さも困難さも千差万別です。ここでは、ヒーロークエストが実際にはどのように進められるのかを概観します。


準備

 ドラゴン・パス地方に暮らす人々の大部分にとって、ヒーロークエストとは神界への旅です。とはいえ、これはこの言葉の響きから来るイメージほど縁遠いものではありません。なぜなら、成人して宗教儀礼に立ち会うことができるようになった者は、毎年の祝祭日に司祭の導きのもと、寺院で神界渡りを行い、尊崇する神々の宮居に巡礼するからです。これは最も一般的で最も容易な形のヒーロークエストであり、その過程は「寺院→神々の住まい→寺院」という非常に単純なものでしかありません。困難があるとすれば、神界と地上の間を渡る行き帰りだけですが、祝祭日には大きな魔力が聖域で得られるため、司祭と信徒たちの持つ信仰の力とあわせればほとんど失敗することはありません。

 しかし、こうした定例の神界渡りをのぞけば、ヒーロークエストは例外なく大がかりで困難な儀式魔術です。非常に厚い異界とのへだたりを渡り、地上では想像もつかないような試練を切り抜け、神話上でしか語られていない偉業を達成し、そして再び帰郷しなければならないのです。

 そしてこの冒険行は、舞台からして地上での旅とは大きく違います。神界とはいわば“時”のはじまる以前である神代の世界そのものです。

 さらにそこでは時間は一直線に流れているわけではなく、因果律も崩壊して過去も現在も未来も一緒くたになっており、すべての事象が同時共存しているのです。創世直後の“緑の時代”、絶頂期“黄金の時代”、動乱期“嵐の時代”、おそるべき混沌戦争の“闇の時代”……ヒーロークエスターは文字通り、神話時代のまっただなかに飛び込むことになるのです。

 もちろん、広大無辺かつ地上の常識が通用しない神界は、予想も付かない危険に満ち満ちています。ヒーロークエストとはたとえるなら、南極大陸やサハラ砂漠に単身乗り込むようなものです。ですから、ヒーロークエスターは不測の事態に巻き込まれることなく確実に目的を達成するために、一定の道筋を旅立ちの前にあらかじめ決定しておきます。そして、彼らが神界での道程を決めるために用いるのが、古来より伝えられてきている「神話」の物語なのです。

神話の導き

 神界でのヒーロークエストは、以上のような理由から、神代に神々や英雄が行ったとされる事跡を忠実に踏襲することで行われます。まれに神話に記されていない道程をたどる勇敢(無謀)な者もいますが、それは極めつけに危険であり、ほとんど戻ってこれる可能性はありません。

 ヒーロークエストに旅立つには、まず何を目的として旅立つのか(どんな力を欲するのか、自分の属するコミュニティ、すなわち部族や街などにどんな利益をもたらしたいのか)をはっきりさせた上で、それを達成するには神話時代の誰の業績を踏襲すればよいのかをよくよく調べて、そしてその神々や英雄の冒険の道程をしっかりと研究しておく必要があります。まずこの準備だけでもひとつの冒険として立派に成り立つでしょう。なぜなら、グローランサでは、神話とはヒーロークエストを導く案内地図であり、それだけにそれぞれのコミュニティで厳重に管理されているからです。

 こうした下調べなしの状態では、そもそも旅立つことすらできません。万が一、何かの間違いで準備のない者が神界に放り込まれてしまったら、彼らはなすすべもなく迷子になってしまうでしょう。

協力要請

 上記の下調べともつながることですが、ヒーロークエストを行うには、地元民の協力が不可欠です。聖域の管理権を握り、神話の詳細を心得ているのは寺院にいる司祭たちですし、儀式に必要な道具などをとりそろえるにも人々の協力が必要となります。そして何よりも、儀式の傍衆として参加し、その信仰の力を貸してくれる者たちを多数集めなければ、神界との障壁を突破することはできません。

 また、ヒーロークエストの試みに異を唱える人が、賛成してくれる人よりも多いと、儀式はとても失敗しやすくなります。つまり、そのコミュニティの人々の賛同を得られないようなヒーロークエストは、最初の段階で頓挫してしまうのです。

 そして、協力者の数と熱意はそのままヒーロークエストの展開にもかかわります。ここで得られた判定ボーナスは、変換することで、旅の間じゅう探索行に参加している者全員が使えるアビリティ・ボーナスあるいは冒険の最終的な成否にかかわる“持ち越し点”(後述)にすることができるからです。

 あたりまえですが、自分たちが利益を受けないヒーロークエストに多大な手間をかけて協力する人などまずいません。冒険成功のあかつきには協力してくれたコミュニティに何らかの利益がもたらされるようにするのが、ヒーロークエストの王道だといえます。


旅立ち

 下調べをすませ、必要な協力者を集め終わったら、神話で語られている旅の手順に従って、ヒーロークエストが開始されます。

 “向こう側”に赴こうとする者は、普通、自分の宗教の寺院で神話にのっとった適切な儀式を執り行うことで、地上界と“向こう側”(例えば神界)との間にたちふさがっている神秘的な障壁をまず乗り越えなければなりません。この障壁は通常、103(すなわち70)もの抵抗値(Resistance)を持っているので、神話にのっとった長大で複雑な儀式をきちんとこなして確実に判定ボーナスを獲得しなければ、ほとんど破ることはできません。また、ヒーロークエストの多くが祝祭日に聖域ではじまるのは、聖なる時期や聖なる場所は莫大な判定ボーナスをこの儀式にもたらすからです。

 しかし、儀式魔術によって障壁を通り抜けて“向こう側”に行く以外にも、界を渡る方法は二つあります。

 一つ目は「魔力の地」(Power Spots)を経由して異界に入るやり方です。「魔力の地」とは、次元間の障壁が極端に薄い、または二つ以上の世界がまったく重なって存在している特殊な場所のことです。例えば、トロウルの集落の最深部にある地底の暗闇は、地界の領域と直接つながっているといわれています。また、神話上で特に重大な事件が起こった場所、例えば“光持ち帰りしものの探索行”の出発点である「勝利者オーランスの丘」、も異界に直接行くことができるポイントです。こうした場所には普通、寺院がすでに建設されていますが、時折、未発見の魔力の地に遭遇することもあるでしょう。古代の廃墟の奥深くなどではこのように人知れず眠っている魔力の地をしばしば見つけることができます。

 二つ目は「偶発的遷移」(Accidental Transitions)です。これは、本人が意図しないままに偶然に世界をまたいでしまうという、いわば事故です。このようにして“向こう側”に行ってしまった場合、多くは破滅的な結果を招きます。何の導きもないまま茫漠とした異界に放り出されれば、ほとんどの者は帰り道すら見つけることができないからです。こうした「偶発的遷移」には、人知れず次元間の障壁が破れている場所に踏み込んでしまうとか、突然発動した古代の魔術によって吹き飛ばされてしまうとか、あるいは遭遇した魔物によって引きずり込まれるなどといった例があげられるでしょう。

やってくるもの

 ヒーロークエスターが地上界から“向こう側”に向けて障壁を乗り越えることができるなら、逆もまた可能なはずです。事実、異界の存在や生物が、何らかの理由で“こちら側”にやってきてしまうことがあります。まれに自力で障壁を突破して到来するものもいますが、たいていの異界の存在は自分がもともといるべき世界に留まりたがりますから、彼らが地上界にやってくる場合というのは、ほとんどが魔術師による召喚に応えて(あるいは強制されて)のものになります。

 ただし、異界の存在は、地上界ではその本来の力をあまり発揮できません。これは、ヒーロークエストに赴いた者が、自分の宗教が支配していない次元に入り込んでしまったときと同様です。


探索

 首尾良く“向こう側”にたどりつくことのできたヒーロークエスターは、目標に到達するまでに、旅の進行をさまたげるいくつかの障害に遭遇して、これを突破しなければなりません。神界に赴いた者は、神話で語られているとおりの、神々や英雄が遭遇した数々の障害に立ち向かうことになります。

 ヒーロークエストの旅路全体は、いくつかの「ステージ」に分けられます。それぞれのステージには、ひとつずつ達成すべき目標が設定されており、これをクリア(あるいは失敗)するとそのステージは終了して、冒険者たちは次のステージに進むことになります。こうして次々とステージを経て、最終的には無事、地上界に帰還することをめざすことになるのです。

 なお、第1ステージはかならず「旅立ち」に相当し、障壁を乗り越えて“向こう側”に渡ることが目標となります。そして最終ステージは「帰郷」であり、再び障壁を突破して地上界に無事戻ることが目標となります。

 ヒーロークエストの帰趨を決める場面では、「クリティカル・ステージ」と呼ばれる重大なポイントが立ちふさがります。クリティカル・ステージは、他のステージと違って失敗が許されません。クリティカル・ステージで課された目標を達成できなければ、ヒーロークエストはその時点で失敗となり、冒険者たちは強制的に地上界へと戻されてしまいます。つまり、ヒーロークエストの儀式全体が功を奏さなかったことになるわけです。この場合、下手をすると、地上界とは言っても最初に旅立った場所からはるかに離れた(おそらくは見知らぬ)場所に放り出されてしまうかもしれません。旅人たちの前には故郷への長い道のりが待ちかまえていることになるでしょう。

持ち越し点 Carryover

 「Hero Wars」のシステムでは、ヒーロークエストの進み具合は「持ち越し点」という値で表されます。これが高ければ高いほど、探索行の成功の度合いも高いことを意味します。逆に、ゼロ以下の場合は、そのままではたとえ帰還してもヒーロークエストは失敗に終わってしまうということを示しています。ヒーロークエスターは、なるべくこの値を高く保つようにしながら、旅を進めていかなければなりません。

 成功度を示す数値が「持ち越し点」と呼ばれるゆえんは、これがヒーロークエストの各ステージの終了時に増減して、その結果が次のステージに“持ち越される”からです。そして非常に重要なことに、持ち越し点は次のステージでヒーロークエスターたちの行動に自動的につくエッジ()となるのです。もし持ち越し点がマイナスになっていれば、それはハンディキャップ(−)として課されてしまいます。つまり、成功すれば成功するほど旅はどんどん成功しやすくなり、失敗を重ねればそれだけ探索行の先行きは厳しさを増すことになるのです。

 持ち越し点の初期値は、最初に“向こう側”に通じる障壁を破ったときに得られた判定ボーナスを変換して得られます。先ほど、協力者の数や熱意がヒーロークエストの成否に直接かかわると言ったのはこの点です。旅の最初にどれだけ多くの力を結集することができたかが後々まで響くわけです。

 旅の途中での持ち越し点の増減は、各ステージごとに事前にナレーターによって決定されています。そこでのヒーロークエスターの行動成績、すなわち「完全勝利>大勝利>小勝利>最低限勝利>引き分け>最低限敗北>小敗北>大敗北>完全敗北」、によって、ステージ終了時に持ち越し点がどれだけ上下するかが決まっているのです。

 実際にどれだけ上下するかは、そのステージの神話的位置づけと重要性によって決まります。なるべく神話どおりの展開にすれば持ち越し点は増えます。つまり、神話の中で神々が敗北した場面に該当するステージでは、ヒーロークエスターも敗北したほうが持ち越し点は増えるのです。こういうステージで勝ってしまうと、神話に沿っていないということで持ち越し点は減らされてしまうことがあります。

 重要度の高いステージ、特にクリティカル・ステージでは、持ち越し点の増減の幅は大きくなります。逆に、脇道に近いステージでは、神話上の流れに沿うことができなくても、持ち越し点が減らないこともあります。また、必ずしも勝った場合と負けた場合のプラスマイナスはつりあってはいません。大勝利が+5でも、対する大敗北では−2ということは充分ありえるのです。

 そして、ヒーロークエストが終わった時点で持っている持ち越し点の値が、その旅の最終的な成否を決定づけることになります。

探索の試練 Quest Challenge

 神界を巡るヒーロークエストの多くでは、冒険者が新たなアビリティを得たり、あるいはすでに持っているアビリティを向上させる機会がどこかで与えられます。探索行のどの時点でこのチャンスが与えられるかについても、神話を参照することで知ることができるでしょう。または、ヒーロークエストに送り出した司祭たちが事前に教えてくれていることもあります。

 この機会は「探索の試練」という形で遭遇します。これは、自分自身の一部、すなわちアビリティを賭けた対決であり、負けたほうはアビリティや宝物を失い、勝ったほうは負けたほうが失ったそれらを獲得することができます。

 “探索の試練”は、ヒーロークエストのクライマックスとなるのが普通です。冒険者たちは神々と自分の最も得意とする才能や品物を賭けて対決し、身を証し立てて褒美を受け取るか、あるいは力不足であることを暴かれて罰せられるのです。挑戦者があまりにも非力であれば、神々は試練を受ける資格なしとして拒絶することすらあります。ヒーロークエストで何かを得るには、“英雄”といわれるにふさわしい力を何らかの形で持っていなければならないのです。

未踏地の探索行

 普通、ヒーロークエストは神話の物語の進行にそって進められます。しかし、ヒーロークエスターが、何かの理由から本来の道をはずれて、まったく指針のないところへと分け入ることもまれにあります。こうした未知未踏の場所への探索行は極めて危険で、二度と地上に戻れない可能性は飛躍的に高まります。しかしその一方で、この無謀ともいえる冒険を成功させれば、神話伝説でも語られていない偉大な力が入手できるでしょう。

 このようなヒーロークエスターの代表例が、第3期中頃のフロネラの英雄スノーダル王子です。彼は蛮族に侵略された故郷を救うため、北の果てヴァリンド氷河の彼方へと向かいました。誰も行ったことのない厳寒の魔境を突破した王子は、そこで神秘の王国アルティネラを発見しました。そこで祖国を救う偉大なる力と世継ぎを獲得したスノーダルは、無事帰郷を果たして王となったのです。

 もちろん、半端な力しか持たぬ者がこのようなヒーロークエストを試みるのは自殺行為以外の何ものでもありません。冒険者は、ヒーロークエストがアーカットによって発見されてから千年以上の時が過ぎた今でも、これほどの危険な旅から生還できた者はほんのわずかしかいないことを肝に銘じておくべきです。


帰還

 ヒーロークエスターが、クリティカル・ステージで脱落することもなく、無事、最終ステージ「帰郷」を終えて地上界のもとの場所に戻ってきたら、その時点での持ち越し点を確認します。これがプラスの値ならば、旅はいくばくかの成果をあげたことになります。マイナスの場合は、旅は失敗に終わったことを意味します。ちょうどゼロの場合はその旅は何の効果もなかったということです。

 持ち越し点がプラスならば、旅を始める前に決めておいた利益を、そのヒーロークエストに協力したコミュニティが獲得します。そしてその利益の効果は、ヒーロークエストの成功の度合いによって決まります。大きな成功をおさめればそれだけ長い期間、効果は持続します。

 逆に、持ち越し点がマイナスの場合は、コミュニティは冒険の失敗によって何か被害を受けることになってしまいます。この被害の程度と持続時間は失敗の度合いによって決まり、完全失敗だとコミュニティ自体が破滅してしまうのです。

 また、最終的な持ち越し点の大小は、ヒーロークエストのさいちゅうに冒険者個々人が獲得した能力や品物が、実際にどれほどの効果を持つのかということにも影響します。首尾良く“探索の試練”で勝利しても、旅全体が失敗に終われば、獲得した利益も目減りしてしまうかもしれません。

 ともあれ、危険が普通のヒーロークエストから無事帰ってこられたことだけでも立派なことでしょう。それに、英雄になる道程には挫折はつきものなのですから。


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