Rune-line

ターシュ王国

(7)ファーゼスト……新生ターシュの申し子

Furthest, child of the new Tarsh
原文/マーク・ガレオティ他
訳文/ぴろき

Rune-line

2003/11/19
この記事は英国の雑誌『Unspoken Word vol.1』より「Furthest」を
作者Mark Galeotti氏の許諾を得て翻訳したものです。
文中で使われているイラストは『Unspoken Word vol.1』より抜粋しました。

「光り輝く宝石、白き壁の宿り場、
高き家、神の館、競技場、大広間。
その家は石にて造られ、その広場は石にて敷かるる、
この都こそすべての旅人の安らぎなり」

── 短歌詩人ドロファッツ

 ファーゼストは1492年以来ターシュの首都であるが、もともとは帝国様式の都市を披露するモデルケースとしての目的を持っていた。そして以来ずっと歴代諸王が自らの権威と権利を世にしらしめるために、最近ではターシュの新たな富を名高くするために、絶え間なく拡張・改良されてきた。なにしろここは戦略的・神話的に重要な場所である。というのも、この街は六百年以上にわたって、常に同じ姿ではなかったにせよ、この位置にあり続けてきたからである。このルナー化された都市は古い大地の都市の礎石に上に築かれ、この大地の都市はワームの友邦帝国の廃墟の上に築かれていたのである。ここには古いゴーストや精霊たち(これにはワームの友邦帝国起源の奇怪なものまで含まれれる)といった霊的な層だけではなく、物理的な層もある。地下廃墟、地下墓地、丸天井部屋は暗黒の大地の女神たちの信者によって使われている。礎石が崩れた場所には正体不明の穴があいており、全市規模の下水網建設計画にとって旧都市の残骸は永続的な危険要因なのである。事実、この計画の先鋒隊となって頻繁に障害となる怪物を退治するために雇われた傭兵部隊「衛生発掘連盟」は、この都市でもっとも強靱なヒーロー・バンドである。

ファーゼスト遠景図

 遠くから近づくと、この都市は非の打ち所がないほど壮観である。ぐるりと巡らされた巨大な白い壁(すべて大理石製であるだけでなく定期的に磨かれているのである)に取り囲まれながら、平らでよく整備された石畳の道が劇的なまでに彫刻された門を通って街の中に入っていく。都市の周囲にある正方形の農地では奴隷がはたらいており、「大地の貴婦人たち」の聖地である「最初の畑」をのぞいて、王国膳近侍局の管理のもとで運営されている。そのすぐかたわらにはソラーナ・トールの「歯の館」がある。

 街の反対側には、公式には「剣の野」、一般には「ファージェンテス砦」と呼ばれている軍事駐屯地が不規則に広がっている。砦と都市の間という地の利のおかげで、「壁の外のファーゼスト」といわれる貧民街は、駐屯地の雇い人や熱心な入隊志願者が、無宿人や外国人、果ては一攫千金を求める者たちと一緒に当局の許可なく住みつく地域となっている。

 都市の定住人口は約二万人である。もっとも印象的な門は東側の「蛮人門」であり、サーター方面を向いて開いている。一方、オスリル河畔地区は街の南壁に沿ってだらしなく横たわっており、この沿岸には「奴隷市場」「魚市場」「ファーゼスト港」という三つの突堤群がある。

 市内は格子状の区割りで占められている。しかしそれでも旧都市のいささか乱雑な地取りも、区画内でしばしば間に合わせとして使われている迷路のような路地にいまだ生き残っている。表通りは一般に石畳や丸石敷きになっているものの、多層住宅や中庭のある屋敷、あるいは各地区の寺院といった建物の狭間には、曲がりくねって薄暗い裏路地や、おもいがけない場所にある小さな広場や、人目につかない曲がり角がある。今でも、新しい木造住宅を建てるためにある日突然路地の入り口がふさがれたり、逆に街の作業隊によって不法建築物が壊されて新たな通り道ができることはかなり日常的に起こっている。公式の区割りは整然としているのだが、それでもファーゼストの毎日の道案内はそれだけで冒険なのである!

ファーゼスト市街図

 この街の区割りは、無数の広場と広小路がまだら模様に散らばっており、そこには噴水や庭園、彫像が設けられている(この中には有名なカシドールとイネルドゥスによって設計製作されたものもある)。

 七つの主要な広場(スクエア)は文字通り“正方形”(スクエア)であり、正確には大地のカルトの領地である。この中にはホン・イールに捧げられたものもあり、そこの丸石敷きの一個一個にはトウモロコシの意匠が刻まれている。「ホン・イールの大広場」には、ほほえむ男をかたどった大きな銅像が緑青をまとってそびえている。この彫像が魔法を内包しているのは間違いないが、それが何を、あるいは誰をかたどったものなのかには諸説紛々である。中にはこれはパイジームサブとつながりがあり、ホン・イールが彼の霊魂を都を見守らせるために冥界の川の向こうから引き戻したのだ、とまで言う者もいる。

 この広場にすぐかたわらには「ベレストの高台」がある。ここはこの街を最初に建てた建築家であり、現在は街のワイターである“壁職人”ベレストにささげられた丘である。この丘には見かけは素朴な社が立っているが、これは実際には隠された地下寺院への入り口にすぎない。この寺院では、毎年の「壁の日」に王がファーゼストの繁栄と安定を祈願して儀式を執り行うのである。最近この街を襲った三つの大災害、すなわち1593年の大火、1604年の大悪疫、1610年の大凶作(街はまる一季節の間、抑えきれないほどの数のカモメとハトの大群に悩まされた)、はすべてその年のこの儀式が敵のヒーロークエスターに邪魔される(1593年と1604年)かもしくは王が執行できなかった(1610年)に起きているのは不思議なことではない。

 絶え間ない再建途上にある都市にふさわしく、建設作業はいたるところで行われ、粗雑な木製のクレーンや足場(そしてさらに粗雑な労働者の徒党)はよく見られる光景である。裕福な地区では、新たな建築物の大半が大理石でできており、そうした場所では、富や権力を誇示するための浪費が日常茶飯事である。ファーゼストの住民の間では、「一週間食いつなぐより、一日派手にやるほうがよい」と広く言いならわされている。もっと貧しい地区にあっても、高級に見せようという明らかな努力が行われている。そうした場所では、荒打ち漆喰や厚板や丸太の家屋が、漆喰を塗り直されたり、白く磨かれたりして、遠目に見れば大理石に見えるように仕上げられている。だが、古風な町屋や長屋は、いわゆる“高屋”に取って代わられ始めている。高屋とは、白く磨かれた煉瓦で造られた、三階か四階、まれに五階あるインスラ(訳注:古代ローマの街の一区画のこと)のことである。建設作業が続くに連れて、貧民は手早く私的に造った高屋へと移転を余儀なくされており、そうした場所で彼らは家賃を払って半信半疑ながら満足している。しかし、家賃を支払うことができなかったり、あるいは支払う気がない者たちは依然として住む家がないため、「壁の外のファーゼスト」(別名“もっと向こう”)のあばら屋やぼろ家屋があり、市内の公園に無宿人がたまっているのである。これらは次の祭やパレードにならなければ排除されないだろう。

 寺院のない街路など無いというのは正しい言いぐさである。こうした寺院は、イサリーズと大工オルスタンに捧げられた小さな寺院から、完成間近の印象的なドブルドゥンの新寺院まで大小さまざまである。多くの寺院には実用上の役割がある。例えば、セルヴェン・ハラの寺院は教会であると同時に、大きな旅籠としての役目があるし、ユーレーリアの寺院も……独自の目的、すなわち公認の娼館としての役割がある。河に近いオスリラの寺院は、アクアマリンの三つの円蓋がある壮大な建築物である。

 さらに、ほとんどの政府庁舎は、国王直属のものを別にすれば、実際には関連する寺院の一部なのである。「アーナールダの家」には穀物倉庫があるし、「エティリーズの広間」は大きな屋内市場であり、地元の「度量衡監視局」の本部も兼ねている。

 ファーゼストでもっとも奇妙で衆目を集める寺院のひとつであり、「バーリの丘」の上という一等地にあって目に入りやすいところが、「ルナー残響の寺院」である。人の超常にある大きな「月の石」の円盤が、昇月の寺院からやってくるグローラインのエネルギーを拾い上げて、市壁と中央の王宮地区を照らす「月の円球」に力を与えている。ルフェルザの大聖日には、ターシュ全土から巡礼にやってきた人々が、ファーゼストを一望できる丘に集い、「ファーゼストの明かり」の移り変わりを見守る。このとき、その輝きは最高潮に達し、街は光り輝く赤い円蓋と化すからである。

 しかし、グローラインがまれに“青く消え”、「月の円球」が消えたときには、これはパニック級の不安を引き起こし、暴動や略奪を引き起こすきっかけとなってきた。もうひとつの著名な場所としては、モイラデス王によって設けられて街の一角全域を占める「属領地大学」がある。寺院と図書館と書写室が壁に囲まれて密集しているこの施設は、独自の勅許のもとで運営されており、属領地全土、時にはハートランドからやってくる学生や職員を擁している。

 王個人は公式には市の支配者ではないことを覚えておくのは大切だ。その役目は王の家臣であり市長である“雄牛のごとく吼える者”ボーリンに任されている。王は「最初の血の戴冠せざる王」でもあるが、この役目は王の代理である「ワイバーンの臣」が代行している。このため、ファーゼストは宮殿だらけである。王は王宮の他に、「最初の血の大広間」を持っているが、これは象徴的な位置にあり、維持管理され、警備され、人員が配置されているが、王自身は住んでいない。かわりに「ワイバーンの臣」が「ワイバーンの広間」で執務しており、その脇には市長官邸である「統治の広間」がある。これに加えて、部族長それぞれについてファーゼストに宮殿があり、属領地総督の地方代官である帝国大使用にも宮殿がある。

 王と「最初の血の部族」は、自らの権威を拡張し、かつファーゼストの群衆を楽しませてその注意をそらすための都市開発計画に莫大な資産を投入している。「蛮族門」から続く中央街路は、サーターとオーランスが最終的に打ち負かされたときに行われる凱旋式に備えるため道幅が広げられている最中である。モイラセウムという名で知られる大劇場は完成間近であり、竣工のあかつきには大剣闘士競技会がまる一週間開かれることになっている。

 突き詰めれば、パンとサーカスがファーゼストの統治の鍵となる側面である。例えば「トウモロコシ配給所」とティーロ・ノーリの救貧院は「王の厨房」によって援助されている。満月の日になると、ここは「勝利の大広場」での軍旗分列行進式と国王歓呼とが行われる「大証言」に参加した全員に、一袋の穀物、一袋のジャガイモ、そして一杯の麦酒を提供する。より原始的な欲求を満たすために、「勇気の輪」は剣闘士試合と、翼を折られたスカイブルと戦う儀式化された闘牛をどちらも開催する。

 王への支持と自分たちが富裕かつ強大となったことを忘れてはいないということを疲労するために、アリム派のうちもっとも強大な貴族のうち五つの家が、ダラ・ハッパの建築家を呼び寄せて、ガマラ寺院を設計し建設した。ここでは馬にかかわる数多くの競技が催される。その中庭は直径二百メートルの大きなダート馬場で、たいていの日には訓練場として、土の日には馬市場として、そして荒の日には競技場として使われている。この馬場は壁のない円形で、草場に立てられた細かい彫刻の施された柱にぐるりと囲まれている。また、馬の女神の似姿に彫られた大きな中央柱があり、寺院の中には“馬を砕く者”ハイアロール、“馬の司”エルマル、“馬の母”レダルダといった、他の馬や騎手の神々に捧げられた社が設けられている。

 競技自体には、競走、障害物競走、騎乗決闘、チャラダシュ試合が含まれる。チャラダシュとは、曲がった棒に旗をひっかけて試合場を駆け、柱に載った矢筒の中に入れる競技である。競技の多くで勝者となるのは、最後まで馬に乗っていた者である。というのも、競走であっても、相手の騎手を鞭や拳で打つことが認められているし、多くの馬は隣の者を噛んだり蹴ったりするように訓練されているからである。競走は、馬場の端から端までの疾走であったり、あるいは馬場を何周も廻るものであったり、あるいは毎年開かれる「ファーゼスト・スプリー」であったりする。これは、「レダルダに選ばれたるもの」の称号をかけて、街路を高速で駆け抜ける競技で、毎年多くの馬や騎手がけがをしたり死んだりする。ここでは賭博が行われており、ハイアロールの社は伝統的に賭博師たちのたまり場である。

 ファーゼストの民は実際、賭博好きで悪名高く、それが他のターシュ人からの軽蔑をかう理由の一端である。数多くの変種がある一般的な冗談のひとつに「ファーゼストのブランディグ」の話がある。彼は扉が叩かれるのを聞いた(あるいは誰かが自分の隣の寝床に入ったことに気づいた)。「誰だい?」と彼はたずねた。「ボルターだ。おまえの兄貴だよ」といらえがあった(あるいは「ブランディゲ、あんたの嫁だよ」)。「賭けるかい?」。そうして、彼は自分が翌日の戦いで死ぬ方に賭けた。ブランディグは絶対に必ずばかげた賭けに負けるのであり、他のターシュ人たちは、しばしば「賭けるかい?」という言い回しを会話の中に入れて、ファーゼストの民を馬鹿にするのである。しかし彼らは意に介さない。賭けに忙しいからである。ガマラ寺院が提供するものほど俗悪でない娯楽を求める者には、例えば、「ファーゼスト演劇再演団大劇場」が高尚な叙事詩から低俗な喜劇まで一年中公演を行っている。だがここでも、拍手の長さから聴衆の数に至るまで、賭博は繁盛している(ブランディグはかつて「ミキルの災いの歌」の悲劇的主人公であるミキルがその後幸せに暮らすことに賭けたのだと言われている)。

 しかし時には、遊興が取り締まりに取って代わられることがある。ファーゼストは軍備に固められた都市であり、市内には守備隊と王国軍が駐屯し、「剣の野」には野営地がある。市内の治安維持は「王の盾士」である王の従弟サペリデスに率いられる王国連隊が、「黒羊の兵舎」を拠点に行っている。結局のところ、ドロファッツのたいてい陽気な描写にもかかわらず、暗黒面のない都市などないのであり、やはり独自の暗黒街がある。オーランス信者の反乱分子、ターシュ流民の支持者、陰謀団や混沌のカルト信者、そして富み栄える裏にある、ますます増え続ける持たざる者と不満をつのらせる市民がいる。彼らは伝統と一族のロングハウスが提供する安全を、高屋と王の慈善事業という匿名性の中で失ってしまった者たちである。


ターシュのヒーロー・バンド

 ファーゼストのダート競技会の常連二組。

奪うもの The Takers

 

チャンピオン団 Champions


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