Rune-line

ヒーロークエスト

(1)神界瞥見
Into the Gods' Plane

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2000/12/04 ぴろき
この記事は、「Narrator's Book」(Issaries Inc.刊)の第2章を参考に書かれています。

 グローランサは神話と魔術の世界です。世界中の文化圏には必ず魔術を用いる人々がおり、むしろ普通の人々も日常的に神秘的な存在と魔術の力に触れているところのほうがグローランサにおいては一般的によく見られるのです。

 そして、魔術の核心には「ヒーロークエスト」(英雄の探索行)があります。ヒーロークエストとは、魔法を使う者が生身の肉体のままで“向こう側”、つまり神々や精霊の住まう超自然の世界へと分け入って、さまざまな試練を経て新たな魔法の力を授かったり、地上の物事に変化をもたらしたりする一連の大きな儀式のことを指します。

 ヒーロークエストにおいて訪問する神秘的な世界は、大きく三つに分けることができます。「神界」は、多神教の神々が住まう次元で、司祭をはじめとする信仰魔術を用いる人々が赴く場所です。「精霊界」は、この世の諸相を統べる無数の精霊たちが棲む七色の世界で、祈祷師をはじめ精霊魔術を使う者たちが分け入ります。「魔道界」は、一神教の論理に支配された次元で、魔道を操る魔術師たちが創世の力を獲得するために入り込みます。

 ヒーロークエストの様子はそれぞれの次元で異なります。それらを網羅するのはたいへんなので、ここではドラゴン・パスに暮らす人々にとって最も縁の深い「神界」への旅について概観してみることにしましょう。


神界...神々の戦場

 多神教の神々を信仰する人々は、ヒーロークエストで「神界」を訪問することになります。

 神界への旅は、聖地である寺院の中ではじまります。まず、信徒たちは寺院に参集して、司祭を筆頭に神を讃え、神界への扉を開く儀式を執り行います。この儀式はほとんどが聖祝日(季節ごとの祝祭日)や大聖日(1年に1回の大祝祭日)に、浄められた神聖な場所で行われます。地上界と神界との間をへだてる神秘的な障壁は乗り越えるのに大きな魔力を必要とするため、神々の力が集まりやすい環境をととのえなければ、旅立ちは難しくなるからです。

 儀式が成功すると、寺院は神々の力に満たされて“活性化”します。活性化した寺院の中はもはや地上界ではありません。儀式の場の外側にいる傍観者からすれば、何も変わることなく信徒たちが熱心な祈りを捧げているようにしか見えませんが、実際には儀式に参加した人々はすでに次元の壁を越えて神界の中に身を置いているのです。その証拠に、外部から彼らを害することはもはや不可能です。

 寺院が活性化して神界に移行したら、ヒーロークエストに旅立つ者たちは寺院を後にします。寺院を一歩外に出れば、そこはもう地上界の風景ではありません。そしてヒーロークエストから戻ってくるまでの間、彼らの姿は地上から文字通り消え失せます。寺院にいくつか設けられている出口は、いずれも同じ“神の領域”に通じていますが、それぞれが別の(神代における)時代につながっています。

 例えば、オーランス人はみな祝祭日になると寺院に集まり、礼拝儀式をした後、おもむろに寺院を出ます。するとそこは“嵐の時代”の「オーランスの広間」です。そしてそこで思う存分、神々とともに飲み食いして宴に興じるのです。その一方で、何かやるべきことがあって“黄金の時代”や“闇の時代”に向かおうとする冒険者は、別の出口を出てそれらの時代の神界へと向かいます。このように出口によって到着する時代は異なりますが、どの出口を出てもオーランスが統治する「嵐の領域」に出るのだけは変わりません。

 「嵐の領域」は、オーランス人の敬うすべての神々が住まう領域です。ここは巨大な山と森に覆われた国で、神話に登場する生き物や怪物たちが棲んでいます。実際の風景はどの時代に到着したかによって変わります。すなわち、“嵐の時代”ならば、オーランスの統治のもとで住人は楽しく暮らし、心地よい嵐が吹いています。“闇の時代”ならば、うつろな風が吹き渡り、土地は枯れて死に絶えています。

 ヒーロークエストを行う者たちの多くは、その任務をはたすために神々の領域からその時代の地上界に向かって降りていきます。降り方は領域によってさまざまで、「嵐の領域」ならば一陣の突風に乗っていくことになるでしょう。

 神界で行うヒーロークエストは、信徒たちが古来より伝承してきた数々の神話伝説を頼りに進められます。彼らは、神代に神々や英雄がたどった道筋や試練を経て、目的の場所までたどりつき、必要な任務を遂げることになるのです。途中では、神々や住人、あるいは神話上の登場人物の姿で別のヒーロークエスターに遭遇することになるでしょう。神界には“時”はありませんから、過去や未来の存在が目の前に現れることも不思議ではありません。ここでは時間は一方向に流れているわけではないのです。

神々の封土

 神界に赴いた者たちが旅をするのは、自分の信ずる宗教が描き出す神話の世界です。そして、この大きな領域の中には、それぞれの神々が住まい、自らの役割を果たしている場所がそれこそ無数にあるのです。こうした神々の封土の姿は、その宗教が基づく文化によってさまざまです。オーランス人の信ずる「嵐の領域」の神々の封土ならば、神々も信者たちと同様にオーランスを族長とする素朴な部族生活を送っており、神々各人は農場をもって点々とあちこちで暮らしています。

 熱心な信徒ならば、毎年の祝祭ごとに自分の崇める神の封土に赴いて、そこの住人と親交を深めていることでしょう。そして、彼らは死んだ後には慣れ親しんだ神の封土に生まれ変わるのだと信じています。

 また、神々の封土の中には、地上界と神界をへだてていた障壁に似た強力な魔力の結界で閉ざされている場所もあります。それらの多くは神々本人の住居であったり、特に重要視している聖域であったりします。例えば、名高い「オーランスのステッド」はこうした場所のひとつです。これら神界の深奥部は、そこに隠されているものに応じた手強いガーディアンや、天を付くような断崖とか向こう岸の見えないような大河といった乗り越えがたい地形によって不適格な者の侵入を拒んでいます。

領域の境目

 ある宗教の統べる領域の果てまで行くと、別の宗教が統べ、異なる神々を奉じる信徒が赴く異文化の領域との境目にたどりつきます。そこは神々の敵や倒すべき怪物が棲んでおり、領域を侵犯しようと襲撃をかけてくる神々の戦場です。

 例えば、オーランスの館から東へ東へと進んでいくと、やがて太陽神エルマルが農場を構える封土に至ります。嵐の神々の衛士であるエルマルの館を越えてさらに東へ向かえば、やがてペローリアの主神イェルムを長とする火の部族(天空の神々)の「天空の領域」との境目に到着します。その一帯はどちらの領域ともつかない係争地域で、嵐の神々と天空の神々との間で絶え間なく小競り合いが行われています。

 ヒーロークエスターは、こうした領域の境目を越えて、別の宗教の統べる“神々の領域”に旅することも可能です。ただし、敵対する神々の支配する領域に入った場合、そこでの行動には厳しい制約がかかる上、当然のように領域の住人たちから敵視され、襲われることになります。偉大なヒーロークエストには、こうした最大級の試練を乗り越えて達成されたものもありますが、これほどの危険を突破することができるのは、勇敢な冒険者たちの中でもほんのひとにぎりしかいません。

英雄界

 上で述べたような、いろいろな宗教が覇を競う数多くの“神々の領域”は、「英雄界」と呼ばれるより大きな領域の中にすべからく包み込まれています。領域の境目にある係争地域や、地上界と神界との障壁が非常に薄くなるグローランサの辺縁部も、この英雄界の一部なのです。

 この世界観を把握するにはこう考えてみましょう。一枚の紙に大きな円を描き、その中にたくさんの小さな円を書き込みます。大きな円全体が神界、中の小さな円がそれぞれの“神々の領域”、円の間の空間が英雄界、というわけです。

神界概念図

 英雄界は、地上界と神界とのへだたりが弱く“神々の領域”よりも入りやすいエリアです。英雄界の各地は、いろいろな神々や精霊、あるいは英雄たちによって支配されており、もちろんたいへん危険な場所も数多くあります。

 さきほど少し触れたように、地上界は、東西南北の果てでは神界との障壁が薄くなり、英雄界にスライドします。“光持ち帰りしもの”一行が地界に行くために訪れた西果ての国ルアーセラや、西方の英雄スノーダル王子がたどりついたヴァリンド氷河の果ての伝説の王国アルティネラは、こうした神秘の地の例です。

死後の世界

 世界各地の宗教は、ごくわずかな例外をのぞけば、いずれも死後の世界について語っています。グローランサの人々が死ぬと、その霊魂は肉体を離れて、宗教が定めた死後の世界へと旅立ちます。多くの宗教では、生前の行いによって“楽園”か“地獄”かどちらかに行くことになると教えています。神々の意に沿って美徳を行った信徒は楽園に行って喜びに満ちた死後の生を送り、逆に神々の教えに反して罪を犯した者は地獄に落とされて苦しむことになるのです。

 そして、死後の楽園および地獄も神界の中に存在します。

 前述した神々の封土に呼ばれてそこで暮らすことになる、というのは多神教の文化でかなりよく見られる死後の生です。こうした場合は、自分が生前帰依していた神々のもとではたらく栄に浴することになり、その神の封土が楽園となります。

 一方、地獄とされる場所は、その宗教で敵とされる神々が統べていることが多く、信者はそこで悪しき神によって苦しめられることになるのです。例えば、オーランス人の落とされる地獄は、干ばつと飢餓の神ダーガのおさめる荒涼とした荒れ地です。

 時には、ある宗教にとっての楽園が、別の宗教にとっての地獄になることもあります。これの一番代表的なものが、天空の神々の信徒と暗黒の神々を奉じるトロウルとの関係です。前者にとって楽園である天空の世界は、静かな永遠の暗闇を安息とする後者にとってはおそろしい光に満ちた地獄なのです。

 これらの楽園や地獄とは別に、神界の中には「死者の国」とされる幽冥の領域がいくつも存在しています。オーランス人の間では死者の女神タイ・コラ・テックの支配する土地がこれに該当します。こうした場所には、それぞれ見分けがつかなくなった心も感情も持たない死霊たちが無数に棲んでいます。

地界...底無しの暗黒

 神界にある「地界」と呼ばれる部分は、ちょっとかわった領域です。普通“神々の領域”は宗教ごとにはっきりと分かれて存在しているのですが、地界だけはほぼどの宗教でも、陸と海の下に茫漠と広がる原初の暗闇が無限にたゆたう土地として言及されているのです。

 もうひとつユニークな点があります。地界でもやはり、それぞれの宗教にいる暗闇を司る神々がそこここに自分の領域を構えています。例えばカイガー・リートールの領域と、アズリーリアの領域は別々に離れています。ところが、地界に生息するいろいろな暗黒の魔物や生き物は、ほとんどどんな闇の領域であってもその姿を見ることができるのです。

 こうしたあいまいさは、どうやら地界では、神界・精霊界・魔道界の区別があまりはっきりしていないらしいという点にも現れています。先ほど出てきたトロウルの母神カイガー・リートールをとってみれば、彼女はトロウルの守護女神として神界に住んでいますが、同時に精霊界でもトロウルの始祖として暗闇の精霊たちを守っています。さらに闇を操る魔道でも彼女に相当する存在が呪文を提供しているのです。

 地界は神々ですらも見通すことのできない漆黒の闇に包まれた世界です。そしてその深淵については誰もはっきりとしたことを語ることはできません。“光持ち帰りしものの探索行”のクライマックスが地界の“沈黙の宮廷”であったことを想起すれば、ここが偉大なヒーロークエストの舞台となるべき場所であることは確かですが、その未知さゆえに他の“神々の領域”とはくらべものにならないほどの危険が待ち受けていることでしょう。

帰還

 ヒーロークエストを終えた信徒たちは、最後に誰を同道していたかに関係なく、自分が旅立った寺院の中に再び出現します(手をつないでいてもだめです)。旅の終わりと同時に寺院を神界へと移行させていた儀式も終わり、寺院の中の現実は再び地上界に戻ります。神界で過ごした時間と、その間に地上界で流れた時間には、若干の差異が出ることが知られています。その割合は、おおよそ神界での1日に対して、地上界での1〜5日といった具合です。神界での時間のほうが長くなることはあまりありません。

 地上界にいる者が、神界での時間の流れを正しく推し量ることはできませんが、昔からの経験上、予想される冒険期間の5倍の時間を越えてもヒーロークエスターが戻ってこなければ、何か事故があって旅が失敗に終わったのだと人々は推定します。


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